最恐家族は本日も無双中 ~ギルモア家と愉快な人々~

Rohdea

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毎日、微笑みの貴公子をボッコボコにしたいと企んでいる公爵令嬢ですが【ナターシャ】

11. 存在を消されてた男

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 わたくしが振り返ると、当然そこに居たのはジョシュアでしたわ。

『あっぷぁあ……』
『あうあ!』

 現れたジョシュアはいつもの調子でニパッとわたくしたちに笑いかけましたの。

 ────なんだか、たのしそーなこえがいっぱいです!

『ばぶぁうぉ!?』

 ────“たのしい”ですってぇ!?     あなたどこにおめめつけてるんですのぉ!?

 ジョシュアはそんなわたくしの抗議の声も……

『あうあ!』

 ────もちろん、おかおです!

 ニパッと笑って流すのです。

『あっぷぁあ、うあっあ~~』

 ────ジョシュアァァ、あいわらず、にくたらしいですわあ~~

『あうあ~~』

 カチンッと来たわたくしが怒りのあまり突進し、頭突きをかましますがジョシュアはヘラヘラした顔でされるがまま……
 そんな時でした。

『ぷぁぁ!』

 ────なんてつよいオンナ! ますますオレこのみだ!

 なんと、ロッキーがキラキラした目でそんな気持ち悪い発言をしたのです。
 わたくしはヒッと小さな悲鳴を上げました。
 そこに再びジョシュアが動きましたの。

『あうあ!』
『ぷぁ!』

 ────ボクとあそぶです!
 ────ダレだおまえは!

 すでにこの時、大人たちの社交界の中では怒らせてはいけないベビーとして有名だったジョシュアも、わたくしたちベビー界の中では単なるベビーの一人に過ぎません。
 ですから、ロッキーは失礼な口を叩き続けましたわ。

『あうあ!』

 ────ジョシュア・ギルモアです!

『ぷぁ!』

 ────オレはロッキーだ! きさま、さっきからヘラヘラしやがって……!

『あうあ!』
  
 ───さあさあさあ、ボクとあそぶです!

 ニパッ!
 ジョシュアは何を言われてもいつものように笑っていました。

『ぷぁ!』
『あうあ!』

 ニパッ!

『ぷぁぁ!』
『あうあ!』

 ニパッ!
  
『……ぷぁ、あ!』
『あうあ!』  

 ニパッ!

『ぷぁああ~~っっ』
『あうあ!!』

 どんなに暴言を吐いても脅しても威嚇してもノーダメージなジョシュアに青ざめていくロッキー。
 ここでジョシュアがロッキーに“遊び”の提案をしました。

『あうあ!』

 ────ボクと“おいかけっこ”するです!

 ジョシュアは、逃げる僕を捕まえられたら煮るなり焼くなり好きにするです! と先ほどロッキーがジョシュアに口にしていた行為を受け入れる表明をしました。

『……ぷぁああ!』

 ────ないてこうかいしてもおそいぞ!

 ……もう一度言います。
 ロッキーはジョシュアのことなんぞ知りません。
 毎日毎日ガーネットおばあさまと仲良く脱走という名の追いかけっこを繰り返すことで、鍛えられた体力オバケなことももちろん知りません。

『あうあ~~』

 ────では、スタートするです~~


 その後……会場だったギルモア家の邸内で瀕死のベビーが発見されました。


 それから、わたくしはロッキーの姿を見ておりません。
 その後、ビセット侯爵家の“嫡男”が別の人物(おそらく弟)に変わっていたこともあり、わたくしはてっきりあの時の男ロッキーはギルモア家の庭に埋められたものと思って記憶から抹消しておりました───……



(生きていたんですのねぇ)

 わたくしは、ジョシュアのニパッに翻弄されているロッキーに視線を向けます。

「ナターシャ様に目をつけたのは俺が最初なんだぞ、邪魔するな!」
「……」

 ニパッ!

「……っ、ジョシュア・ギルモア。貴様はあの時もそうやって俺の邪魔をし、ヘラッと笑って油断させて最後は俺を地獄に……」

 ロッキーは瀕死で発見された時のことを言っているのでしょう。

「いいか! あの時の恨みは、これまでの人生で一度たりとも忘れたことは無…………」
「ああ! 思い出した~」

(……ん?)

 ここで、ずっと無言でニパッと笑うだけだったジョシュアが口を開きました。

「あ?」

 ジョシュアの言葉にロッキーの眉をひそめます。

「ずっと、どこかで見たことあるなぁって思ってたんだけど、昔、ベビーの頃に一緒に仲良く追いかけっこした───……」

 ニパッ!
 ジョシュアは満面の笑みを浮かべます。

「……くん!」
「は?」
「んぁああ!?」

 わたくしの驚いた声とロッキーの驚いた声が重なります。
 ジョシュアはさらにニパッと笑って続けました。

「甘くて美味しそうなお名前だなって思ってたんだ~」

 ジョシュアは、そっかぁ……あれはいつの話だっけ? 懐かしいねぇとヘラヘラしています。

(まさか、ジョシュア……)

 今の今まで不届き者の正体を分っていなかったんですのーー!?
 わたくしはてっきり、ロッキーだと分かっていてあの頃と同じように揺さぶっているのだとばかり思っておりましたのに!
 ジョシュアは、相手は自分のことを知ってそうなのに、この男が誰なのか分からなくて誤魔化そうとヘラヘラしていただけでしたわーー!

