【完結】そんなに好きならもっと早く言って下さい! 今更、遅いです! と口にした後、婚約者から逃げてみまして

Rohdea

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4. 私が選ばれるなんて有り得ない

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「マゼランズ公爵令嬢」
「……何でしょうか」

  チラリと横目で殿下を見ると、肩が震えている。
  これは笑いを堪えているに違いないわ。

「君の言う通り…………だ……ハハッ」
「……」
「確かに話してみないと……フハッ……分からない……ものだね……ハハッ」
「……ご理解頂けて何よりですわ」
「あの、“わたくしはぁぁぁぁぁぁ……”の続きが……フッ……気になってしょうがないんだが」
「…………私もです」
「だろう?」
「っ!」

  殿下が笑いながら私の方を見る。
  その笑顔は先程の少し怒っていた時の顔とあまりにも違いすぎてドキッとした。

「リスティ嬢、それで君は大丈夫だったか?」
「え!」

  なぜ、急に名前で呼ぶの?
  またまた、胸がドキッとした。

「絡まれていたのだろう?  何かされなかったか?  怪我は無いか?」
「え、え?」

  これは、もしかしなくても心配されているの?
  そして、何故私はドキッとしたの……

「だ、大丈夫ですわ。いつもの事ですし」
「いつもの事?」
「あ……」

  ついそんな言葉が口から出てしまった。

  (ミュゼット様がいつもいつも私に絡むからだわ!!  もう!)

「君はいつも、そんなに絡まれていたのか?」

  殿下が真っ直ぐな視線でそう訊ねてくる。
  何故か上手くその顔が見れなかった私は目を逸らす。

「いつも……と言いますか……」
「あぁ、その顔は毎回だと言っている顔だな。成程……そうか」
「いえ、ですからー……」
「リスティ嬢」
「っ!?」

  殿下が手を伸ばしたと思ったら、そのまま私の頬にそっと触れ撫でた。

  (えぇ!?)

「リスティ嬢……君は美人だからな。やっかまれてしまうのだろうな」
「……!?  び、美人?  私がです、か??」

  とんでもない言葉に私の声は裏返ってしまう。

  (と、突然、な、なんて事を言うの!!)

  しかも、私の頬に触れて……
  先程はたった一人と添い遂げたいと言うような発言をされていたけれど、実はこの方……タラシなのでは??
  そう思わずにはいられない。

「この透き通る様な肌も、吸い込まれそうな青い瞳も……キレイだ」
「!!」

  どうしてしまったのかしら?
  王太子殿下……ここに来るまでの間に頭でも打ってしまったのではなくて?

「あ、あ、あの!  そろそろ中に入りませんか?  皆様、殿下の事をずーっと待っているんですよ!?」
「……」

  そこで何故か殿下は少し寂しそうな顔になった。

「何故、そんな冷たい事を言うんだ?」
「つ……めたい?」

  え?  私は冷たい??  今のが??
  自分で自分が分からなくなる。

「……リスティ嬢、私はな……」

  オロオロする私に殿下が何かを言いかけたその時、

「あ、王太子殿下~お待ちしておりましたわぁ!」
「やっと、いらしてくれたんですね!」
「さぁ、どうぞ!」

「「!!」」

  なかなか現れない殿下に痺れを切らして様子を見に来たのか、数名の令嬢に見つかってしまった。
  慌てて殿下が私から手を離す。

「あら?  リスティ様、お姿が見えないと思っていましたが」
「……まさか、殿下と二人で?」
「まぁぁ、抜けがけですの?  狡いですわぁ!!」

  (あぁ……その香水を纏わせた身体で近付かないで欲しい!)

「い、いえ!  違いますわ!  偶然そこでお会いしただけです!!」

  勢いよく詰め寄られてしまい私は咄嗟にそう口にした。
  この時、殿下の眉がピクリと反応していたのだけれど、弁解に必死だった私はその事に気付く事は無かった。

「……そうだ。遅くなって申し訳なかった。皆が待っているのはこちらか?」

  殿下はそう言って令嬢達の待っているテーブルへ向かおうとする。
  そこで私はふと違和感を抱く。

  (……?  さっきより声が低くなったような……機嫌が悪くなった……?  気の所為?)

  あ! この令嬢達はなかなかの匂いなので、香水の匂いに我慢しているのかもしれないわ!  と思った。



   ───何はともあれこうして殿下の到着で、ようやくお茶会は開始となった。


  殿下は各テーブルを回って令嬢達と談笑しており、その姿を見ながら私は殿下の言っていた“たった一人”が見つかるといいですね!
  と思いながら静かに見守った。
  また、私のテーブルに来た時の殿下は、私とは簡単な挨拶だけして他の令嬢と話を弾ませていたので、その様子に他の令嬢達は驚いていた。

  (これで、ようやく私も王太子妃の最有力候補からは外れられるわ)

  そしてこの後、無事に婚約者さえ決まってくれれば……
  政略結婚する事に変わりはないけれど、少なくとも王家に嫁ぐ事は無くなる。

  そんな気持ちで私はお茶会を終えて屋敷に戻った。




「リスティ!  どうだった!?  殿下のハートをばっちり射止めたか?」
「え?」

  (近っ……近いわよ、お父様!)

  帰宅するなり鼻息を荒くしたお父様から質問攻めに合う。
  お父様は私が殿下に気に入られて帰ってくる事を期待していたらしい。

「……お父様、申し訳ないですが……私は殿下の婚約者には選ばれないと思います」
「なんだと!?  では、あのオコランド侯爵の小娘に負けたと言うのか!!」

  オコランド侯爵の小娘って……
  本当にお父様達の間には何があったのかしら?

「いえ、ミュゼット様も選ばれないと思います……」

  あれで選ばれたら国の将来が心配よ。
  殿下もさすがにそこは見る目があると信じたいわ。

「なら、誰だ!?  誰が選ばれると言うんだ!!」
「……私に言われても。とにかく……私ではありません!  ですから期待に応えられず申し訳ございませんでした、お父様」
「あぁ、なんて事だ……」

  お父様は大変大きなショックを受けていたようだけれど、そこはもう諦めて欲しいわ。
  バラ園の件では怒らせてしまっているし、その後のお茶会のあの様子で私が選ばれるなんて有り得ないもの。




  ──と思ったのに。

  何故かその数日後、私の手元に王家から手紙が届き……
  なにか仕出かした?  と思いその手紙をドキドキしながら開封したら、

  リスティ・マゼランズ公爵令嬢をルフェルウス・シュトラール王太子殿下の婚約者として決定した!
  という通知だった。

「は?  何故なの??  何の冗談?  イタズラにしては手が込みすぎだわ」

  ……とりあえず意味が分からなかった。

    
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