68 / 70
毎日、微笑みの貴公子をボッコボコにしたいと企んでいる公爵令嬢ですが【ナターシャ】
26. ギルモア家だから
しおりを挟む「ナターシャ……」
なんだかこんなことを訊ねるのは、自分でもどうかとは思います。
が!
相手はジョシュアですもの。
直球を投げても変化球を返してくる男なのですから!
「───僕さ、好きな人いっぱいいるんだけど」
「ンンッ…………知っています」
ほら、この返し。
実にジョシュアらしいでしょう?
「でもさ、この間も言ったけど」
「……っ」
ジョシュアがそっと私の手を取って握りしめます。
その行動にわたくしの胸がドキッと跳ねました。
「美味しい物を食べてゴロゴロしておばあ様やアイラにも怒られながら考えてみたけど、やっぱりこの先ずっと一緒にいるのはナターシャしか想像出来ないんだよね」
「……」
わたくしは思わず眉根を寄せます。
前半必要だったかしら?
こういうアホみたいにバカ正直なのがジョシュアなのですが。
「これって“特別”好きってことなんじゃないのかな?」
「なんでわたくしに聞くんですか!」
(……っ!)
ここでジョシュアがわたくしの手を強く握りしめます。
ドクンッとわたくしの胸が先程より大きく跳ねました。
「……ナターシャは?」
「はい?」
「ナターシャは僕のこと───“特別”好き?」
「!」
クワッとわたくしの目が大きくかっ開きます。
───あうあ~!
そして脳裏に浮かぶのは、ベビーの頃のジョシュアのニッパニパの笑顔。
メラッと殺意が芽生えます。
「特別な好きになれる要素が、全くこれっぽっちも欠片も! 見つかりませんわ!!」
「え~~そんなに?」
「当然でしょう! これまでわたくしと過ごして来た時間を胸に手を当てて思い出してごらんなさい!」
「!」
ジョシュアはわたくしと繋いでいない方の手を胸に当てると静かに目を閉じました。
(素直すぎますわ……)
悪人を嗅ぎ分ける謎の鼻? 特技? がなかったら人に騙されて全財産を失っていてもおかしくないくらいの素直さです。
(まあ、実際は悪人を潰して回ってるのでガッポガポですけども)
そんなことを考えていたらジョシュアがパチッと目を開けました。
「…………ジョシュアァァ、ジョシュアァァ~って僕の名前をいっぱい呼んで追いかけてくる」
「そこですの!?」
「うん、初めて“ジュチュアァァ……”って呼んでくれた時は嬉しかったなぁ」
ジョシュアがニパッと笑います。
「あ、でもなぜか、エドゥアルトお兄さんがその場で泣き崩れてたけど」
「くっ……それはわたくしも消し去りたい過去ナンバーワンですわ」
「なんで?」
「……」
ジョシュアは不思議そうに首を傾げています。
きっと説明しても分かってもらえない気がするのでわたくしも深くは説明しません。
「僕、ナターシャにジョシュアァァって呼ばれるの昔から好きなんだ」
「えっ!?」
「だって、ナターシャが可愛い目を釣り上げてそんな風に呼ぶのって僕だけだもん! ──特別、でしょ?」
「と…………キャッ!?」
返事に戸惑っているとジョシュアが握っていた手を強く引っ張ったのでわたくしはバランスを崩してしまいます。
しかし、ジョシュアに抱き止められたので転ぶことはありませんでした。
「まあ、昔から素直じゃないナターシャも可愛いんだけどね」
「なっ、なななな……」
わたくしの顔がボボンッと一気に熱を持ちます。
「あ……ぅあ……」
まるで、抱きしめられているかのような体勢と可愛いという言葉に脳内が大パニックを起こしております。
「うーん、しかし困ったなぁ。プロポーズ大作戦がバレちゃった」
「あぅ、あ……」
「ん? ナターシャ、どうかした? あ! もしかして僕の真似?」
ニパッと笑いかけてくるジョシュアに否定したいのに上手く言葉が出て来ません。
わたくしは全力で首を横に振ります。
「えーー、違うの? ま、いっか」
ジョシュアはチェッと口を尖らせると、よいしょっとそのままわたくしを軽々と持ち上げて横抱きにしました。
「!?!?!?!?」
(抱っこされてますわぁぁ!?)
