最恐家族は本日も無双中 ~ギルモア家と愉快な人々~

Rohdea

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毎日、微笑みの貴公子をボッコボコにしたいと企んでいる公爵令嬢ですが【ナターシャ】

26. ギルモア家だから

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「ナターシャ……」

 なんだかこんなことを訊ねるのは、自分でもどうかとは思います。
 が!
 相手はジョシュアですもの。
 直球を投げても変化球を返してくる男なのですから!  

「───僕さ、好きな人いっぱいいるんだけど」 
「ンンッ…………知っています」 

 ほら、この返し。
 実にジョシュアらしいでしょう?

「でもさ、この間も言ったけど」
「……っ」

 ジョシュアがそっと私の手を取って握りしめます。
 その行動にわたくしの胸がドキッと跳ねました。

「美味しい物を食べてゴロゴロしておばあ様やアイラにも怒られながら考えてみたけど、やっぱりこの先ずっと一緒にいるのはナターシャしか想像出来ないんだよね」
「……」

 わたくしは思わず眉根を寄せます。
 前半必要だったかしら?
 こういうアホみたいにバカ正直なのがジョシュアなのですが。

「これって“特別”好きってことなんじゃないのかな?」
「なんでわたくしに聞くんですか!」

(……っ!)

 ここでジョシュアがわたくしの手を強く握りしめます。
 ドクンッとわたくしの胸が先程より大きく跳ねました。

「……ナターシャは?」
「はい?」
「ナターシャは僕のこと───“特別”好き?」
「!」

 クワッとわたくしの目が大きくかっ開きます。
 ───あうあ~!
 そして脳裏に浮かぶのは、ベビーの頃のジョシュアのニッパニパの笑顔。
 メラッと殺意が芽生えます。

「特別な好きになれる要素が、全くこれっぽっちも欠片も! 見つかりませんわ!!」
「え~~そんなに?」
「当然でしょう! これまでわたくしと過ごして来た時間を胸に手を当てて思い出してごらんなさい!」
「!」

 ジョシュアはわたくしと繋いでいない方の手を胸に当てると静かに目を閉じました。

(素直すぎますわ……)

 悪人を嗅ぎ分ける謎の鼻? 特技? がなかったら人に騙されて全財産を失っていてもおかしくないくらいの素直さです。

(まあ、実際は悪人を潰して回ってるのでガッポガポですけども) 

 そんなことを考えていたらジョシュアがパチッと目を開けました。

「…………ジョシュアァァ、ジョシュアァァ~って僕の名前をいっぱい呼んで追いかけてくる」
「そこですの!?」
「うん、初めて“ジュチュアァァ……”って呼んでくれた時は嬉しかったなぁ」

 ジョシュアがニパッと笑います。

「あ、でもなぜか、エドゥアルトお兄さんがその場で泣き崩れてたけど」
「くっ……それはわたくしも消し去りたい過去ナンバーワンですわ」
「なんで?」
「……」

 ジョシュアは不思議そうに首を傾げています。
 きっと説明しても分かってもらえない気がするのでわたくしも深くは説明しません。

「僕、ナターシャにジョシュアァァって呼ばれるの昔から好きなんだ」
「えっ!?」
「だって、ナターシャが可愛い目を釣り上げてそんな風に呼ぶのって僕だけだもん! ──特別、でしょ?」
「と…………キャッ!?」

 返事に戸惑っているとジョシュアが握っていた手を強く引っ張ったのでわたくしはバランスを崩してしまいます。 
 しかし、ジョシュアに抱き止められたので転ぶことはありませんでした。

「まあ、昔から素直じゃないナターシャも可愛いんだけどね」
「なっ、なななな……」

 わたくしの顔がボボンッと一気に熱を持ちます。

「あ……ぅあ……」

 まるで、抱きしめられているかのような体勢と可愛いという言葉に脳内が大パニックを起こしております。

「うーん、しかし困ったなぁ。プロポーズ大作戦がバレちゃった」
「あぅ、あ……」
「ん? ナターシャ、どうかした? あ! もしかして僕の真似?」

 ニパッと笑いかけてくるジョシュアに否定したいのに上手く言葉が出て来ません。
 わたくしは全力で首を横に振ります。

「えーー、違うの? ま、いっか」

 ジョシュアはチェッと口を尖らせると、よいしょっとそのままわたくしを軽々と持ち上げて横抱きにしました。

「!?!?!?!?」

(抱っこされてますわぁぁ!?)

 何がどうしてこうなったのか全く着いて行けず、もはやわたくしは気絶寸前です。

「えっと……」

 そしてわたくしを抱えたジョシュアは辺りをキョロキョロしたあと、ある一点を見つめてニパッと笑いました。

「アイラ! お兄さんたち! なんでさっきからそんな所で隠れんぼしているの~?」
「ひ、ひぇ、ジョシュア様!?」
「な、なぜ……!?」

 ジョシュアに呼びかけられた護衛たちが悲鳴をあげます。

「え? だって、飲み物買いに行った後はずっとそこで三人とも隠れんぼしてたよね?」
「「ひっ!?」」

 すみませんーーと謝る護衛たちの前にアイラお姉さまが無言でスッと現れました。
 なぜか両手をうまく使って飲み物のカップは四個持っていてその全てがすでに空っぽです。

(まさか一人で? さすがに飲みすぎでは……?)

