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第12話 近付く二人の距離

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「私に……出来る事?  あるでしょうか?」

  おそるおそる私がそう口にしたら、殿下は優しく笑う。
  そして今度はそっと頭を撫でた。

「あるよ。そうだな……フェリはまだ、これからなんだよ」
「これから……」

  その言葉に胸が熱くなる。

「フェリ、失敗しても怒らないから怪我だけはするな」
「リー様?」
「自分を大事にしてくれ、いいな?」

  (……ん?  リアム殿下、様子が……いつもと違う?)

  うまく説明出来ないけれど、そう語るリアム殿下の様子や雰囲気がこれまでと違うように感じた。

  (……ただ、私を心配しているだけじゃ……ない?)

「とりあえず、血だらけのフェリは見たくないので、仕込みの手伝いはまた後日にするとして空いた時間はどうする?」
「そうですね……」

  ただ、ぼんやり過ごすのも何だか嫌だと思う。
  かといって皆の仕事の邪魔をするのも……

  (あ!  そうだ!)

「本、読んでいてもいいですか?」
「本?」

  リアム殿下が首を傾げた。
  
「リー様の執務室のお隣の部屋、屋敷を案内された時に気付きましたけれど、色々な本がありますよね?  空いてしまった時間はそれを読んでいては駄目ですか?」
「……」

  私がそうお願いしたら、リアム殿下は驚いた顔のままじっと私を見つめた。

「リー様?」
「……いや、フェリがそうしたいなら、構わない。好きに過ごせ」
「ありがとうございます!」
「……」


  ───やっぱりバカな私は気付かない。
  これでは、何も出来ずに捨てられた、のはずの私が“堂々と本を読めます”と言っている事に。
  平民はそこまで当たり前のように文字を読まないのに。
  前世の記憶が戻ろうとも、世間知らずの王女だった私はどこまでも自分の生きて来た世界の事しか知らないでいた───



────……


「すごい本の数!」

  ずっと気になっていた。どんな本が並んでいるのだろうかと。

「んー、政治・経済……やっぱりお堅い本が多いわね。さすがにこれは私には難しそう」

  はっきり言って、王女フェリシティは、勉強が嫌いだ。
  学園に通っている間もまともに勉強などしていなかった。

  学園でやっていた事と言えば……

  ペトラに嫌味を言う。
  取り巻き令嬢達と優雅にお茶をして過ごす。
  ペトラを虐める。
  お兄様とネイサンに睨まれる。
  授業はぼんやり聞き流しながら、ペトラにダメージを与える作戦ばかりを考え、即実行!

「………………」

  (いったい何をやっていたの、私……)

  そういえば、テストの点もいつも散々だった。
  でも、“王女だから”進級も出来て、“王女だから”卒業も出来た。

  (本当に反省する事ばかりね)

  私はまず手始めに、一番取っ付きやすそうな“歴史書”から手に取って読んでみる事にした。


───……


「……リ」

「フェリ!?  大丈夫か?  そんな格好でうたた寝していたら、風邪ひくぞ?」
「……う?」

  身体を揺さぶられて薄ら目を開ける。

  (あれ……私)

  目の前にはリアム殿下の端正なお顔。
  すっかり忘れていたけれど、この方は乙女ゲームの攻略者(隠れキャラ)なだけあってカッコイイ。

  (そっか、私、本を読んでいて……そのまま……)
  
「フェリ、寝ぼけてるな?」

  (しかめっ面なのにカッコイイ……)

「フェリが気になって時折チラチラ様子を見ていたが、目を輝かせて本を読んでいたと思っていたら、今度はそんな無防備なか……顔で寝るとは……」
「んー……リー……様!」
「って、おい!  フェリ!?  っっ!!」

  寝ぼけた私はヘニャッとした笑顔を浮かべてそのままリアム殿下に抱き着いた。
  
「フェリ!」
「……」
「こら、フェリ!」
「…………なの」

  まだまだ、どこか寝ぼけている私は何も考えず口にする。
  そして、目の前の暖かい温もりに思いっきり縋った。

「好き、なの。この、温も…………り、安心……する……」
「!?  おい、フェリ!  こら起きろ!  寝ぼけてるのか?  そして、再び寝るなーー!!」





  その後の私は、どうやらそのままリアム殿下に部屋まで運ばれベッドに寝かされた。
  そして、目が覚めると……
  ベッド脇に座って私の様子を伺っていたリアム殿下からの軽いお説教が待っていた。


「いいか、フェリ!  うたた寝は注意しろ!」
「は、はい!」
「風邪を引く可能性だけでは無い!  とんでもない攻撃力と破壊力を秘めている!」
「は、はい!」

  (…………攻撃力と破壊力?  何の話?  私、寝ながら何か壊したの?)

  疑問が生まれたけれど、今、話の腰を折るのはいけない。

「それから、人の温もりが恋しいからと言ってむやみやたらに抱き着くな!」
「ご、ごめんなさい……」

  これには反省しかない。
  寝ぼけて目の前のリアム殿下に温もりを求めて抱き着いたとか、完全に痴女だと思う。

「……全く。俺だったから良かったものの……これが他の男だったらどうするつもりだったんだ!?  屋敷には男の使用人もいるんだぞ?  襲われても文句は言えないぞ!」
「は、はい!」
「いいか?  これから人が恋しくなった時は俺を呼べ!!  俺が何度でも抱きしめてやる」
「は、はい!  ……ん?」

  (……この方、今なんて?)

  リアム殿下、大真面目な顔で何て言った??
  返事をしたものの一瞬で理解出来なかった私はおそるおそる聞き返す。

「リー様?  あの今……」
「だから、俺以外の男に抱き着くのはダメだと言っている!」
「えっと……リー様、は良いのですか?」
「あぁ、俺だけだ!」
「……」

   (……リアム殿下……あなたって人はなんて発言を)

  戸惑う私にリアム殿下は畳み掛けるように言う。

「いいか?  何かあったら必ず俺を呼べ!  俺を呼ぶんだぞ!」
「……」

  (ふふ、何でかしら?  笑いが込み上げてくる)

  私は込み上げてくる笑いを抑えようとするも身体は耐えきれずプルプルと震えてしまう。

「フェリ?」
「ふふ、ふふ…………ありがとうございます、リー様」
「……っ!」
「リー様?」
「……」

  私が笑顔でそう答えると、リアム殿下は何故かそのまま驚いた顔をした状態で固まった。

  
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