何がどうしてこうなったのか全く着いて行けず、もはやわたくしは気絶寸前です。
「えっと……」
そしてわたくしを抱えたジョシュアは辺りをキョロキョロしたあと、ある一点を見つめてニパッと笑いました。
「アイラ! お兄さんたち! なんでさっきからそんな所で隠れんぼしているの~?」
「ひ、ひぇ、ジョシュア様!?」
「な、なぜ……!?」
ジョシュアに呼びかけられた護衛たちが悲鳴をあげます。
「え? だって、飲み物買いに行った後はずっとそこで三人とも隠れんぼしてたよね?」
「「ひっ!?」」
すみませんーーと謝る護衛たちの前にアイラお姉さまが無言でスッと現れました。
なぜか両手をうまく使って飲み物のカップは四個持っていてその全てがすでに空っぽです。
(まさか一人で? さすがに飲みすぎでは……?)
「アイラ?」
「お兄様。仰る通り……わたくしたちずっと二人の様子をここで見て聞いていましたわ!」
「うん」
アイラお姉さまは胸を張って堂々とそう言い放ちます。
そしてジョシュアは本当に分かっていたようで全く驚いておりません。
「しかしながら、お兄様のご様子───わたくしが熟読していた指南書に出て来る煮えきらねぇ男……まさにそのものでしたわ!」
「煮え……? えええ、まさか僕、食べられちゃうの?」
(は?)
「いいえ! 今のお兄様はまずそうで食べる価値すらありません!」
「そんな……! 僕そんなに美味しくなさそうなの?」
「ええ。とてもまずいでしょう!」
(え?)
何やらズレた会話が始まり唖然としていたらアイラお姉さまがわたくしにも矛先を向けて来ました。
「そしてナターシャ! あなたもです!」
「え」
「ツンデレというのは多少なら可愛らしく見えても極めすぎてはいけません!」
「ツ……?」
ツン……?
その言葉は昔、お父さまがわたくしに向かって連呼していたような記憶があります。
「あなたが昔からお兄様のことを意識しているのは丸わかり! さっさと(わたくしと義姉妹になると認めて)素直になりなさい!」
「ア、アイラお姉さま……」
「そうして、(おリボンをたっぷり持参して)我が家に嫁いできなさい!」
「!」
(アイラお姉さまはわたくしのことを受け入れようとしている……?)
何だか胸がジンッとしました。
そんなアイラお姉さまの強い言葉にわたくしとジョシュアが顔を見合せます。
「ナターシャ。僕、君にプレゼントも用意したんだ」
「え、ええ……」
それはこの店で注文したというやつなのでしょう。
何かは知りませんが。
「それを持ってきちんとコックス公爵家を訪ねるから、さ」
「……」
どうやら、ジョシュアはプロポーズ大作戦とやらを続けるようです。
それなら、わたくしもじっくりよく考えてしっかり迎え撃つ必要があります。
「その注文したプレゼントとやらはいつ完成しますの?」
「んー、かなり急いでくれるみたいだから一週間後くらい?」
「一週間ですわね? ……では」
「では?」
わたくしは目をパチパチ瞬かせているジョシュアに向かってきっぱり告げます。
「一週間後────わたくしの方からギルモア家を訪問させてもらいます」
「え、ナターシャの方から?」
「そうですわ。ジョシュアの訪れを待っていたら日が暮れますもの」
ただでさえ、ジョシュアたちが目覚めるのはお昼。
そこから迷子になっていたら夜でわすわ、夜!
