【完結】そんなに好きならもっと早く言って下さい! 今更、遅いです! と口にした後、婚約者から逃げてみまして

Rohdea

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17. ピンクの策略(?)から生まれる誤解

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「……どうしてエレッセ様が王宮ここに?」

  自分の声がどこか引き攣っている気がする。
  表情も上手く笑えていない気がする。

「そんなの決まってますよぉ!  診察です、の」
「……!」

  エレッセ様はここ……と、を指してにっこり笑いながらそう言った。
 
「今日は念の為にと設けられた再診察の日だったんですけど、診断結果も出たので、ついでに殿下とお会いしてぇ……」
「ルフェルウス様に会ったの!?」 
 
  “診断結果”と聞いて私は思わず動揺し反応してしまった。
  毅然とした態度のままでいたかったのに。

  そんなエレッセ様は私の動揺を感じ取ったのか嬉しそうににんまりと笑う。

「ふふふ」
「……だから、ルフェルウス様に」
「ふっふふ~。そういう事ですよ。リスティ様」
「……」
「安心して下さいね!  私には困った時に助けてくれる人が、たーくさんいるんですから。大丈夫です!」
「!」

  助けてくれる人……それが誰の事を指しているのかは一目瞭然だった。





  その後の事はあまり覚えていない。
  私はそのまま部屋に戻ると、ルフェルウス様の上着を抱きしめながらしばらくの間、ぼんやりとしていた。
  やがてハッと我に返り、そろそろ屋敷に帰らなくてはと思ったのに全然足が動いてくれない。
  それでもどうにか気力だけで立ち上がった。

  ルフェルウス様には、
  上着のお礼と、大事な話があるので手が空いた時に時間を少しだけ下さい。
  とだけ書き残して私は王宮を後にした。



  (もう、お妃教育もおしまいね)

  勉強するのは好きだったので、それなりに楽しんでいたのだけど。
  寂しいなんて思うのはそのせい。
  ルフェルウス様と繋がりが切れてしまう事が寂しい……では断じて無い。

「あ、そっか。だから、マース様はわざわざ私の所へ来たのね」

  ちゃんとあの、身を引いてくれという話には根拠があったんだわ。
  ルフェルウス様の側近だもの。彼が知らないはずが無い。

  (エレッセ様にのせられた身勝手な言い分では無かったのだわ)



   ……そんな事を思いながら私は屋敷に帰った。




*****



「……リスティ。頼むからもう一度言ってくれないか?」
「ですから、私との婚約破棄をお願いします、と。いえ、この場合は了承致します……でしょうか?」
「!?」

  私のその言葉を聞いたルフェルウス様の顔がみるみるうちに青くなっていく。

「リスティ。この間、私は婚約破棄はしない、と言ったが?」
「そうですね、でも状況が変わりましたよね?」
「……?」

  あれ?
  どうして、ルフェルウス様、こんな反応になるのかしら?
  もう、話は聞いているはずよね?
  疑問に思いながらも私は話を続ける。

「やはり、こうなったからには、私はもうルフェルウス様の傍にはいない方がいいと思います」
「こうなった……?」

  また、反応が変だなと思いつつも話を続ける。

「マース様からルフェルウス様が妃は私以外に考えていないと口にしていたという話も聞きましたが……」
「は?  マースが?  何だって?  あいつ……」

  ルフェルウス様が少し動揺した。

「私は、ルフェルウス様とエレッセ様はお似合いだと思いますよ」
「!?  待て!  何故そこで、あのピンク色の女が出てくるんだ!?」
 
  ルフェルウス様が頭を抱えた。

  (よく分からない反応だわ……)

「……?  私の話はそれだけです。どうぞ話を進めて下さい。お忙しいのにお時間頂き、ありがとうございました」
「リスティ!」

  私は言いたい事は言えたので、一礼して部屋を出て行く。

  (婚約破棄……この間はつい口走っただけと言って無かった事になったけれど、今度は違う……)

  今度こそ私達の婚約関係はおしまいになる。

  (あれ?  でも、おかしいなぁ……やっぱり胸が痛い)


 

   ───後に私はこの時の事を激しく後悔する。

  この時の私はルフェルウス様にもっと確実にしっかりはっきりと話を聞くべきだった。

  決定的な言葉を口にしたくなくて曖昧な言い方をして濁してしまった。
  そのせいで、おかしな方向のまま話は進んでいった……
  ……私達の話は初めから噛み合っていなかったのに。



   ───これが、勘違いと誤解の始まりだった。




「は?  リスティ?  お前何を言っている?」
「ですから、近々、王家から……ルフェルウス様からお話があるはずです」

  その日の夜、私はお父様にルフェルウス様との婚約は無くなるはずだと伝えた。

「何を馬鹿な事を言っているんだ!  殿下との仲も悪いなんて話は聞いていないし、王妃教育もしっかり受けていて悪い評価も貰っていないはずだ!」
「……」

  しっかり報告した事は無かったのにお父様は私の日々の様子を知っていたらしい。
  油断も隙もない。

  (まぁ、それだけ私を王妃に……と期待してくれていたのでしょうけど) 

  けれど、残念ながらその期待には応えられない。

「ですが、ルフェルウス様……殿下は私以外の令嬢を娶る事になりますから」
「だから、何でそうなるんだ!」
「それはー……」

  私は現状をお父様に報告する。

「そんな話はどこからも聞いていないぞ!」
「だから、これから話が来ると言っているではありませんか」
「……ぐっ」

  お父様が押し黙る。

「そういうわけでお父様。私、しばらく学園も休もうと思います」
「何だと?」
「色々と騒ぎになる事は目に見えてますから。皆様の勉強の場を騒がせたくはないのです」

  (なんて言ってみるけれど、本当は私がルフェルウス様に会いたくないだけ)

  だって、エレッセ様と仲睦まじくする姿なんて見たくな──……

「おい!  リスティ?」
「と、とにかくお父様!  王家から破談の話が来たら素直に受けて下さいませね!  決して突っぱねたりしないで下さい!」

  それだけ言って私は部屋へと戻る。
  
  (私はどうして……)

  自分で自分の気持ちが分からず混乱した。





  そうして私は学園を休み、ルフェルウス様との接触も避けて過ごしていたのに。
  待てど暮らせど王家から“破談”の話がやって来ない。

「どういう事?」
「どういう事だ、リスティ」

  お父様にも詰め寄られる。
  だけど、そんなの私の方が聞きたい!

「なぁ、リスティ。お前の言っていたなんだがー……」

  と、お父様が何かを言いかけた時、執事が躊躇いがちに入室して来た。

「失礼致します、旦那様。実は……お客様がお見えです」
「客?  今日は訪問の予定は受けておらんぞ?  そんな失礼な奴は断れ」
「それが……お断りするのはちょっと……」

  そんな困るなんて、いったい誰が訪問したというの?

「どういう事だ?」
「その、お客様……いえ、訪問者はルフェルウス殿下なのでございます」
「「!!」」

  その言葉に私とお父様は顔を見合わせる。

  (ルフェルウス様……とうとう婚約破棄の話をしに来たのね)

  と思ったのに。
  
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