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毎日、微笑みの貴公子をボッコボコにしたいと企んでいる公爵令嬢ですが【ナターシャ】
22. ジョシュアの様子がおかしいらしい①
しおりを挟む「うわぁ、姉さま! そのリボン、可愛いです!」
「……そ、そうかしら?」
翌日。
わたくしはジョシュアから貰ったリボンを髪につけてみました。
その格好で朝食の席に着くと、目ざといエドマンドがすぐにその変化に気付きました。
「あれ? でも、初めて見る柄ですね?」
「え、ええ! まあ、だって新品……ですもの」
なんだかジョシュアから貰ったリボンとは言いにくいですわ。
なので新品とだけ言いました……が。
「なるほど! ジョシュア兄さまですか?」
「んえっ!」
なんと、エドマンドがズバリ言い当ててしまいます。
「昨日のジョシュア兄さまからのお見舞いですか……あれ? でも、さすがの兄さまでも姉さまが食べすぎで倒れたことまでは知らなかったですよ、ね?」
「…… っっ」
なんだかとても恥ずかしいですわ。
「はっはっは! ジョシュアのやつ、最後まで僕の話を聞かずに“ナターシャが死んじゃう”って勘違いして飛び出していったからな!」
「お、お父さま……」
やはり、ジョシュアはわたくしが寝込んでいた理由を聞いていなかったようです。
口が避けても言いたくありませんが。
「それで? 誤解は解けたのかしら?」
「誤解?」
わたくしが首を傾げて聞き返すと、お母さまがクスクス笑いながら訊ねてきます。
「ええ。ジョシュアくんの熟女なマダムとの交際疑惑」
「!」
ハッと思い出したわたくしの顔がボンッと赤くなります。
「や、やっぱり、あの話の相手はナンシーでしたわ……」
「でしょうねぇ」
「それから、べ、別に熟女なマダムが好みで交際しているわけでもなさそう、でしたわ」
「でしょうねぇ」
「街への買い物……も、わたくしへのプレ、プレゼント、でしたわ」
「あ、やっぱり?」
お母さまは分かってますと言わんばかりに頷きました。
この反応……
「お……お母さまは最初から分かっていたんです、の?」
「分かっていたと言うか……」
お母さまはうーんと顔をしかめます。
「ジョシュアくんってあのニパッて笑顔で昔から誰にでも優しいわけだけど、なんだかんだでプレゼントを用意したり手渡ししてるのってナターシャだけなのよね」
「え……?」
「だから今回もナターシャへのプレゼントかなって思っていたわ。ふふふ、当たっていたみたい」
「……」
恥ずかしくなったわたくしが黙り込むとお母さまはもう一度クスクス笑います。
「エドマンドの言うように、そのリボンとてもナターシャに似合っていて可愛いわよ」
「お母さま……」
「ちゃんとジョシュアくんが贈る相手のことを考えて選んだ証拠、ですわよね」
「!」
その気持ちを嬉しく思うわたくし。
(ああ、困りましたわ……)
もしかしたら、わたくし─────憎き男ジョシュアのことを……す……
「はっはっは! ところでナターシャ、お腹の調子はもう大丈夫なのか?」
「え、あ、はい」
お父さまの笑い声で考えていたことが一気に吹き飛んでいきました。
「そうか! では、今日はこれから思う存分稽古に励めるな! 頑張ろう!」
「こら、エリオット! 少しは加減なさい!」
わたくしが元気になったと分かり、嬉しそうに笑ったおじいさまをおばあさまが諌めます。
「……」
────これまでもずっと一緒にいたから、これからもずっとずっと一緒にいる気がする
────そう! おばあ様たちみたいに、おじいちゃんおばあちゃんになっても!
(ジョシュアの言ってたあの言葉……)
ガーネットおばあさまたちだけでなく、我が家のおばあさまたちみたいにもなりそうですわ。
わたくしは朝食を摂りながらそんなことを思いました。
それから、数日後のことです。
ヒュンッ、ヒュン……
今日も元気よく剣を振るいながら稽古に励んでいると、門の当たりがザワザワ騒がしくなりました。
どうやら事前連絡のない訪問者のようですわ。
(またジョシュアですの……?)
そう思って身構えたのですが、いつまで経っても騒がしいジョシュアの声が聞こえて来ません。
不思議に思っていると……
「────ナターシャ」
「え! アイラお姉さま……!?」
しばらくしてからなんと庭に現れたのはジョシュア、ではなくアイラお姉さま。
それもジョシュアもおらず単独です。
(アイラお姉さまがお一人なんて珍しいですわぁ!)
「ど、どうなさいまさしたの……?」
「……」
アイラお姉さまがキュッと顔をしかめます。
美人な方は顔をしかめても美人ですわ~
「……」
「……」
「……」
「……ここ数日、お兄様、が少し変なのですわ」
「少し、変?」
変なのはいつものことですし?
それも少しではなくってよ?
そう言いたいですが、確実に人生を終えてギルモア家のお庭行きになるので口にはしません。
「も、もう少しぐ、具体的にお願いします、わ」
「……」
コクリと頷いたアイラお姉さまはポツポツ話しだしました。
「タキシードを新調するそうで、どデカいおリボンも特注していましたわ」
「どデカいおリボン……」
「リボンは大きければ大きいほどいいよね! と笑って。ですが、おばあ様に見つかってアホなの? と首を絞められていましたがとても幸せそうに笑っていました」
「……」
その姿は容易に想像出来ます。
「……いつも通りのジョシュアではなくて?」
だってガーネットおばあ様に怒られることこそ、ジョシュアにとって最高のご褒美のはずです。
しかし、アイラお姉さまは静かに首を振ります。
「それからお花屋さんも呼びつけて大量のお花を注文していましたわ」
「大量の花……」
「それから、我が家の中で一番景色のいい部屋をお父さまに訊ねていましたわ」
「景色?」
「ええ。どうもそれを全部揃えないとナターシャに会えないんですって」
「は?」
(会えない……?)
意味が分かりません。
おそらくアイラお姉さまもよく分からなくてわたくしの所に来たのでしょう。
「そういえば、ジョシュアはこの間、わたくしに待ってて……と言っていましたわ」
「それですわね!」
アイラお姉さまの目がキラッと輝きました。
でも、わたくしはあれ? と思います。
「ですが、アイラお姉さま。その時のジョシュアは、人生の指南書がなんちゃらと言っておりましたわよ?」
「え?」
ジョシュアと同じ、人生の指南書を読んで育ったアイラお姉さまならジョシュアが何をしているのか分かりそうなものです。
するとアイラお姉さまがググッと眉間に皺を寄せました。
(ジョエルさまみたいですわぁ!)
アイラお姉さまのお顔はセアラ夫人によく似ていますが、眉間に皺を寄せると父親そっくりにもなりますわ。
「……人生の指南書は」
「はい」
「確かにベビーの頃からたくさん読み聞かせて貰ってはいるのです、けど……」
「はい」
「……」
「……」
「……」
「お姉さま……?」
何故か眉間に皺を深くして黙り込むアイラお姉さま。
ここでしばらくの沈黙の後、お姉さまがそっと口を開きます。
「いいこと、ナターシャ? あの指南書は途中から男女別に分かれているのです」
「え? 男と女で?」
アイラお姉さまがコクリと頷きました。
「男性版はどんなに頼んでも踏みつけても蹴り飛ばしてもお兄様はダメだよ! と言って見せてくれません」
「そう、でしたの……」
(なんだかとても物騒な言葉が混じっていた気がしましたわ~)
確かに家を継いで盛り上げていく男性と基本的に他家に嫁ぐであろう女性では進むべき人生は違います。
ギルモア家の家宝はそこの所もしっかりしているようです。
「きっとお兄様は男性版に載っている何かをしようとしていると思うのです!」
(今日のアイラお姉さまは饒舌ですわぁ)
アイラお姉さまは基本目で語りますが、別に喋らないわけではありません。
「ナターシャ!」
「はい!」
「お兄様は今日、懲りずにまた街へ買い物に行くそうですわ」
「!」
なんですって!? と思いましたが今度はこっそり脱走ではなくちゃんと護衛を付けて行くそうです。
「……後をつけますわよ」
「は、い?」
アイラお姉さまはガシッとわたくしの腕を掴みました。
「さあさあさあ、行きますわよ!」
「え……」
アイラお姉さまがグイグイわたくしを引っ張って連れて行こうとします。
「……っ、」
(せめて、せめて、着替えさせてですわぁぁーー)
こうしてわたくしは何が何だか分からないまま、何故かアイラお姉さまの尾行の手伝いをすることになったのです。
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