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毎日、微笑みの貴公子をボッコボコにしたいと企んでいる公爵令嬢ですが【ナターシャ】
24. ジョシュアの様子がおかしいらしい③
しおりを挟む「お兄様、遂に目的のお店を見つけましたのね……!」
「……」
アイラお姉さまが店に入っていくジョシュアを見ながらそう呟きました。
どうやら、アイラお姉さまもジョシュア同様、その店が四時間前に目の前にあったとは気付いていないようです。
(……無自覚方向音痴たちの気持ちがさっぱり分かりませんわ!)
結婚式の日に花婿が迷子により行方不明になったというガーネットおばあさまも、きっときっときっと苦労されたに違いありません。
「それにしても、ナターシャ? 先程からあなたもお兄様の護衛たちも足がフラフラですわよ? シャキッとなさい!」
「む…………無理、ですわぁ」
「え?」
もう、四時間歩き続けて足はガックガク。
普段の稽古のように休憩を挟めているならともかく、休みなく歩き続けたわたくしの足は悲鳴をあげています。
それなのにケロッとした顔のジョシュアとアイラお姉さま。
これがベビーの頃からたくさん動き回って鍛えた足腰の賜物だと言うのなら───……
「くっ、お父さま……ベビーの頃のわたくしのことは、ヒョイッと持ち上げて持ち運ぶのではなく、たくさんハイハイさせて欲しかったですわ……」
そうすれば、今より体力もついて四時間歩き続けるくらいで瀕死になることもなかったでしょうに!
「ナターシャ? あなた先程から何をブツブツ言ってますの?」
「ほっほっほ……」
アイラお姉さまはその気になれば、わたくしよりも強い騎士になれるかもしれません。
(わたくしも、まだまだですわ……)
「────お兄様、店主と何やら話していますわね」
「あ……」
わたくしはアイラお姉さまの言葉を聞いて顔を上げます。
店主の顔に見覚えがありました。
そういえば、このお店の名前にも覚えがあります。
普段、わたくしたちは店主を邸に呼びつけているので、直接お店に来たことはありませんが、ここは騎士としての必要な物を揃える際によく利用している店です。
(なぜ、ジョシュアがこの店に……?)
「お兄様……購入、というより何かを注文をしているようですわね」
「注文? 自分が欲しいものならそいつものようにギルモア家に呼べば……」
そう言いかけてハッと息を呑みました。
(……もしかして)
これは、わ、わたくしへの贈り物とか────?
わたくしの胸がトクンッと高鳴ります。
「はっ! ナターシャ。お兄様が店から出てきます!」
「え?」
どうやらわたくしが考えごとをしていた間に、ジョシュアがお店から出てくるようです。
急いで隠れなくては見つかってしまう……と思ったわたくしにアイラお姉さまが言いました。
「ナターシャ! 突撃しますわよ!」
「……え」
(な ん て ?)
今のは空耳かしら? などと考えた瞬間、アイラお姉さまは、わたくしごとジョシュアに向かって突進していこうと走り出します。
(え、ええええぇぇえ……!?)
迷子防止の為にアイラお姉さまの腕をがっちり掴んでいたことが完全に仇となり、わたくしは見事にアイラお姉さまに引き摺られることになりました……
「────お兄様!!」
「ん? アイラ?」
アイラお姉さまに声をかけられたジョシュアがニパッと笑いました。
驚くでもなくニパッなのが非常にジョシュアらしいですわ。
「あ、アイラたちもお買い物、終わったの?」
(ん?)
「僕も用事が終わったところなんだ~」
わたくしはアイラお姉さまに引き摺られながら、今のジョシュアの言葉に違和感を覚えます。
(今……)
この言い方……
もしかして、ジョシュアはアイラお姉さまとわたくしが街に来ていることを知っていたのでは?
「いつも思うけどこの街、広いよね。いっぱい歩いちゃった。もうすっかり夕方だよ」
ジョシュアが空を見上げて、あははと笑います。
四時間もかかったのは街の広さのせいだと言い切るジョシュア。
通常運転過ぎますわ。
「それは確かに同感ですけど、お兄様は……」
「あ、それでアイラとナターシャは欲しいもの買えた?」
(~~~なっ!?)
ジョシュアはニパッと笑いながらそう言いました。
やっぱり!
なんとジョシュアはとっくにわたくしたちに気付いていたようです。
そして今、わたくしがアイラお姉さまにズルズル引き摺られていることには、なんの違和感も抱いていないようです。
「お兄様、気づいてましたの?」
アイラお姉さまが訊ねるとジョシュアは満面の笑みで頷きました。
「うん。街についてすぐかな? アイラとナターシャの匂いがしたから、二人も仲良くお買い物かな~って思ってたんだ」
「……」
相変わらずジョシュアが人間離れした嗅覚を発揮していますが、今のわたくしはそれどころではありません。
(ジョシュアの態度、普通ですわ……)
何やら意味深に待っててと口にしていましたし、アイラお姉さま曰く色々揃えないとわたくしに会えないと言っていたらしいのに……態度が普通ですわ。
このお店に来たのも、もしかしたらわたくしのため……かもなんて図々しいことまで考えてしまいましたのに!
「違います、お兄様。これは尾行です」
ここでアイラお姉さまが素直に目的を口にします。
「僕の尾行?」
「そうです。わたくしとナターシャはお兄様を尾行していたのです!」
「へぇ~」
なんだか楽しそう~と笑うジョシュア。
「なんでそんな楽しそうなことするのに僕を除け者にしたの?」
「お兄様が尾行の対象だからです」
「あ、そっか!」
へへへと笑うジョシュア。
(コ、コイツ……!)
どうやらジョシュアの中では尾行は遊びのようです。
「最近、お兄様の様子がおかしいので後をつけることにしました」
「変?」
首を傾げるジョシュアにお姉さまは続けます。
「タキシードを新調し、どデカいおリボンも特注しておばあ様に怒られて首を絞められてましたわよね?」
「うん、最高のご褒美だったよ!」
ニパッと嬉しそうに笑うジョシュア。
やはり、ご褒美だと思っていたようです。
「お花屋さんも呼びつけて大量のお花を注文していましたわよね?」
「うん、薔薇の花! おじい様が本数は絶対に間違えるなって」
(本数……?)
いったい何本頼んだのでしょう?
「我が家の中で一番景色のいい部屋をお父さまに訊ねていましたわよね?」
「うん! 綺麗な景色は心を和ませるのに大事なんだって」
(心を和ませる……?)
ジョシュアはニパッと笑いながら、父親のジョエル様とセアラ夫人は、外が大雨、大嵐の日に邸内で一番見晴らしの良い部屋に行って仲良くお茶をしながら心を和ませるのが好きなんだよ~と言いました。
(やっぱりジョシュアの両親ですわ……)
「それから、プレゼントも外しちゃいけないっていうから、今日はそのプレゼントを注文しに来たんだよ~」
「…………結局、お兄様は何をしようとしているんですの?」
ついに痺れを切らしたアイラお姉さまが眉間に深い皺を作りながらズバッと直球で訊ねます。
「え? だからどれもこれも全部指南書に載ってたプロポーズの心得…………あ!」
(───え? プ……)
そこまで口にしたジョシュアが慌てて自分の口を押さえました。
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