【完結】そんなに好きならもっと早く言って下さい! 今更、遅いです! と口にした後、婚約者から逃げてみまして

Rohdea

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19. ピンクからの呼び出し

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  私が何度、婚約破棄の事を口にしてもルフェルウス様から返ってくる言葉はいつだって「しない」の一点張り。
  そんな不毛なやり取りばかりを繰り返してなかなか決着はつかなかった。

  もう何回その言葉を口にしたのか……
  そんなある日。

  エレッセ様ピンクは私を呼び出した。


  ──ルフェルウス殿下の事で大事な話があります。
  放課後、南棟の資料室で待っていて下さい。  エレッセ・ファンファ

  
「……あからさまな呼び出しだわ」

  これは絶対、まともな話では無いうえ、のこのこ向かったらどんな目に遭わされるか分かったものじゃない。

「だけど、いい加減エレッセ様とも話さないといけないのも確かなのよね」

  私は手紙を読みながらため息をついた。




  ここ数日のエレッセ様は、突然何かと私に絡んでくるようになった。
  そして、
「実は私、この間、殿下とぉ……あ、しまった!  ごめんなさーい。秘密のお話でしたぁ」
「殿下の側近の皆様が、将来のためにと言って私の面倒を見てくれていてぇ、ふふ、優しい人達ですよねぇ」
  などなど、自分がいかにルフェルウス様と親密なのか。また、ルフェルウス様の側近たちと懇意にしているのかをうっかりを装って私に話してくる。
  いくら私でもその話を鵜呑みにはしていない。

  (でも毎日、嘘か本当かも分からない話ばかり。いい加減、話を聞かされるのも疲れたわ)

「行きたくないけど……」

  行かなかったら行かなかったで、
「リスティ様は、男爵令嬢だからと言って私をバカにしているんですね……」
  とか言って、大勢の前で泣き出すのは目に見えている。
  初めて絡まれた日、面倒で無視をしていたら実際に大勢の生徒の前で泣かれた。
  

「ミュゼット様はよく毎日相手にしていたわ……尊敬する……」

  どうして、あんなにミュゼット様が毎日毎日キーキー怒っていたのか不思議だったけれど、エレッセ様は無邪気を装って人の嫌なところを語り怒らせるようなツボを突いてくる。
  ミュゼット様の性格上、黙っていられなかったのだとようやく分かった。

  (何が面倒って、エレッセ様はきっとこれらを全部計算してやっている事だわ)




  そして、放課後。
  私はエレッセ様に言われた通りの場所へと向かう。


「あ、リスティ様、来てくれたんですねぇ、ありがとうございます~」
「……わざわざ、こんな所にまで呼び出して何のお話かしら?」

  私の言葉にエレッセ様はにっこりと笑う。
  冷たく言い放ったのに全然効いてない。

「決まってるじゃないですかぁ、リスティ様と二人でお話したかっただけですよ~」
「……」
「だって、リスティ様ったら全然、身を引いてくれないんですもん。どうしてですか?」

  やっぱりなという内容だった。  
  そしてこの様子。
  まともに話すのは無理そうだった。

「はぁ、リスティ様って案外図々しいんですねぇ」
「……」
「いつまで、婚約者の座にしがみつく気なんですかぁ?  見苦しいと思いますー」
「……」
「もう、分かってますよねぇ?  私の方が殿下の側近達に認められてるんですよ」
「……」

  エレッセ様がルフェルウス様の側近に近付いては自分の味方にしている事はもう誰もが知っている。
  既にマース様とミッチェル様はエレッセ様の虜なのは言わずもがな。
  先日は残る二人にも擦り寄っている姿を見かけた。

「うふふ、ですから、ここまで来れば最終的に、があっても無くても、殿下が選ぶのはわた……」

  エレッセ様がふふんと勝ち誇った顔を見せたその時──

  バンッと資料室の扉が開いた。

「いい加減にしろ!  ……勝手な事を言うな!」

   私とエレッセ様がその音と声に驚いて入り口をに振り返ると、ルフェルウス様が息を切らして資料室にやって来た所だった。

「で、殿下?  どうしてここに?  私はミッチェル様にちゃんと足止めを頼ん……あっ」

  驚いたエレッセ様がポロッとそんな言葉をこぼした。
  失言に気付いて途中で口を噤んだけれどもう遅い。当然、ルフェルウス様もその言葉を拾っていた。

「……ミッチェルの様子が不自然だったのはそういう事か。あぁ……だから最近、あいつらは……」

  ルフェルウス様は何か思う事があったのか、ブツブツ呟きながら何かを確認していく。
  そして、私の側までやって来ると、「リスティ」と私の名前を呼んだ後、ヒョイっと私を抱き上げた。

「は!?」
「!?」

  エレッセ様がルフェルウス様の突然の行動に驚いている。
  私も驚きすぎて何の声も出なかった。

「ファンファ男爵令嬢、申し訳ないけれど私のリスティは返してもらう」
「え?  何で……」
「行こう、リスティ。君がこんな所にいる必要は無い」

  そう言って私を抱えたまま、ルフェルウス様は資料室から出ようとする。

「え、あ、やだ。何で……殿下、ちょっと……待っ」

  エレッセ様の制止の声を無視してルフェルウス様はスタスタと資料室から出て行った。



  

「……ルフェルウス様!」
「何だ?」
「降ろしてください、自分で歩けます」
「駄目だ」

  (あ、これは何が何でも離してくれない時の顔だ)  

  逆らってもいい事がないので私は大人しく運ばれる事にした。



  やがて誰もいない教室に着くと、ルフェルウス様はようやく私を降ろしてくれた。

「怪我は無いか?」
「ありません……」
「そうか」
 
  ルフェルウス様は安心したように笑う。

「リスティからの伝言を見て驚いた」
「彼はちゃんと伝えてくれたんですね?」
「あぁ」

  エレッセ様のところに赴く前、私はルフェルウス様に伝言を残す事にした。
  だけど、ルフェルウス様の側近の事はどうしても信じられない。
  そこで、私は教室にいたルフェルウス様のクラスメートの令息に伝言を頼んだのだけど……  

「もっと早く駆け付けられなくてごめん」

  そう言ってルフェルウス様が私を抱きしめる。

「いえ、来てくれてありがとうございます」

  だけど、やっぱり……

「どうした?」
「私がいつまでもルフェルウス様の婚約者でいるから、エレッセ様はあんな事を……」
「リスティ!」

  ルフェルウス様はそれ以上は言うなと言って抱きしめてくれたけれど、
  この時、すでに私の心はかなり疲れていた。


 
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