「っ、貴様! 俺のことを忘れてただと!?」
「うん!」

 ジョシュアはニパッと満面の笑みで頷きます。
 これは怒っている方にする態度じゃありません。
 意図的なのか無意識なのか知りませんが、おそろしいくらい喧嘩を売ってますわ……
 案の定、ロッキーはさらに怒りを募らせました。

「そうやって今も昔もやはり俺のことをバカにし……」
「────そうそう。ナターシャには気安く触れちゃダメなんだよ?」

 ロッキーの手を掴んだままジョシュアは、ズイッとわたくしを庇うように前に出ます。
 その声のトーンがいつものヘラヘラ感じとは違っていて驚きました。
 また、わたくしを守るように立つジョシュアの後ろ姿に不覚にも胸がドクンッと跳ねました。

「は? 何を言ってるんだ。さっきからジョシュア・ギルモア、貴様なんてナターシャ様にベタベタしていたじゃないか!」
「あ、間違えた……えっと、家族と僕以外の男が気安く触れちゃダメなんだよ」
「はぁ!?」
  
 ジョシュアの言葉はロッキーを煽ります。
 ちなみにそれはわたくしも初耳ですわ。
 ですから、当然のようにロッキーは怒りだしました。

「ふざけるな! なぜ、貴様だけが許されるんだ!」
「なぜ? おかしいなぁ、見て分からないのかなぁ……」

 ジョシュアはうーんと首を傾げます。 
 そんなジョシュアの様子にロッキーが青ざめていきます。
 そして声を荒らげました。

「嘘だ! 俺が調べたところではナターシャ様に婚約者はいない!」 

(まあ、その通り。いませんわね)

 打倒ジョシュアを目指して日々鍛えているわたくしにとって“婚約者”は邪魔なだけの存在ですから。

「これまで言い寄ってきた奴も全てその場で瞬殺だ!」
「なんであなたがそんなことまで知っているんですの……」

 わたくしが嫌悪感を抱きながらも訊ねるとロッキーはニヤリと得意そうに笑いました。
 気持ち悪いですわ!

「ジョシュア・ギルモアからの仕打ちであの日……皆から存在を消されることになった俺の特技は“気配を消すこと”だ! だからこれくらい簡単なのさ!」
「へぇ、それはすごいや~! コツが知りたいなぁ~」
「なっ……!?」

 ニパッと笑いながらズレた反応をみせ、余裕綽々なジョシュアに目をひんむくロッキー。
 しかも、そのジョシュアにはしっかり気配を読まれていたことを知ったらコイツ発狂しそうですわ。

「ふ、ふははは! そして俺は悟った。どんなに条件が良い男でも靡かないナターシャ様は幼い頃にプロポーズしたこの俺のことをいじらしく待っているのだろうと!」
「待っていませんわよ!?」

 気を取り直したロッキーの発言にわたくしは、ジョシュアの背後から抗議の声を上げます。
 待つ? 有り得ません。
 むしろ、他の方々と同様にコイツの存在をすっかり忘れておりましたわ。

(それに……)

 先ほどから突入の機会を探りながらジリジリとこちらに近づいて来ているエドマンドも、“誰だっけ?”と言いたそうな顔をしています。
 それはお父さまも───以下同文。

「さあ、ナターシャ様。俺と一緒に幸せになりましょう!」
「なりませんわよ!?」

 わたくしが即答でお断りすると、ロッキーはムッとしました。

「なぜだ!」
「なぜって……」
「だから、ナターシャに触れちゃダメだよ~」

 ロッキーが伸ばして来た手をジョシュアが払い除けます。

「邪魔するな! はっ、そうかジョシュア・ギルモア……貴様も……」

 ロッキーは何やらブツブツ呟くとキッとジョシュアを睨みつけました。

「……分かった。ならばジョシュア・ギルモア! ナターシャ様をかけて俺と勝負だ!」

(はぁぁぁ!?)

 ────え? どうしましょう……二人の男性が私をかけて勝負するなんて……!
 ────はわわわ、無理! どちらも素敵すぎて困っちゃう! そんなの私、選べな~い!

 おばあさまにお借りした恋愛小説参考書にこんな話があり、主人公はそれはそれは盛大に胸をときめかせておりました…………が!

(迷惑ですわぁ……)

 残念ながらわたくしの胸は全く、これっぽっちもときめきませんでした。

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