「アイラ?」
「お兄様。仰る通り……わたくしたちずっと二人の様子をここで見て聞いていましたわ!」
「うん」

 アイラお姉さまは胸を張って堂々とそう言い放ちます。
 そしてジョシュアは本当に分かっていたようで全く驚いておりません。

「しかしながら、お兄様のご様子───わたくしが熟読していた指南書に出て来る煮えきらねぇ男……まさにそのものでしたわ!」
「煮え……? えええ、まさか僕、食べられちゃうの?」

(は?)

「いいえ! 今のお兄様はまずそうで食べる価値すらありません!」
「そんな……! 僕そんなに美味しくなさそうなの?」
「ええ。とてもまずいでしょう!」

(え?)

 何やらズレた会話が始まり唖然としていたらアイラお姉さまがわたくしにも矛先を向けて来ました。

「そしてナターシャ! あなたもです!」
「え」
「ツンデレというのは多少なら可愛らしく見えても極めすぎてはいけません!」
「ツ……?」

 ツン……?
 その言葉は昔、お父さまがわたくしに向かって連呼していたような記憶があります。

「あなたが昔からお兄様のことを意識しているのは丸わかり! さっさと(わたくしと義姉妹になると認めて)素直になりなさい!」
「ア、アイラお姉さま……」
「そうして、(おリボンをたっぷり持参して)我が家に嫁いできなさい!」
「!」    

(アイラお姉さまはわたくしのことを受け入れようとしている……?)

 何だか胸がジンッとしました。
 そんなアイラお姉さまの強い言葉にわたくしとジョシュアが顔を見合せます。

「ナターシャ。僕、君にプレゼントも用意したんだ」
「え、ええ……」

 それはこの店で注文したというやつなのでしょう。
 何かは知りませんが。

「それを持ってきちんとコックス公爵家を訪ねるから、さ」
「……」

 どうやら、ジョシュアはプロポーズ大作戦とやらを続けるようです。
 それなら、わたくしもじっくりよく考えてしっかり迎え撃つ必要があります。

「その注文したプレゼントとやらはいつ完成しますの?」
「んー、かなり急いでくれるみたいだから一週間後くらい?」
「一週間ですわね? ……では」
「では?」

 わたくしは目をパチパチ瞬かせているジョシュアに向かってきっぱり告げます。

「一週間後────わたくしの方からギルモア家を訪問させてもらいます」
「え、ナターシャの方から?」
「そうですわ。ジョシュアの訪れを待っていたら日が暮れますもの」

 ただでさえ、ジョシュアたちが目覚めるのはお昼。
 そこから迷子になっていたら夜でわすわ、夜!

「とにかく! そこであなたの用意したプロポーズ大作戦とやらじっくりこの身をもって体験させていただきます!」
「っ! 分かったよ……!」

 ジョシュアが力強く頷きました。

「なぁ…………ジョシュア様たち、愛の告白をしていたんじゃないのか?」
「そう思ってたんだ、が」
「相変わらずよく分からないなぁ……」
「ギルモア家だからな」

 そんな護衛たちの声が耳に入って来ましたがわたくしは聞こえないフリをしました。


────


「ジョシュアから、プロポーズの予告をされた!?」
「ええ。それでどうやら一週間後にプロポーズされますわ」

 その日の夕食の場でわたくしは本日の出来事を皆に話しました。
 お父さまが目をまん丸にして驚いています。

「ジョシュア……斬新だな」
「ジョシュアくんって昔から変わった子だったけど、プロポーズの仕方も変わってるのねぇ」

 お母さまがしみじみとそう言いました。
 プロポーズの予告という意味不明なことには皆、驚きを示していますが、相手がわたくしであることには誰も驚いておりません。

「それで───姉さまはなんてお答えするのですか?」
「……エドマンド」

 直球で訊ねてくるエドマンドにわたくしは苦笑します。

「ジョシュア兄さまとならきっと面白おかしく愉快に暮らして行けると思います!」
「…………あのね、エドマンド。あなた、」
「ま、ギルモア家だしな」
「ええ、ギルモア家だもの」

 エドマンドを窘めようとしたら、おじいさまとおばあさまも同意とばかりに大きく頷きます。
 “ギルモア家だから”
 その一言で皆が納得してしまうギルモア家…………やはり、恐ろしいですわ。




「───ナターシャ」
「お母さま?」

 夕食の後、少しぼんやりしていたらお母さまがお茶のセットを手に持ってわたくしの元にやって来ました。

「……少し、女同士の話をしましょうか」
「え?」

 お母さまはにっこり笑ってそう言いました。
 
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