【完結】そんなに好きならもっと早く言って下さい! 今更、遅いです! と口にした後、婚約者から逃げてみまして

Rohdea

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18. 婚約破棄してくれない

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「連絡もしないで急な訪問、申し訳ない」

  ルフェルウス様はとても申し訳なさそうな顔で現れた。

「いえ……ですが殿下……」
「重ね重ね申し訳ないのだが、あまり時間が無いので簡潔に話だけさせてもらおうと思って来たのだが」
「はぁ」

  お父様も何とも言えない反応になっている。
  ちなみに私は柱の影に隠れてこっそりとルフェルウス様とお父様の様子を窺っている。

「……リスティ!  君の事だ。どこかその辺で今、私の事を見ているのだろう?」
「!!」

  図星をさされてしまい、その場で飛び上がりそうなくらい驚いた。

  (な、なぜバレてるの!)

「姿は見せなくても構わない。だが、これだけは言っておく!」

  な、何かしらと息を呑む。
  お父様もゴクリと唾を飲んだ。

  (まさか、こんな玄関先で婚約破棄宣言でもするつもり!?)

  と、覚悟したのに、ルフェルウス様はよく通る声でハッキリと言った。

「リスティ!  私は君と婚約破棄なんてしない!  絶対にしないからな!」

  ───え?

「殿下……それは」
「騒がせてすまなかったな。マゼランズ公爵」
「いえ……」

  お父様もポカンとした顔をしていて、いまいち事態が飲み込めていない様子。

「私にリスティとの婚約を破棄する意思は無い」
「そ、そうですか!  そうですよね!」

  お父様の顔がみるみるうちに笑顔に変わっていく。

「リスティのやつ、おかしな事を言っているなと思ってはいたのですよ。何かを勘違いしているのでしょう!  はっはっは!」

  (ど、どういう事?)

「だからリスティ。学園に来てくれ。君は勉強が好きだろう?  私のせいでせっかくの君の勉強する機会を奪ってしまうのは嫌なんだ」   

  (何よそれ……)

  どうして、私が勉強好きだなんて知ってるの?
  私は一言もルフェルウス様にそんな事を言った覚えなんて無いのに。

「公爵、すまない。時間が無いので本日はこれで。とりあえず言いたい事は言えたので失礼する」

  それだけ言うと殿下は急いで帰って行った。
  多分かなり忙しい合間に無理を言って立ち寄ったに違いない。

「……」

  ──婚約破棄なんてしない!

  ルフェルウス様のその言葉だけが私の頭の中でぐるぐるしていた。





「全く、お前と言う奴は!  なんて人騒がせな」
「……」
「殿下にはその意思が無いそうじゃないか!  全くヒヤヒヤさせおって」

  (おかしい。ルフェルウス様はエレッセ様をどうする気なの?)

「お父様……ルフェルウス様は私を正妃に据え置いてエレッセ様を側妃にするのかしら?」
「は?  お前は何を言い出した!」

  お父様が目を丸くして驚いている。

「だって、ルフェルウス様はエレッセ様を……でも、私とは婚約破棄しないなんてそれ以外に無いでしょう?  そんなの私は嫌……私はたった一人と……」
「待て待てリスティ。突っ走るな!  お前の悪い癖だ」

  お父様が必死に宥めようとしたけれど、私の頭の中はその事でいっぱいだった。



*****



  久しぶりに登校する学園は少しドキドキする。
  校舎に入り教室の目前でその声が聞こえて来る。

「オーホッホッホ、エレッセ様、あなたその学力で殿下の妃の座を狙っているんですの?  愚かですわ」
「勉強はこれから頑張るんですぅ!  だって私にはこれから最高の教師がついてくれるんですからぁ」

  (この光景も相変わらず変わっていない……)

  縦ロール  対  ピンク頭のこの戦いは果たして何回戦目なのだろう。

「最高の教師……ですって?」

  ミュゼット様の顔がピキピキと盛大に引き攣る。
  学年順位で10番以内に入っているミュゼット様は、きっとこれまで厳しい家庭教師についてもらいながら勉強に励んで来たに違いない。

  (その気持ちとても分かるわ……)

  なので、最高の教師なんて聞くと気になって仕方ないのだと思う。

「そうですよ~、私はこれから王宮にいる……」

  (え?  王宮?)

  エレッセ様がそこまで言いかけた時、「いい加減にしろ!」とルフェルウス様の静止が入った。
  やっぱり止められるのは殿下だけだ……
  そんな空気が流れると共に争いは終了したけれども、私はどうしてもエレッセ様の言いかけた言葉が気になってしまう。

 「王宮で教育?  ……それは、つまりお妃……王妃教育……?」

  あぁ、やっぱりエレッセ様はルフェルウス様の元に……

  (いくら、あれが直接ルフェルウス様のせいではなくても、無関係では無いものね)

  我儘だと分かっていても……やっぱりたった一人になれないのは嫌。
  そう思った。






「ルフェルウス様、やっぱり私とは婚約破棄しましょう!」
「……リスティ。それは何回目だ?」
「えぇと……」

  私は両手の指を折り曲げながら数えていく。

「……」
「……駄目です……とりあえず両手の指では足りません!」
「言い過ぎだと分かってくれ!  ちなみに今ので56回目だ!!」
「ごじゅうろく……」

  そんなに口にしていたの?
  という思いと、何故そんな正確に答えられるの!?  という疑問しかない。

「それで、ルフェルウス様は」
「リスティ。私がこれを君に言うのも56回目だ。しない!」
「ルフェルウス様……」

  肩を落とす私にルフェルウス様が近付いて来て私の両肩を掴んだ。

「なぁ、リスティ。何が嫌なのか言ってくれ。私の事が嫌いか?」
「き、嫌いじゃないです……」

  いつだってドキドキさせられるけど嫌いなんかじゃ……ない。

「なら、何だ?」

  ルフェルウス様が私の顔を覗き込むようにして見つめてくる。

「!!」

  また胸が高鳴ってドキドキが止まらない。

  本当はもう、分かってる。
  見つめられて何でこんなにドキドキするのかも。
  心の奥底で、こんな事を口にしているくせに本当は婚約破棄しないと言ってくれる事に密かな安堵の気持ちを抱いている事も。

  (私、最低だ。でも、この気持ちを認めてしまったら……)

  あなたの“たった一人”になれない事を受け入れないといけない。
  だから、辛い……

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