【完結】そんなに好きならもっと早く言って下さい! 今更、遅いです! と口にした後、婚約者から逃げてみまして

Rohdea

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20. 助けてくれた人は

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  翌日──

  (何だか身体が重いわ)

  昨夜、あまり寝付けなかったせいかもしれない。 
  そんな重たい気持ちのまま学園に向かった。
 
  (私、何やっているんだろう) 

  結局、自分はどうしたいのかな?  
  自分の事なのによく分からなくなって来た。
  
  そんな事をぼんやり考えていたせいか、私は教室に向かう途中で階段を踏み外しそうになる。

「……きゃっ!」
「危ない!」

  有難い事に後ろから腕を掴んでくれた人がいたので階段からはどうにか落ちずに済んだ。

「……!」
「大丈夫ですか?」
「だ、大丈夫……です……ありがとう、ございます」
 
  そして、ちゃんと顔を見てお礼を言うためにその人の顔を見て驚いた。

「あなた……昨日の」
「あぁ、やっぱり。マゼランズ公爵令嬢だったんですね」

  私を助けてくれた人は、昨日、私がエレッセ様に会いに行くにあたってルフェルウス様への伝言を頼んだ人だった。

「き、昨日は伝言を伝えて頂きありがとうございました。そして今も……」
「階段の途中でぼんやりしていると危険ですよ?」
「はい、その通りですよね。すみません……」

  本当に彼の言う通りだ。
  
「それに、もしもマゼランズ公爵令嬢がうっかり怪我でもしたら、殿下が大騒ぎをしそうなので怪我がなくて何よりです」
「え?  大騒ぎ?」

  何故か彼はそんな事を言う。
  私が不思議そうな顔をしたのが分かったのか、彼は苦笑しながら言った。

「いえ、昨日のあなたの伝言を伝えた時の殿下の様子が……」
「様子が?」
「かなり、取り乱していましたので」
「……」
「相当、心配したのでしょう」

  その言葉で、あの場に息を切らして現れたルフェルウス様の姿を思い出す。

  (ルフェルウス様……)

「ファンファ男爵令嬢は学園内でもかなり悪目立ちしているので、心配する気持ちも分かりますが」
「……悪目立ち」
「えぇ。クラスメートとしては本当に迷惑だな……と、しまった言い過ぎた」

  (あぁ、そうよね。クラスメートとしてはそう思うわよね……)

  妙に納得してしまった。

「何であれ、殿下はとてもあなたが大事なんですね」
「そ、んな事は……えっと?」
「あぁ、名乗りもせずすみませんでした。俺はエドワード。エドワード・ニフラム。ニフラム伯爵家の嫡男です」
「……エドワード様。私はリスティ・マゼランズです。改めて昨日はありがとうございました」
   
  今更ながら挨拶を交わす。
 
「エドワード様は私の事を知っていたのですね」
「リスティ様は殿下の婚約者として有名ですから」

  その言葉には曖昧に微笑む事しか出来ない。

「……」
「……えぇと、何か?」

  エドワード様が何故か黙り込み、じっと私の顔を見た。

「リスティ様はどこか危なっかしい」
「……?」
「昨日、殿下があれだけ慌てていたのが分かる気がする」
「危なっかしい……?」
「放っておくと突拍子もない事をしでかしそうな」
「!?」

  そんなに!?
  と驚く。

「あ……申し訳ないです。俺の側にも放っておくと突拍子もない事をしそうな子がいるので……つい」

  そう口にするエドワード様の顔がふっと和らいだ。 
  なんて優しい顔をするのかしら。

「婚約者の方ですか?」

  私が訊ねるとエドワード様はギクッと固まった。

「違っ!  ……今はただの幼馴染……でも」
「……でも?」
「いつかは……」
 
  エドワード様の顔が赤くなった。それだけで、エドワード様にとってその方が大事なのだと私にでも分かる。
  きっと、これから婚約の申し込みをするつもりなのね。

  (いいなぁ)

  何だかほっこりした気持ちになった。

「ありがとうございます、エドワード様と話してたら元気が出て来ました」
「え?」
「その方と上手くいくといいですね、では、昨日も今日もありがとうございました」

  そう言ってエドワード様との話を終えようとしたのだけど、

「リスティ様」
「はい?」

  何故か引き止められた。

「俺がこんな事を言うのはどうかと思いますが、昨日の殿下は嬉しそうでした」
「嬉しい?」
「あ、もちろん慌てていましたが、リスティ様に頼られて……その、どこか嬉しそうにも見えたので」
「……」

  それはどういう感情?

「どうしてリスティ様の元気が無いのか俺には分かりませんが、殿下に話したらどうですか?」
「え?」
「抱えている不安や悩みをです。やはり好きな女性に頼られたら嬉しいですからね」
「好きな女性?」

  私が首を傾げると、エドワード様もあれ?  という顔になった。
  
「……」
「……」

  何故か互いに固まる。
  ハッとしたエドワード様がおそるおそる訊ねて来た。

「……?  えっと……リスティ様、殿下に好きだ、と言われた事は当然ありますよね?」
「当然?  いえ、一度も無いですよ?」
「え?  無い!?」

  その言葉にエドワード様は何故か慌て出す。

「確かに私はルフェルウス様の婚約者ではありますが、都合が良かったから選ばれた……それだけですよ?」
「えっ!  ほ、本当に?」
   
  私は頷く。

「では、何かそう好意を感じる発言とか態度とか……」
「……いつも距離は近いですし、抱き寄せられる事は多い気がしますけど、それって普通なんですよね?」

  その言葉で前にキスをされそうになった事を思い出す。
  あの時の事を思い出して思わず赤くなるけれど、あれはムラムラした結果だし……

「それが普通……?  殿下は何をやって……いや、だがリスティ様もおかしい……」

  エドワード様はしばらく、うーんと悩んだ後にこう言った。

「やっぱり俺が言うのも変ですが。リスティ様と殿下の間には言葉が足りていない気がします」
「え?」
「とにかく、圧倒的に最も大事な言葉が足りてません!」
「え?  え?」
「いいですか?  普通、好きでもない義務のような婚約者にいくら何でもそこまでベタベタはしませんよ!」

  私は唖然とした。

「……そう、なのですか?  ではムラムラは?」
「は?  ムラムラ?」

   エドワード様は私の発言にとても驚いた顔をした。






「なんて事なの……私は盛大に勘違いをしていたみたい」

  エドワード様との話を終え、別れた私は一人ショックを受けていた。
  彼は不器用な男心というものを必死に説明してくれた。

  (ルフェルウス様の気持ち……)

  ルフェルウス様の気持ちはよく分からないけれども、私は都合の良い婚約者だとばかり思い込んで何も見えていなかったと実感させられた。

「ルフェルウス様に会いたいな」

  エドワード様と話をしたら私は無性にルフェルウス様の顔が見たくなってしまったので、お昼休みに入るなりルフェルウス様を探す事にした。

  でも、教室にルフェルウス様の姿はない。他を探してみるもなかなか姿が見当たらない。

  (今日はお休みかしら?)

  でも、そんな話は聞いていないし……
 
「あ!  ルフェ……え?」

  と思った所でようやく姿を見つけたルフェルウス様は、何故か分からないけれどエレッセ様と一緒にいて。
  しかも、私の位置からは二人が抱き合っているようにも見えた。


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