「とにかく! そこであなたの用意したプロポーズ大作戦とやらじっくりこの身をもって体験させていただきます!」
「っ! 分かったよ……!」
ジョシュアが力強く頷きました。
「なぁ…………ジョシュア様たち、愛の告白をしていたんじゃないのか?」
「そう思ってたんだ、が」
「相変わらずよく分からないなぁ……」
「ギルモア家だからな」
そんな護衛たちの声が耳に入って来ましたがわたくしは聞こえないフリをしました。
────
「ジョシュアから、プロポーズの予告をされた!?」
「ええ。それでどうやら一週間後にプロポーズされますわ」
その日の夕食の場でわたくしは本日の出来事を皆に話しました。
お父さまが目をまん丸にして驚いています。
「ジョシュア……斬新だな」
「ジョシュアくんって昔から変わった子だったけど、プロポーズの仕方も変わってるのねぇ」
お母さまがしみじみとそう言いました。
プロポーズの予告という意味不明なことには皆、驚きを示していますが、相手がわたくしであることには誰も驚いておりません。
「それで───姉さまはなんてお答えするのですか?」
「……エドマンド」
直球で訊ねてくるエドマンドにわたくしは苦笑します。
「ジョシュア兄さまとならきっと面白おかしく愉快に暮らして行けると思います!」
「…………あのね、エドマンド。あなた、」
「ま、ギルモア家だしな」
「ええ、ギルモア家だもの」
エドマンドを窘めようとしたら、おじいさまとおばあさまも同意とばかりに大きく頷きます。
“ギルモア家だから”
その一言で皆が納得してしまうギルモア家…………やはり、恐ろしいですわ。
「───ナターシャ」
「お母さま?」
夕食の後、少しぼんやりしていたらお母さまがお茶のセットを手に持ってわたくしの元にやって来ました。
「……少し、女同士の話をしましょうか」
「え?」
お母さまはにっこり笑ってそう言いました。
212
あなたにおすすめの小説
婚約破棄?いいですよ。ですが、次期王を決めるのは私ですので
水中 沈
恋愛
「コメット、今ここで君との婚約を破棄する!!」
建国記念パーティーの最中、私の婚約者であり、第一王子のエドワードは人目も気にせずに大声でそう言った。
彼の腕には伯爵令嬢、モニカがべったりとくっついている。
婚約破棄の理由を問うと、モニカを苛めた悪女と結婚する気は無い。俺は真実の愛を見つけたのだ!とのたまった。
「婚約破棄ですか。別に構いませんよ」
私はあっさりと婚約破棄を了承し、書類にサインをする。
(でもいいのかしら?私と婚約破棄をするってことはそういう事なんだけれど。
まあ、本人は真実の愛とやらを見つけたみたいだし…引き留める理由も無いわ)
婚約破棄から数日後。
第二王子との結婚が決まった私の元にエドワードが鬼の形相でやって来る。
「この悪女め何をした!父上が弟を次期王にすると言い出すなんて!!
お前が父上に良からぬことを吹き込んだだろう!!」
唾をまき散らし叫ぶ彼に冷めた声で言葉を返す。
「まさか。
エドワード様、ご存じないのですか?次期王を決めるのは私ですよ」
王座がいらない程焦がれる、真実の愛を見つけたんでしょう?どうぞお幸せに。
真実の愛(笑)の為に全てを失った馬鹿王子にざまぁする話です。
冷酷騎士様の「愛さない」は一分も持たなかった件
水月
恋愛
「君を愛するつもりはない」
結婚初夜、帝国最強の冷酷騎士ヴォルフラム・ツヴァルト公爵はそう言い放った。
出来損ないと蔑まれ、姉の代わりの生贄として政略結婚に差し出されたリーリア・ミラベルにとって、それはむしろ救いだった。
愛を期待されないのなら、失望させることもない。
契約妻として静かに役目を果たそうとしたリーリアは、緩んだ軍服のボタンを自らの銀髪と微弱な強化魔法で直す。
ただ「役に立ちたい」という一心だった。
――その瞬間。
冷酷騎士の情緒が崩壊した。
「君は、自分の価値を分かっていない」
開始一分で愛さない宣言は撤回。
無自覚に自己評価が低い妻に、激重独占欲を発症した最強騎士が爆誕する。
以後、
寝室は強制統合
常時抱っこ移動
一秒ごとに更新される溺愛
妻を傷つける者には容赦なし宣言
甘さ過多、独占欲過剰、愛情暴走中。
さらにはリーリアを取り戻そうとする実家の横槍まで入り――?
