最恐家族は本日も無双中 ~ギルモア家と愉快な人々~

Rohdea

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毎日、微笑みの貴公子をボッコボコにしたいと企んでいる公爵令嬢ですが【ナターシャ】

25. 特別な好き

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「どうしよう! 秘密にして驚かせましょうって書いてあったのに……!」

(今、わたくしの耳にはプロポーズの心得って聞こえましたわ……)

 先日、わたくしとジョシュアはプロポーズの話をしました。
 そして、ずっと一緒にいたいと言われて、まさかこのままプロポーズ!?
 なんて思わせぶりな態度を取られた矢先に“いや、ダメだ”などと言われたはずですわ。

(もしかして────そうではなかった……?) 

 わたくしはベビーの頃からギルモア家……いえ、特にジョシュアが関わると一気に殺意が強くなり物事を冷静に考えられなくなり突っ走る傾向があります。
 ですから、これはじっくり確認しないといけません!

「ジョシュア!」

 わたくしが名前を呼びかけると一瞬、ピクッと肩を揺らしたジョシュアがニパッと笑って来ます。

(出ましたわ、ニパッの笑顔!)

 この顔!
 メラメラと殺意が湧いてきますわーー!

「……ジョシュア」
「え、えっと、ナターシャ……」  

 口を押さえたジョシュアがどうにか誤魔化そうとニパッと笑います。
 わたくしはそんなジョシュアの目をじーーっと見つめます。

「……」

 ニパッ!
  
「……」

 ニパッ!!

「……」

 あまりにも煮え切らないので、ここは一発殴ってやろうかと思い拳をギュッと握りしめた時でした。

「────なるほど、それでお兄様の様子がおかしかったのですわね?」
「!」

 アイラお姉さまが表情も変えずに淡々とそう口にしながら頷きました。
 わたくしはアイラお姉さまの存在を思い出し慌てて握りしめていた拳を解きます。 

(そうでしたわ……アイラお姉さまの目の前でジョシュアを殴るのは危険行為!)

 とても危なかったです。
 よくよく思い出せば、ここにはジョシュアの護衛たちもいるのです。

(太皆の前でジョシュアを殴ったなら────……)

 危うく、ギルモア家の庭行きになることを想像出来てしまい、こっそり汗を拭いました。

「…………男性がこっそりプロポーズ大作戦を練っていると気付いてしまっても知らないフリをしておきましょう」

 ここで何やらアイラお姉さまが小さな声でブツブツと呟き始めました。

「感動の涙はいつでも流せるように練習が必要です…………人生の指南書の女性版~お年頃を迎えたら~にはそう載っていましたわね……」

「アイラ?」
「アイラお姉さま?」

 わたくしとジョシュアが同時に首を捻ります。
 今、人生の指南書の女性版とか聞こえた気がします。

「なんてこと。わたくしは、別冊~煮えきらねぇ男に自ら突撃プロポーズする方法~の方が好きでこちらばかり熟読していたからさっぱり気付きませんでしたわ……」

 どうしましょう?
 なんだかアイラお姉さまから出ているオーラが怖いですわ。 

「このままでは、お兄様のプロポーズは確実に失敗……ナターシャがわたくしの義妹になって大量のおリボンをコレクションしてキャッキャウフフする夢が消えてしまいます……」

(ん……?)

「それだけは阻止しないといけません───そう、ナターシャには大量のおリボンを持参して嫁いで来て貰わなくちゃいけませんもの……」
「あの? アイラお姉さま?」

 アイラお姉さまの呟いているブツブツ声がどんどん早くなっていきます。

(うっすら、おリボンとか聞こえたような……?) 

「…………仕方がありませんわね、ここはおばあ様の教え───困った時はとにかく強引に物事を進めるべし───ですわ」

(んんん?)

 ここでアイラお姉さまが勢いよく顔を上げました。
 そして突然その場から動き出すと、ジョシュアの護衛たちの腕をガシッと掴みました。

「え!?」
「ア、アイラお嬢様!?」

 突然、腕を掴まれた護衛たちもびっくりしています。

「わたくしとってもとってもとっても喉が乾きましたわ! お前たち着いて来なさい!」
「え!?」
「で、すが…………うわっ!?」

 お姉さまは返答もろくに聞かず強引に護衛たちを引きずり始めます。

「え、あ、アイラお嬢様!」
「わ、我々はジョシュア様の護衛をしなくては……」
「そんなもの! お兄様には未来の立派な女騎士のナターシャがいるのだから充分でしょう!!」

 アイラお姉さまが護衛たちに怒鳴りつけました。

(え?)

