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毎日、微笑みの貴公子をボッコボコにしたいと企んでいる公爵令嬢ですが【ナターシャ】
10. 不届き者
しおりを挟む(コ、コイツは……!)
苦しそうに呻いて転がってるジョシュアとわたくしの前に飛び出してきた不届き者が更に叫び声を上げます。
「ナターシャ様! 分かっていますか!? そいつはジョシュア・ギルモアですよ!?」
不届き者がジョシュアのことを指さしてそう言いました。
(知ってますけど?)
わたくしは心の中でだけ答えます。
突然、飛び出して来たので何事かと思いましたが、風貌がジョシュアの口にしていた通りなのでコイツが不届き者で間違いなさそうです。
お父さまやエドマンド、その他護衛たちにも緊張が走ります。
「あなたはジョシュア・ギルモアのことを憎んでいるはず……それなのに、デートに出かけて手を繋ぎ、抱きしめ合い、こんな人前であーんまで……! 頭がどうかしてしまったのではありませんか!?」
(不届き者にだけは言われたくないですわぁ……)
気持ち悪い手紙をわたくしに何通も何通も送り付けといて何を言っているんですの?
「ナターシャ様! 何か言ってください! ……俺は」
「!」
不届き者が険しい表情でわたくしに向かって手を伸ばそうとしたその時でした。
横で転がってたはずのジョシュアが立ち上がって不届き者の手を掴みます。
(ジョシュア……!)
真っ先に動いたのがまさかのジョシュアだったため、わたくしは息を呑みました。
「ジョシュア・ギルモア! なっ!? 何をする!」
「……」
ジョシュアは答えず、いつものようにニパッと笑います。
しかし、なんだかいつものヘラヘラした様子の“ニパッ”とは違うような気がしました。
「なぜ、いつも俺とナターシャ様の邪魔をするんだ!」
「……」
ニパッ!
「は! 分かったぞ! ジョシュア・ギルモア、貴様が嫌がるナターシャ様に無理やりデートをするよう迫ったんだろう!」
「……」
ニパッ!
「そ、そうでなくては、ナターシャ様が憎い貴様とデートなどするはずがない!」
「……」
ニパッ!
「……っ、あ、憧れの……あーんまでナターシャ様にしてもらうとは……ず、図々しい奴……め!」
「……」
ニパッ!
ジョシュアに“ニパッ”を連発されている不届き者は、明らかに動揺し始めていました。
(やはり、軟弱者のようですわね……)
なんだかわたくしでも倒せそうな気がしてきます。
「……何とか言え! き、貴様は昔からそうだった! いっつもいっつも、さも当然といった顔でナターシャ様の側に、い、居やがって!」
「……」
ニパッ!
(心外ですわぁ……)
それだと、何だか四六時中わたくしとジョシュアが行動を共にしているかのように聞こえて不快ですわ……
そう思ったわたくしは、思いっきり顔をしかめます。
「……」
ニパッ!
「くっ、昔から変わらないその笑顔……!」
ジョシュアは頑なに口を開きません。
ジョシュアのくせになんて冷静な行動……とわたくしは意外なその姿に驚きが隠せません。
そんなジョシュアを見ていたらわたくしの方も落ち着いて来ました。
(不届き者の正体がコイツだったなんて……)
こうして姿を見せてくれたことで、ジョシュアもコイツがどこの誰なのかはっきり分かったのでしょう。
だからこそ、こういう対応をしているに違いありません。
「いいか、俺はあれから長い時間をかけて地位を取り戻したんだ!」
「……」
ニパッ!
「だから、俺はナターシャ様を迎えに来た! 驚かせようと思って手紙もたくさん送ってみた!」
「……」
ニパッ!
「ナターシャ様なら名など書かずとも“俺からの手紙”だと分かってくれるからな!」
(分かるわけないですわよ!?)
この男、阿呆ですわ!