自己評価ゼロの健気令嬢と愛が一分も我慢できなかった最強騎士。
溺愛が止まらない、契約結婚から始まる甘すぎる逆転ラブコメ
『婚約破棄されたので玉座から降りました。――理で王国をざまあします
ふわふわ
恋愛
王太子から突然の婚約破棄を告げられた公爵令嬢。
社交界の中心で恥をかかされ、次期王妃の座を奪われた――はずだった。
けれど彼女は泣かなかった。怒鳴らなかった。復讐を誓いもしなかった。
「玉座は、座るより設計したほうが面白いですわ」
そう言って一歩退いた彼女は、王妃教育制度を立ち上げ、王と王妃を“育てる側”へと回る。
感情で動く王太子は、やがて理を学び始める。
新たに選ばれた王妃候補は、責任と孤独を知りながら成長していく。
武力でも陰謀でもない。
透明性と制度、そして対話で国を立て直していく静かな逆転劇。
婚約破棄で笑った者たちは、気づけば彼女の作った仕組みの中で頭を下げていた。
これは復讐ではない。
これは成熟。
選ばれなかった令嬢が、王国そのものを進化させる物語。
婚約破棄?いいですけど私巨乳ですよ?
無色
恋愛
子爵令嬢のディーカは、衆目の中で婚約破棄を告げられる。
身分差を理由に見下されながらも、彼女は淡々と受け入れようとするが、その時ドレスが破れ、隠していた自慢のそれが解き放たれてしまう。
「お前を愛する者などいない」と笑われた夜、私は“本物の王子”に拾われた
波依 沙枝
恋愛
侯爵令嬢セレスティアは、第二王子リヒトの婚約者だった。
彼に愛されていると信じ、どれほど冷たくされても、気まぐれに与えられる優しい言葉だけを支えに、隣に立ち続けてきた。
――しかしある夜、彼女は見てしまう。
婚約者が、知らない女を抱きながら、自分を嘲笑っているところを。
「お前みたいな女を愛する者などいない」
絶望の中で崩れ落ちた彼女に、ひとりの男が手を差し伸べた。
「――助けるのは、私でもいいかな」
それは、かつて彼女の孤独に寄り添ってくれた、“本当の王子”だった。
これは、愛されなかったはずの侯爵令嬢が、
本物の王子に見出され、溺愛され、
そして彼女を捨て、嘲笑った婚約者が、すべてを失って後悔するまでの物語。
今さら縋りついても、もう遅い。
彼女はもう、“選ばれる側”ではなく、“選ぶ側”なのだから。
義兄のために私ができること
しゃーりん
恋愛
姉が亡くなった。出産時の失血が原因だった。
しかも、子供は義兄の子ではないと罪の告白をして。
入り婿である義兄はどこまで知っている?
姉の子を跡継ぎにすべきか、自分が跡継ぎになるべきか、義兄を解放すべきか。
伯爵家のために、義兄のために最善の道を考え悩む令嬢のお話です。
幼馴染を選んで婚約者を追放した旦那様。しかしその後大変なことになっているようです
睡蓮
恋愛
レーベット侯爵は自身の婚約者として、一目ぼれしたミリアの事を受け入れていた。しかしレーベットはその後、自身の幼馴染であるリナリーの事ばかりを偏愛し、ミリアの事を冷遇し始める。そんな日々が繰り返されたのち、ついにレーベットはミリアのことを婚約破棄することを決める。もう戻れないところまで来てしまったレーベットは、その後大きな後悔をすることとなるのだった…。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる