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毎日、微笑みの貴公子をボッコボコにしたいと企んでいる公爵令嬢ですが【ナターシャ】
21. これからもずっと
しおりを挟む婚約について訊ねただけですのに、なぜ、ジョシュアはこんな間抜けで気の抜けた顔をしているのでしょう?
「んーー、ナターシャは僕が昔、人にも物にもプロポーズして回った話、聞いてる?」
「え? ええ。わたくしのお父さまからお母さまへのプロポーズシーンを見て興奮して真似をしていたとかなんとか」
「うん、そうなんだ」
「?」
ジョシュアがそんなベビーの頃からプレイポーイの片鱗を見せていたことに、腹は立ちますが今更驚くなんてしません。
「あの頃はさ、まだまだ僕も小さかったし、“ぷろぽーず”をすればその相手とずっとずっと仲良しで楽しく遊べるんだと思ってた」
「ジョシュア……?」
思っていた以上に真剣な内容のような気がしてわたくしの胸がキュッとなりました。
「それでさ、ナターシャ。さっきの婚約の話なんだけど……」
「え、ええ」
「婚約するってことは、プロポーズが必要でしょ?」
「!」
わたくしはギュッと拳を強く握りながら自分の胸を押さえます。
“もちろん僕にだって考えている相手がいるよ”
とかなんとか言われてもわたくしは大丈夫ですわ────……
わたくしは覚悟を決めてジョシュアの顔を見つめます。
「───実は、僕が最初に“プロポーズ”したのは家令(当時70歳・♂︎)だったんだけど、実はまだ返事を聞いてないんだ!!」
「…………あ?」
(い ま な ん て ?)
思いっきりドスの効いた声が出てしまいましたわ。
わたくしは慌てて自分の口元を押さえます。
…………なんであれ、コイツ今、なんて言いやがりました?
「お花や絵画、ぬいぐるみにしたプロポーズはさすがに無効だと僕も思ってるんだけど、さ」
「……デショウネ」
呆れ過ぎて思わず返事が片言になってしまいます。
「人物に対してはそうじゃないでしょ?」
「……」
「だから、きちんとお返事を聞かないといけないんだけど」
「……っ」
「当時の家令だったおじいちゃん、引退して今は領地でのんびり奥さんやお孫さんたちと暮らしてるんだよ!」
「……っっ」
「そんな所に僕が“かつてのプロポーズのお返事を聞きに来ました”って訪ねても大丈夫かな?」
「……っっっ」
「修羅場にならない?」
(ジョシュアァァアーーーー!)
ドサッ……
力が抜けてしまった、わたくしはベッドの上に倒れ込みます。
「ナターシャ! え、まさか今度こそ死んじゃう!? 大変だ……お兄さーー」
「で・す・か・ら! 死にませんわよ!!」
「あうあっ」
慌てて身体を起こすと、お父さまのことを呼ぼうとしたジョシュアの口を押さえつけて塞ぎます。
うっかりでも、“ナターシャが死んじゃうよ”なんて口にしてご覧なさい?
お父さまやエドマンドはすっ飛んで来て我が家は上から下まで大騒ぎとなりますわ。
「ジョシュア! あなたがあまりにも阿呆…………いえ、真面目すぎて呆れただけですわ!」
「……?」
「どこの世界に、0才ベビーのプロポーズを真に受ける人がいますのよ!」
「……」
ジョシュアはいないの? と言いたそうな目でわたくしを見てきます。
「それに、どうせその時のあなたの発言は全て“あうあ”でしょう! その中の何人がその言葉を理解出来たと思っているんですの!」
「!」
ジョシュアの目があっ! と言わんばかりに見開きます。
「どうせ、ジョシュア坊っちゃまは今日もお元気で可愛いですね~とか思われてただけですわよ!」
「……!」
わたくしがフンッと顔を逸らしながら手を離すとジョシュアはニパッと笑いました。
「じゃあ、あの時のプロポーズはどれも無効にしてもいいのかな?」
「いいも何もとっくに無効だと思いますわよ!?」
その頃、お年頃だった使用人の女性たちも嫁ぐなりなんなり幸せになってることでしょうよ!
わたくしは呆れて思いっきり息を吐きました。
「ジョシュア、あなたプロポーズって何か分かってますの? プロポーズというのは、ずっと……」
「うん─────ずっとずっとずっとずーーっと一緒にいたいと思える人に向けてするものだ、だよ!」
ジョシュアがニパッと笑ってそう言いました。
今まさにわたくしが口にしようとしていた言葉そのものです。
「……わたくしがお父さまから聞いた言葉と同じですのね?」
「それはそうだよ、だって僕にそう教えてくれたのはエドゥアルトお兄さんだもん」
(お父さま……)
0才のベビーに何を教えているんですの?
そう言いたくもなりますが、相手はジョシュア・ギルモアです。
「それなら、ジョシュア。あなたはお父さまの言ったような、ずっとずっとずっとずーーっと一緒にいたいと思える人は……」
「ナターシャ」
「……んぇえっ!?」
(わ、わたくし!?)
