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第25話 最後の質問
しおりを挟む「……こ、これは合否の結果!?」
宛名はちゃんと私になっている。
私宛に届く王宮からの手紙なんて今はそれしかない。
手紙に飛びついた私は、急いで開封しようとした。
けれど、情けないことに緊張のせいで、うまく封が開けられず苦戦してしまった。
「な、何とか開封出来たわ……よ、読むわよ」
先程から心臓がバクバクと煩い。手紙を持つ手も震えている。
落ち着け……落ち着けと自分に言い聞かせた。
(どんな結果になったとしても後悔はしないわ)
まさか、面接をあんな形で挑む事になるとは思わなかったけれど、出来る範囲で精一杯自分のやる気は伝えたつもりだ。
「そういえば嫌がらせの件は、グレイ様が自分に預けて欲しい、というからそのままお願いしたけれど……」
もし、ライバル令嬢たちの誰かが合格だったらさすがに嫌だわ……
そう思いながらようやく中の手紙に目を通した。
「…………え! これはどういうこと?」
中身を読んだ私は首を傾げた。
❋❋❋
(てっきりあの手紙は合否通知で、合格・不合格が書かれているのだとばかり思ったのに……)
その日の午後、私は王宮へと向かっていた。
午前中に届いたあの手紙は間違いなく王宮からの手紙だったけれど、中に合否については書かれておらず、ただ、本日の午後に王宮に来るようにと書かれているだけだった。
「まさかの二次試験があるとか? って違うわよね」
そんなのは募集要項には書かれていなかった。
そうなると、やっぱりライバル令嬢たちとの一件が耳に入ったから話を聞きたい……そんな所かしら。
殿下には包み隠さず話をしたので、あの日の出来事が上に伝わった可能性は充分に考えられる。
「よく分からないけれど、とりあえず行って話を聞くしかないわよね」
(どうか悪い話ではありませんように……)
───
時間通り王宮に着いた私は、すぐさま部屋に通される。そして待つこと数分。
部屋に入って来たのは、試験の日に私の面接をした面接官たちだった。
(やっぱり二次試験!?)
内心で動揺しながらも顔は平静を保ちつつ、立ち上がった私はドレスの裾を掴み腰を落として頭を下げる。
「───クロエ・ブレイズリでございます」
挨拶が終わるとすぐに座るようにと指示されたので、そのまま腰を下ろし次の発言と指示を待った。
「クロエ・ブレイズリ伯爵令嬢。今日は急に呼び出して申し訳ない」
「今日、君に来てもらったのはあなたに聞きたい事があったからです」
「───はい」
(これは、やっぱり……?)
「試験の日、会場にて受験者による嫌がらせが起きていたとの報告を受けた」
「……はい」
やっぱりその話だった。
まだ、彼らの意図が分からないので、私は静かに頷くのみ。
「王太子妃……未来の王妃の侍女を選抜するはずの試験で、まさかそのような事をする者がいるなんて……と我々は嘆いております」
「……はい」
「そして、クロエ・ブレイズリ伯爵令嬢。あなたがあの日、午前中の筆記試験の時と面接時に装いが変わっていたのはそれが原因で間違いありませんか?」
(……あ!)
そう言われて今更ながら気付いた。
午前中に筆記試験を受けていたのだから、私の姿はすでに見られていた。
なのに、面接になった途端にあの装いで現れた……それは、確かに不審にも思うわ。
(あの時の面接官たちの難しい顔はそれだったのかも……)
「……報告者からの命令で、我々はその非道な行いをした人物達は既に特定しています」
「え!」
報告者って、グレイソン殿下よね? 殿下が命令したということ……?
何であれ王宮関係者は話を聞いてすぐに動いて、ライバル令嬢たちがした事だとそこまで突き止めた?
(悪いことって出来ないものなのね……)
だからこそ、ゲームでヒロインに嫌がらせをしていた悪役令嬢も、最初は上手くいっていても最後は悪事がバラされて裁かれてしまうのよね。
……現実は違ったけれど!
と、そこまで考えた時、ふと疑問が浮かんだ。
犯人はもう分かっているのよね? では、どうして今、私を呼び出したのかしら?
「そして……犯人は判明しているのに、なぜあなたを呼び出したか……ですが」
「は、はい」
ちょうど考えていた事の話がそのまま始まった。
私は姿勢を正してしっかり前を見つめる。
「クロエ・ブレイズリ伯爵令嬢。これからあなたの合否判定結果を出すために一つだけ質問をさせてください」
「はい」
(合否判定……? 今ここでするの?)
「我々が、あなたを貶めたであろう彼女たちにこの件を問い詰めると、まぁ、最終的には犯行を白状しました」
「そ、そうでしたか」
「そして、彼女たちは、心から反省しあなたに謝罪をしたいと涙ながらに口にしていました」
「謝罪……ですか」
涙ながらって本当に?
ふと、ヒロインの泣き真似の話が頭に浮かんでしまった。
(それにしても、もうすでに尋問済みだった事に驚いたわ)
そして、面接官は私の顔を見ながら訊ねた。
「───では、クロエ・ブレイズリ伯爵令嬢。あなたは彼女たちをどうしたいですか? 謝罪を受け入れますか? それとも……それが我々からの最後の質問です」
「!」
◇◇◇◇◇
「クロエ、そろそろ王宮に着いた頃かな?」
溜まった仕事を集中して部屋で片付けていたらいつの間にか午後になっていた。
「……今頃、話をしている所だろうか?」
クロエから試験の面接の前に嫌がらせを受けたという話を聞いて、すぐに調べさせた。
事情聴取をした元側近たちの婚約者令嬢たちは、最初はシラを切ろうとしていた。
しかし、これは個々人の問題を超えているとちょっと強めに脅したら、すぐに泣きながら白状した。
そして彼女たちの口から出て来た名は……
(また、ミーア・グラハム男爵令嬢か……)
「───彼女と話をしていたら……疑問点も全て吹き飛んでしまって、おかしいなと思えなくなったんです……か」
似たような事を側近だった彼らの中の誰かも言っていなかったか?
あの女は何か変な力でも使っているのでは? そう疑いたくなる。
だが、調べても調べても分からない。
だからこそ、不気味だ。
「……クロエ」
彼女はこれまで、たくさん傷付いてきた。
だからこそ、これ以上は傷付けさせたくない。
(早くジョバンニとの婚約を解消させてやりたい……そして)
クロエの望む未来を手に入れて欲しい。
面接官たちは、今日クロエを呼び出して最後の質問をすると言っていた。
本来ならこんな事は行われないが、クロエを担当した面接官たちはどうしても聞きたいのだと言っていた。
「最後の質問……クロエはなんて答えるのだろうか?」
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