そしてとにかく昔から、妄想が激しいんですの。
「ジョシュア・ギルモア! いいから、俺の未来の妻から離れろ!!」
かつてジョシュアにボッコボコにされて姿を見なくなった男。
まさか、未だに生き延びていてコソコソコソコソ息をしていたとは驚きですわ。
そんなこの男との出会いは、まだまだわたくしたちがベビーだった頃に遡ります─────……
『オ~ホッホッホ! 耳の穴をかっぽじってよーく聞きなさい、ベビーたち!』
その日、わたくしはいつものようにお父さまに連れ去られてギルモア家にお邪魔しておりました。
ニパニパ笑ってるジョシュアとピクリとも表情を変えないアイラお姉さまと、なぜ、自分がここに居るのか分かっていないような顔をした弟と可愛いおリボンの取り合いをしながら戯れていたその時です。
ガーネットおばあさまが高らかに笑いながら部屋に登場しました。
『あうあ!』
『…………ぅぁ』
『あぶぁ……?』
『ばぶぁ』
ジョシュア、アイラお姉さま、わたくし、エドマンドそれぞれが振り返ると、ガーネットおばあさまはパンパンと手を叩いて言いました。
『エドマンドが誕生してベビーたちも賑やかになって来たわね!』
『あうあ!』
『そこで────もっと多くのベビーたちに触れる機会を作りましょう!』
ガーネットおばあさまがにっこり笑ってそう言いました。
『あうあ!』
『ぅ』
ジョシュアとアイラお姉様さまは心得たとばかりに元気よくお返事をし、
『あぶぁ?』
『ばぶぁ?』
わたくしとエドマンドは突然の話に首をかしげておりました。
どうやらもっと同世代のベビーたちと戯れさせたい!
などという話がどこからか出てきたことでの話だそうですが、それはまるで“ベビーの集団お見合い”の場のようなものとなりました。
結果としてその場の主役は、微笑みの悪……天使と呼ばれるジョシュアが全てを掻っ攫っていくことになるのですが……
コイツ……この不届き者はその時に出会ったベビーの一人です。
名前はロッキー・ビセット。
ビセット侯爵家の嫡男ベビーでした。
『ぷぁ!』
───オマエ、カワイイな! オレのミライのつまになれ!
『あっばぁあ?』
───どちらさまですの?
この時、アイラお姉さまと一緒に他の家のご令嬢たちと可愛いおリボントークでキャッキャウフフしていたわたくし。
ロッキーはそんなわたくしたちの輪に馴れ馴れしく近付いてきたと思ったら、わたくしに向かってそう話しかけて来ました。
今思えば、名も名乗らずに公爵令嬢のわたくしにこのような偉そうな態度……とても無礼な奴でしたわ。
『ぷぁあ!』
───オレのこのみだ!
『……』
ジョシュアといい、この男といい、人の話を聞かない男ばっかりでわたくしはとても呆れたのを覚えております。
『ばぶぁ!』
───ねえさま!
『えあうぁ!』
───エドマンド!
すぐに異変に気付いてくれたエドマンドが助けにハイハイしてそばに来てくれました。
……が、この時の参加者の中では一番年下で小さなベビーだったエドマンド……
『ぷぁっ!』
───じゃまだ!
あっさり退けられてしまいました。
今なら公爵家の令息になんてことを! と大問題になりそうな出来事ですが……
当時の大人たちの思惑は知りませんが、ベビーにはまだまだ身分の差など理解出来ておりません。
ですから、このような無礼な輩はベビー界でも結構いたのです。
ですが、わたくしのように自分の身分というものをしっかり把握しているベビーも中にはいます。
ジョシュアもその一人です。
そして、このロッキーの態度が偉そうだったのも、彼は自分が“侯爵家の嫡男”という自覚を持っていたからでしょう。
ただ、わたくしが唯一の公爵家の令嬢で無礼に退けたエドマンドがその嫡男だとは分かっていなかったようですが。
『ぷぁぁ!』
───あそぶぞ!
『あばぶぅあ!』
───いやですわ!
ご令嬢たちとおリボントークをしたかったわたくしは、はっきりお断りしました。
ですが、ロッキーはその後も、『この俺の妻になれるのは幸せなことなんだぞ』などとしつこかったのです。
すでにジョシュアをボッコボコにするために鍛え始めていたわたくしが、一発殴ってやろうかしらと思ったその時でした。
『────あうあ!』
聞き覚えのある声が背後からしたのです。
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