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毎日、微笑みの貴公子をボッコボコにしたいと企んでいる公爵令嬢ですが【ナターシャ】
23. ジョシュアの様子がおかしいらしい②
しおりを挟む(何がどうしてこうなったのでしょう……)
わたくしは馬車に揺られながらそう思います。
ジョシュアといい、アイラお姉さまといい……
ギルモア家の人たちは何故、いつもわたくしを巻き込むのでしょう?
(……それにしても)
わたくしは向かい側に座って窓の外を眺めているアイラお姉さまにチラッと視線を向けます。
(やっぱり美人ですわぁ……)
ジョシュアがベビーの頃から天使だと騒ぎ、社交界では他の令嬢にチクチク嫉妬されるのも分かる気がします。
まぁ…………絶対に何がなんでも怒らせてはいけませんが。
なんてことを考えているうちにわたくしたちの乗った馬車は街に到着。
今日も人で賑わっています。
馬車から降りて街に降り立ったところで、わたくしはふと疑問を抱きました。
「……アイラお姉さま」
「?」
わたくしの呼び掛けに“何かしら? ”と目線だけで応えるアイラお姉さま。
「この人混みの中でわたくしたちはジョシュアを発見出来ますの?」
「……」
(ん?)
クワッと一瞬アイラお姉さまの目が大きく見開いたような気がしました。
(…………気のせい、でしょうか)
わたくしはコシコシと自分の目を擦りますが、目の前に立っているアイラお姉さまの顔はいつも通りの無表情です。
まさか、アイラお姉さまに限ってノープランなど有り得ませんわよね。
わたくしは、そう自分に言い聞かせます。
「……」
「……」
しかし、謎の沈黙が続きます。
「……」
「……」
「…………ナターシャ」
「は、はい」
ここでようやく名前を呼ばれて顔を上げると、わたくしたちの目が合いました。
アイラお姉さまはバサッと手で髪をかきあげます。
この仕草は、ガーネットおばあさまにそっくりですわ!
「あなた、このわたくしを誰だと思って?」
「え……アイラ、お姉さま……」
わたくしの言葉にアイラお姉さまが大きく頷きます。
「誰もが恐れるギルモア家の令嬢であるわたくしが何も考えていないとでも?」
「お姉さま……!」
なんということでしょう!
アイラお姉さまがまるでガーネットおばあさまのように見えて来ましたわ!
わたくしはキラキラ目を輝かせます。
そんなわたくしを見てアイラお姉さまは小さくフッと笑いました。
でも、何故か少し顔に汗をかいているような……?
(いえ、気のせいです)
「いいこと? ナターシャ。お兄様はベビーの頃からどこで何をしても目立つ存在」
「え、ええ。まあ、そうですわね……」
「───つまり」
「つまり?」
ここでアイラお姉さまがニヤリと笑います。
(───っ!!)
この笑い方がガーネットおばあさまにそっくりで、わたくしはここが外であることを忘れて思わず反射的にひれ伏しそうになりました。
…………ちなみに忘れそうになりますが、わたくしは王家の血を引く公爵家の令嬢で、アイラお姉さまは侯爵家の令嬢です………………わ。
これは気にしてはいけません。
(お、恐ろしい吸引力……これぞギルモア家の……いえ、ガーネットおばあさまの血!)
「────放っておいても勝手に目立ってくれます」
「え?」
アイラお姉さまがそう口にした時でした。
少し先に進んだ場所から、キャーという黄色い声やウォーという野太い声が聞こえて来ます。
(な、なんの騒ぎでしょう?)
不思議に思ったわたくしにアイラお姉さまが言います。
「ナターシャ───今の聞こえた?」
「は、はい」
「あれが、お兄様の居場所でしてよ」
「え?」
(なるほどですわ!)
社交界でも老若男女関係なく人に囲まれて大人気のジョシュア。
それは街でも同じことが言えます。
つまり放っておいても勝手に目立ってくれるというわけです!
「アイラお姉さま、ちなみに今日のジョシュアの格好は……」
「え? 今日の服装ならおばあ様が見繕っていましたわよ?」
「!」
それを聞いてわたくしはホッと胸を撫で下ろしました。
ガーネットおばあさまの見立てなら安心安全ですわ。
「ですが、お兄様はこれじゃ物足りない……と言ってわたくしからおリボンを奪おうとしたので返り討ちにしておきました」
「…………ぇ」
今のは聞かなかったことにします。
なんであれ、おそらく今日のジョシュアの格好は妙ちくりんではないということです。
「おばあ様からの大反対もあり、渋々諦めてニッパニパの笑顔で馬車に乗り込んでいきました」
「……」
…………渋々とニッパニパの笑顔という正反対の感情が混在しています。
本当にジョシュアの感情はよく分かりません。
「そういうことですから、あの騒がしい方へと向かいますわよ? 着いて来なさい、ナターシャ!」
「はい!」
アイラお姉さまの声でわたくしたちは、騒がしい声がする方へと向かうことにし……
(─────!)
