67 / 70
毎日、微笑みの貴公子をボッコボコにしたいと企んでいる公爵令嬢ですが【ナターシャ】
25. 特別な好き
しおりを挟む「どうしよう! 秘密にして驚かせましょうって書いてあったのに……!」
(今、わたくしの耳にはプロポーズの心得って聞こえましたわ……)
先日、わたくしとジョシュアはプロポーズの話をしました。
そして、ずっと一緒にいたいと言われて、まさかこのままプロポーズ!?
なんて思わせぶりな態度を取られた矢先に“いや、ダメだ”などと言われたはずですわ。
(もしかして────そうではなかった……?)
わたくしはベビーの頃からギルモア家……いえ、特にジョシュアが関わると一気に殺意が強くなり物事を冷静に考えられなくなり突っ走る傾向があります。
ですから、これはじっくり確認しないといけません!
「ジョシュア!」
わたくしが名前を呼びかけると一瞬、ピクッと肩を揺らしたジョシュアがニパッと笑って来ます。
(出ましたわ、ニパッの笑顔!)
この顔!
メラメラと殺意が湧いてきますわーー!
「……ジョシュア」
「え、えっと、ナターシャ……」
口を押さえたジョシュアがどうにか誤魔化そうとニパッと笑います。
わたくしはそんなジョシュアの目をじーーっと見つめます。
「……」
ニパッ!
「……」
ニパッ!!
「……」
あまりにも煮え切らないので、ここは一発殴ってやろうかと思い拳をギュッと握りしめた時でした。
「────なるほど、それでお兄様の様子がおかしかったのですわね?」
「!」
アイラお姉さまが表情も変えずに淡々とそう口にしながら頷きました。
わたくしはアイラお姉さまの存在を思い出し慌てて握りしめていた拳を解きます。
(そうでしたわ……アイラお姉さまの目の前でジョシュアを殴るのは危険行為!)
とても危なかったです。
よくよく思い出せば、ここにはジョシュアの護衛たちもいるのです。
(太皆の前でジョシュアを殴ったなら────……)
危うく、ギルモア家の庭行きになることを想像出来てしまい、こっそり汗を拭いました。
「…………男性がこっそりプロポーズ大作戦を練っていると気付いてしまっても知らないフリをしておきましょう」
ここで何やらアイラお姉さまが小さな声でブツブツと呟き始めました。
「感動の涙はいつでも流せるように練習が必要です…………人生の指南書の女性版~お年頃を迎えたら~にはそう載っていましたわね……」
「アイラ?」
「アイラお姉さま?」
わたくしとジョシュアが同時に首を捻ります。
今、人生の指南書の女性版とか聞こえた気がします。
「なんてこと。わたくしは、別冊~煮えきらねぇ男に自ら突撃する方法~の方が好きでこちらばかり熟読していたからさっぱり気付きませんでしたわ……」
どうしましょう?
なんだかアイラお姉さまから出ているオーラが怖いですわ。
「このままでは、お兄様のプロポーズは確実に失敗……ナターシャがわたくしの義妹になって大量のおリボンをコレクションしてキャッキャウフフする夢が消えてしまいます……」
(ん……?)
「それだけは阻止しないといけません───そう、ナターシャには大量のおリボンを持参して嫁いで来て貰わなくちゃいけませんもの……」
「あの? アイラお姉さま?」
アイラお姉さまの呟いているブツブツ声がどんどん早くなっていきます。
(うっすら、おリボンとか聞こえたような……?)
「…………仕方がありませんわね、ここはおばあ様の教え───困った時はとにかく強引に物事を進めるべし───ですわ」
(んんん?)
ここでアイラお姉さまが勢いよく顔を上げました。
そして突然その場から動き出すと、ジョシュアの護衛たちの腕をガシッと掴みました。
「え!?」
「ア、アイラお嬢様!?」
突然、腕を掴まれた護衛たちもびっくりしています。
「わたくしとってもとってもとっても喉が乾きましたわ! お前たち着いて来なさい!」
「え!?」
「で、すが…………うわっ!?」
お姉さまは返答もろくに聞かず強引に護衛たちを引きずり始めます。
「え、あ、アイラお嬢様!」
「わ、我々はジョシュア様の護衛をしなくては……」
「そんなもの! お兄様には未来の立派な女騎士のナターシャがいるのだから充分でしょう!!」
アイラお姉さまが護衛たちに怒鳴りつけました。
(え?)