わたくしの名前が出て来たので思わず声がひっくり返り、胸もドキンッと大きく跳ねます。
ジョシュアはニパッと笑いました。
「やっぱり、家族を除くならナターシャやエドマンド、コックス公爵家の皆だよね!」
「……み、んな」
なんでしょう。
何故かわたくし、ガッカリしています。
「でもさ……」
「?」
「やっぱり一番はナターシャだよ!」
ニパッ!
ジョシュアが一際眩しい笑顔でそう口にしました。
「……っ!」
わたくしはぐっと言葉を詰まらせます。
「これまでもずっと一緒にいたから、これからもずっとずっと一緒にいる気がする」
「ずっと……」
「そう! おばあ様たちみたいに、おじいちゃんおばあちゃんになっても!」
「~~っっ」
ニパッ!
どうしたらいいのでしょう!
ジョシュアの笑顔が無駄に眩しくて直視出来ません。
「……ん? あれ? と、いうことは僕はナターシャにプロポーズしないといけない……?」
「ひぇッ!?」
ここで、笑顔を消したジョシュアが首を傾げました。
(ま、まさか、こんなムードもロマンチックさが欠片もない今ここで、口にする気ですの!?)
わたくしの心臓がバックンバックン鳴っています。
「…………プロポーズ」
(ど、どうしましょう!)
わたくしは……わたくしの気持ちは……
心臓が今すぐ破裂しそうなほどドキドキしたその時でした。
「いや、ダメだ」
「……え?」
その言葉に高鳴った胸が一気に萎んでいくのが分かります。
ダメだ……ダメだ、そんな言葉がわたくしの頭の中に繰り返されます。
そのことにショックを受けている自分に愕然とした時、ジョシュアが手を伸ばしてそっとわたくしの頭を撫でました。
(!?)
「ごめん、ナターシャ」
「…………え?」
「プロポーズには事前の準備が必要で────ビシッと正装しなくちゃいけないし、場所は綺麗な景色が見える所じゃなきゃいけないし、それから薔薇の花束もを用意しなくちゃ…………」
「ジョ、ジョシュア? あなた、何をブツブツ言っていますの?」
ブツブツ呟く声が早すぎるのと小さすぎてよく聞こえませんでした。
「うん。実は本にそう書いてあるんだ」
「本?」
いったいジョシュアはなんの話を始めたのでしょう?
プロポーズの話をしていたのでは?
さっぱり話が見えず、わたくしは戸惑います。
「もちろん人生の指南書だよ!」
「ああ、あの妙にズレた内容が盛り沢山のギルモア家の家宝……」
「ナターシャ!」
わたくしの名を呼んだと思ったらジョシュアが突然勢いよく立ち上がりました。
「今日はもう帰らなくちゃ。また来るから待っててね!」
「待つ? は、はあ……(よく分からないけど)分かりました、わ」
「ありがとう! あ、そのプレゼントは使ってね~~」
ジョシュアはわたくしが傍らに置いたプレゼントを指さして笑うとそのまま部屋を出ていきました。
「……プレゼント」
そういえば、ジョシュアはこれを渡すために訪ねて来ていたことを思い出します。
いったい微笑みの貴公子失踪事件を起こしかねないような危うい行為をしてまで、何をプレゼントしようとしていたのでしょう?
「全く! 自由奔放過ぎますわ! …………プロポーズだってされるのかも? なんて思ってしまったではありませんの」
わたくしは、ふぅと息を吐きながら、プレゼントを開けます。
「おじいちゃんおばあちゃんになっても、ずっとずっとずっとずーーっと一緒に……」
未来なんて分からないのに。
どうしてかしら?
どんなに歳を重ねてもジョシュアだけはずっと変わらずにいつもわたくしの傍にいるような気がするのです。
「……あ!」
そんなジョシュアからのプレゼントとやらを開けてみると、可愛らしい大きなリボンと、お揃いの手袋が入っていました。
触ってみると生地はしっかりした良いものを使っていると分かります。
なにより使われている模様がわたくしの好みのど真ん中です。
「……自分自身のことですとあんなにセンスが壊滅なくせに─────ほんっとジョシュアって憎い男、ですわ」
リボンと手袋をギュッと胸に抱えたわたくしは、ベッドの上で一人そう呟きました。
✲✲✲✲✲✲
ベビージョシュアがプロポーズしまくった話は、
『誕生日当日、親友に裏切られて婚約破棄された勢いでヤケ酒をしましたら』の中、
【スピンオフ完結記念】9. 未来のプレイボーイ
『記念日当日、婚約者に可愛くて病弱な義妹の方が大切だと告げられましたので』
こちらの完結記念として書いたこの番外編の中で語られています。
ちなみにこの後、ベビージョシュアは海のある領地をカス男から分捕ります……
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