スッ……
見事にわたくしとアイラお姉さまが逆方向に向かって歩き出します。
(っっっ、そうでしたわ!)
アイラお姉さまもギルモア家特有の迷子体質、無自覚方向音痴でしたわーーーー!
しかもこのギルモア家の方向音痴兄妹はシンクロするわけでもなく、それぞれが思うまま別の方向に進むので、身体が一つしかないわたくしとしては、とにかく厄介なのです。
「ア、アイラお姉さま!!」
慌てて身体を捻って方向転換したわたくしは、ガシッとアイラお姉さまの腕を掴みます。
アイラお姉さまの眉がピクリと動きます。
わたくしはにっこりと笑いかけました。
「わ、わたくしたちが人混みに紛れてはぐれてしまっては大変だと思いますの」
「……」
(よし! それもそうね、と言ってますわ!)
ほっほっほ!
わたくしたちはこれでも長年の付き合い……目を見ればアイラお姉さまの気持ちはだいたい分かりましてよ!
「ですから! こうして一緒に並んでジョシュアを尾行しましょう!」
「……」
(それもそうね────よし! 同意が得られましたわ!)
まあ、何故か
“放っておくとナターシャはすぐフラフラして行方不明になるものね”
とも言われているのが非常に解せませんが。
(なにはともあれ───ジョシュアの元に行きますわよーーーー!)
────
(な、なにをしているんですのーー!?)
思った通り、黄色い声と野太い声に囲まれているのはジョシュアでした。
そして、ガーネットおばあさまの努力により、格好も至って普通の何処にでもいる街の青年風。
帽子を被っていますけど、もしもそれが頭におリボンだったなら変質者待ったなし、でしたが。
ジョシュアは話しかけられるとニッパニパの笑顔で皆に応えています。
まあ、すっかり見慣れた光景です。
しかし、ジョシュアはあっちにフラフラ、こっちにフラフラとどこに向かいたいのかさっぱり分かりません。
「アイラお姉さま! ジョシュアはどこの店に行くとか言っていたのでしょうか?」
「……」
(ダメです。知りませんわ、と言っています……)
「ですが、護衛たちと革製品が……とか話していたような気がします」
「革?」
「ええ。そして“それだぁ”って大きな声で笑って」
「それだ? 意味が分かりませんね?」
わたくしの言葉にアイラお姉さまも頷きます。
「とりあえず、ジョシュアの後をつけてみるしかありませんわ、アイラお姉さま!」
「……」
コクッと頷いたアイラお姉さまの腕をがっしり掴んだままわたくしはジョシュアを追いました。
(つ、疲れて来ましたわ……)
あれから一時間は経ったでしょうか?
ジョシュアは相変わらずフラフラフラフラ……キョロキョロしているのでおそらくお店を探してはいるのでしょうが、辿り着く気配をみせません。
途中、ニパッと笑って人に声をかけては道案内をされているようですが────……
(ジョシュアの護衛たちも足取りが重そうですわぁ)
しかし!
日々鍛えているわたくしですら、ヘトヘトになってきたというのに、今もヘラヘラフラフラ中のジョシュアもアイラお姉さまも涼しい顔で足取りも軽いです。
「アイラお姉さま……つ、疲れていませんか?」
「……」
じっと見返してくるアイラお姉さまの返答は“全然”
ジョシュアといい、アイラお姉さまといい、二人は本当に人間ですの?
そう問いたくなります。
まあ、おそらく方向音痴を極めすぎて足が鍛えられたのでしょう。
「……」
「え? なんですか? アイラお姉さま」
「……」
アイラお姉さまがじっとわたくしを見てきます。
(ナターシャ、あなた騎士を目指しているのに鍛え方が足りないのではなくて?)
仰る通りで反論が出来ません。
「そういえば……」
「アイラお姉さま?」
お姉さまがハッと何かを思い出しました。
「お兄様、騎士がどうとか言っていましたわ!」
「え? 騎士?」
ジョシュアは未来のギルモア家の当主になるので騎士になる予定はなかったと思いますが?
本当に目的が分かりません。
(まあ、目的のお店に着けば分かるでしょう……)
────そうしてわたくしとアイラお姉さまがジョシュアの尾行を開始して約四時間。
「あ、このお店だ!」
(───!!)
ニパッと笑ったジョシュアは、ついに目的のお店を発見したようです!
しかし、未だにピンピンしているアイラお姉さまを除いた、ジョシュアの護衛たちとわたくしはもはや虫の息。
瀕死です。
「こーんーにーちーは~」
(~~っっ、こんの、ジョシュアァァア!!)
ジョシュアが四時間ほど歩き回り、ルンルンしながら入っていったそのお店は、わたくしたちが最初にジョシュアの姿を発見した所のすぐ目の前にあるお店でした────
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