わたくし同様、護衛たちもアイラお姉さまの勢いに目を丸くしております。
「いいこと? ナターシャはベビーの頃から打倒お兄様を掲げて───いつかお兄様にギャフン、お兄様を自らの手でボッコボコ、お兄様をペシャンコに潰す…………と並々ならぬ執着心で己を鍛えて強くなって来たのです! 心配など要らないでしょう!」
「お、お嬢様……?」
「その内容では心配しかありませんが……?」
護衛たちが至極真っ当なことを言っていますがアイラお姉さまは聞く耳を持ちません。
主張を続けます。
「一方のわたくしは、鞭より重いものなど持ったことがないその辺のか弱いただのギルモア家の令嬢でしてよ! そんなわたくしに一人で飲み物を買いに行けとお前たちは言うの!?」
「お嬢様、鞭が既におかしいです……」
「……その辺のか弱い令嬢は決して鞭など持ちません」
「いいから! さっさと着いてらっしゃい!」
「「うわぁぁあ」」
(ぇぇえええ!?)
やはりこれまた至極真っ当なことを指摘した護衛たちをアイラお姉さまは容赦なく引きずっていき、あっという間に姿が見えなくなりました。
「……」
「……」
こうしてこの場にはわたくしとジョシュアだけが残されました。
気を取り直したわたくしは改めてジョシュアの目をじっと見つめます。
「───ジョシュア!」
「えっとね、ナターシャ。これは……」
さすがのジョシュアも観念したのかニパッではなく、頑張って説明をしようと口を開こうとしました。
しかし、わたくしはそれを遮ってジョシュアにズバッと訊ねます。
「あなた────正装して薔薇の花束とプレゼントを用意して眺めのいい景色のいい場所でわたくしにプロポーズしようとしていましたの?」
「!」
ジョシュアが目を大きく見開きました。
────うわぁ、すごいよナターシャ。なんで分かったの?
とでも言いたそうな顔です。
ここまで来て分からなかったら、わたくしただの阿呆ですわ……
「……ふぅ」
わたくしは軽く息を吐くとそっと自分の胸を押さえます。
トクン、トクン、トクン……これは胸がかなり高鳴っています。
とんでもない殺意の波動ですわ。
「ねぇ、ジョシュア」
わたくしはズイッとジョシュアに近づいて顔を覗きこみます。
「この先、ジョシュア好みのパンチ力と踏みつけ力を持ったとても素直で可愛らしい令嬢が現れるかもしれませんわよ? それなのにわたくしにプロポーズしてしまってよろしいの?」
「え?」
わたくしの言葉にジョシュアがキョトンとした間抜けな表情になります。
「……なんですのその顔?」
顔をしかめながらわたくしが聞き返すとジョシュアはうーんと首を捻ります。
「え、だって僕はナターシャとこれからもずっと一緒にいたいからこっそり計画してたんだよ?」
「ですから! それはわたくしの頭突きや拳や踏みつけが目当てで───」
「あのね? ナターシャ。別に僕はナターシャの体目当てでプロポーズ大作戦していたわけじゃないよ?」
「えっ」
わたくしの胸がドクンッと大きく鳴りました。
体目当て───なんだかとてもいかがわしく聞こえますが、相手はジョシュア。
もちろんそうでないことは分かっております。
「だから、僕好み? の踏みつけ力を持つ令嬢とやらが現れても関係ないんだ」
「……っ、関係、ない」
「もしかしたらナターシャは誤解してるのかもしれないけど、おじい様もエドゥアルトお兄さんもおばあ様やお姉さんにプロポーズしたのは体目当てじゃないと思うよ?」
ジョシュアのその言葉にわたくしはハッとします。
「ただ、これからもガーネットおばあさまやお母さまとずっと一緒にいたいと思ったから……ということですの?」
「うん! そうだよ! それが特別好きってことだって」
ここでジョシュアがニパッと笑います。
わたくしは今にもこんにちはしそうになっている心臓をどうにか押し込みながら、ジョシュアに訊ねることにします。
「な、なら、ジョシュア」
「うん?」
「つまりあなた……は」
「うん」
ニパッ!
ジョシュアがまた笑います。
「わたくしのことを“特別”好き────ということでよろしくて?」
226
あなたにおすすめの小説
婚約破棄?いいですよ。ですが、次期王を決めるのは私ですので
水中 沈
恋愛
「コメット、今ここで君との婚約を破棄する!!」
建国記念パーティーの最中、私の婚約者であり、第一王子のエドワードは人目も気にせずに大声でそう言った。
彼の腕には伯爵令嬢、モニカがべったりとくっついている。
婚約破棄の理由を問うと、モニカを苛めた悪女と結婚する気は無い。俺は真実の愛を見つけたのだ!とのたまった。
「婚約破棄ですか。別に構いませんよ」
私はあっさりと婚約破棄を了承し、書類にサインをする。
(でもいいのかしら?私と婚約破棄をするってことはそういう事なんだけれど。
まあ、本人は真実の愛とやらを見つけたみたいだし…引き留める理由も無いわ)
婚約破棄から数日後。
第二王子との結婚が決まった私の元にエドワードが鬼の形相でやって来る。
「この悪女め何をした!父上が弟を次期王にすると言い出すなんて!!