 わたくし同様、護衛たちもアイラお姉さまの勢いに目を丸くしております。

「いいこと? ナターシャはベビーの頃から打倒お兄様を掲げて───いつかお兄様にギャフン、お兄様を自らの手でボッコボコ、お兄様をペシャンコに潰す…………と並々ならぬ執着心で己を鍛えて強くなって来たのです! 心配など要らないでしょう!」
「お、お嬢様……?」
「その内容では心配しかありませんが……?」

 護衛たちが至極真っ当なことを言っていますがアイラお姉さまは聞く耳を持ちません。
 主張を続けます。

「一方のわたくしは、鞭より重いものなど持ったことがないその辺のか弱いただのギルモア家の令嬢でしてよ! そんなわたくしに一人で飲み物を買いに行けとお前たちは言うの!?」
「お嬢様、鞭が既におかしいです……」
「……その辺のか弱い令嬢は決して鞭など持ちません」
「いいから! さっさと着いてらっしゃい!」
「「うわぁぁあ」」

(ぇぇえええ!?)

 やはりこれまた至極真っ当なことを指摘した護衛たちをアイラお姉さまは容赦なく引きずっていき、あっという間に姿が見えなくなりました。

「……」
「……」

 こうしてこの場にはわたくしとジョシュアだけが残されました。
 気を取り直したわたくしは改めてジョシュアの目をじっと見つめます。

「───ジョシュア!」 
「えっとね、ナターシャ。これは……」

 さすがのジョシュアも観念したのかニパッではなく、頑張って説明をしようと口を開こうとしました。
 しかし、わたくしはそれを遮ってジョシュアにズバッと訊ねます。
  
「あなた────正装して薔薇の花束とプレゼントを用意して眺めのいい景色のいい場所でわたくしにプロポーズしようとしていましたの?」
「!」

 ジョシュアが目を大きく見開きました。

 ────うわぁ、すごいよナターシャ。なんで分かったの?

 とでも言いたそうな顔です。
 ここまで来て分からなかったら、わたくしただの阿呆ですわ……

「……ふぅ」

 わたくしは軽く息を吐くとそっと自分の胸を押さえます。
 トクン、トクン、トクン……これは胸がかなり高鳴っています。
 とんでもない殺意の波動ですわ。

「ねぇ、ジョシュア」

 わたくしはズイッとジョシュアに近づいて顔を覗きこみます。

「この先、ジョシュア好みのパンチ力と踏みつけ力を持ったとても素直で可愛らしい令嬢が現れるかもしれませんわよ? それなのにわたくしにプロポーズしてしまってよろしいの?」
「え?」

 わたくしの言葉にジョシュアがキョトンとした間抜けな表情になります。

「……なんですのその顔?」

 顔をしかめながらわたくしが聞き返すとジョシュアはうーんと首を捻ります。

「え、だって僕はナターシャとこれからもずっと一緒にいたいからこっそり計画してたんだよ?」
「ですから! それはわたくしの頭突きや拳や踏みつけが目当てで───」
「あのね? ナターシャ。別に僕はナターシャの体目当てでプロポーズ大作戦していたわけじゃないよ?」
「えっ」

 わたくしの胸がドクンッと大きく鳴りました。
 体目当て───なんだかとてもいかがわしく聞こえますが、相手はジョシュア。
 もちろんそうでないことは分かっております。

「だから、僕好み? の踏みつけ力を持つ令嬢とやらが現れても関係ないんだ」
「……っ、関係、ない」
「もしかしたらナターシャは誤解してるのかもしれないけど、おじい様もエドゥアルトお兄さんもおばあ様やお姉さんにプロポーズしたのは体目当てじゃないと思うよ?」

 ジョシュアのその言葉にわたくしはハッとします。

「ただ、これからもガーネットおばあさまやお母さまとずっと一緒にいたいと思ったから……ということですの?」
「うん! そうだよ! それが特別好きってことだって」

 ここでジョシュアがニパッと笑います。
 わたくしは今にもこんにちはしそうになっている心臓をどうにか押し込みながら、ジョシュアに訊ねることにします。

「な、なら、ジョシュア」
「うん?」
「つまりあなた……は」
「うん」

 ニパッ!
 ジョシュアがまた笑います。

「わたくしのことを“特別”好き────ということでよろしくて?」
 
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