お前が父上に良からぬことを吹き込んだだろう!!」
唾をまき散らし叫ぶ彼に冷めた声で言葉を返す。
「まさか。
エドワード様、ご存じないのですか?次期王を決めるのは私ですよ」
王座がいらない程焦がれる、真実の愛を見つけたんでしょう?どうぞお幸せに。
真実の愛(笑)の為に全てを失った馬鹿王子にざまぁする話です。
冷酷騎士様の「愛さない」は一分も持たなかった件
水月
恋愛
「君を愛するつもりはない」
結婚初夜、帝国最強の冷酷騎士ヴォルフラム・ツヴァルト公爵はそう言い放った。
出来損ないと蔑まれ、姉の代わりの生贄として政略結婚に差し出されたリーリア・ミラベルにとって、それはむしろ救いだった。
愛を期待されないのなら、失望させることもない。
契約妻として静かに役目を果たそうとしたリーリアは、緩んだ軍服のボタンを自らの銀髪と微弱な強化魔法で直す。
ただ「役に立ちたい」という一心だった。
――その瞬間。
冷酷騎士の情緒が崩壊した。
「君は、自分の価値を分かっていない」
開始一分で愛さない宣言は撤回。
無自覚に自己評価が低い妻に、激重独占欲を発症した最強騎士が爆誕する。
以後、
寝室は強制統合
常時抱っこ移動
一秒ごとに更新される溺愛
妻を傷つける者には容赦なし宣言
甘さ過多、独占欲過剰、愛情暴走中。
さらにはリーリアを取り戻そうとする実家の横槍まで入り――?
自己評価ゼロの健気令嬢と愛が一分も我慢できなかった最強騎士。
溺愛が止まらない、契約結婚から始まる甘すぎる逆転ラブコメ
『婚約破棄されたので玉座から降りました。――理で王国をざまあします
ふわふわ
恋愛
王太子から突然の婚約破棄を告げられた公爵令嬢。
社交界の中心で恥をかかされ、次期王妃の座を奪われた――はずだった。
けれど彼女は泣かなかった。怒鳴らなかった。復讐を誓いもしなかった。
「玉座は、座るより設計したほうが面白いですわ」
そう言って一歩退いた彼女は、王妃教育制度を立ち上げ、王と王妃を“育てる側”へと回る。
感情で動く王太子は、やがて理を学び始める。
新たに選ばれた王妃候補は、責任と孤独を知りながら成長していく。
武力でも陰謀でもない。
透明性と制度、そして対話で国を立て直していく静かな逆転劇。
婚約破棄で笑った者たちは、気づけば彼女の作った仕組みの中で頭を下げていた。
これは復讐ではない。
これは成熟。
選ばれなかった令嬢が、王国そのものを進化させる物語。
婚約破棄?いいですけど私巨乳ですよ?
無色
恋愛
子爵令嬢のディーカは、衆目の中で婚約破棄を告げられる。
身分差を理由に見下されながらも、彼女は淡々と受け入れようとするが、その時ドレスが破れ、隠していた自慢のそれが解き放たれてしまう。
「お前を愛する者などいない」と笑われた夜、私は“本物の王子”に拾われた
波依 沙枝
恋愛
侯爵令嬢セレスティアは、第二王子リヒトの婚約者だった。
彼に愛されていると信じ、どれほど冷たくされても、気まぐれに与えられる優しい言葉だけを支えに、隣に立ち続けてきた。
――しかしある夜、彼女は見てしまう。
婚約者が、知らない女を抱きながら、自分を嘲笑っているところを。
「お前みたいな女を愛する者などいない」
絶望の中で崩れ落ちた彼女に、ひとりの男が手を差し伸べた。
「――助けるのは、私でもいいかな」
それは、かつて彼女の孤独に寄り添ってくれた、“本当の王子”だった。
これは、愛されなかったはずの侯爵令嬢が、
本物の王子に見出され、溺愛され、
そして彼女を捨て、嘲笑った婚約者が、すべてを失って後悔するまでの物語。
今さら縋りついても、もう遅い。
彼女はもう、“選ばれる側”ではなく、“選ぶ側”なのだから。
義兄のために私ができること
しゃーりん
恋愛
姉が亡くなった。出産時の失血が原因だった。
しかも、子供は義兄の子ではないと罪の告白をして。
入り婿である義兄はどこまで知っている?
姉の子を跡継ぎにすべきか、自分が跡継ぎになるべきか、義兄を解放すべきか。
伯爵家のために、義兄のために最善の道を考え悩む令嬢のお話です。
幼馴染を選んで婚約者を追放した旦那様。しかしその後大変なことになっているようです
睡蓮
恋愛
レーベット侯爵は自身の婚約者として、一目ぼれしたミリアの事を受け入れていた。しかしレーベットはその後、自身の幼馴染であるリナリーの事ばかりを偏愛し、ミリアの事を冷遇し始める。そんな日々が繰り返されたのち、ついにレーベットはミリアのことを婚約破棄することを決める。もう戻れないところまで来てしまったレーベットは、その後大きな後悔をすることとなるのだった…。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる