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第3章 アルストロメリア王国の日常

第59話 アリスとアルの気持ち

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気が付いたらアリスは手で刃を掴んでいた。
手からは血が流れ剣を濡らしていく。

「アリス、何をしているんだ!」

「あなたがバカなことをしたから止めたんじゃないですか!」

「だからって、お前が傷つくことはないだろう!」

アルは剣から手を離し、アリスは剣を投げ捨てる。
アリスの手の平は一筋の切り裂かれた傷から止めどなく血が溢れていく。

「アリス……やっぱり俺はお前にはふさわしくない。だから別れよう」

アルは涙を流しながら自らの服を破り、アリスの手の傷を止血する。
彼は罪悪感と後悔に押しつぶされそうになる。
そんな、アルの胸にアリスは抱き着く。

「アル、私は他の男も愛してしまうダメな女ですが、あなたにはふさわしくありませんか」

アリスは両手でアルの頬に手を当てる。
アルの頬が血で濡れるがアリスは気にせずにさらに言葉を紡ぐ。

「あなたは、私にとって大切な人です。私はあなたがいなければ生きてはいけません。それほどに愛しているのに、アルは私を拒絶するのですか。やはり私はアルには不相応な女でしょうか!」

アリスはアルの瞳を見つめながら心の底からの思いを伝える。
アルもこの言葉に返すようにアリスの瞳を見つめる。

「不相応なものか。アリスがいなければ俺の生きる意味はない。だから、もう俺の前で傷つかないでくれ。アリスが痛みに顔を歪めるのは見ていて苦しい。こんな思いをするのは嫌なんだ」

「なら、あなたもバカな真似はもうしないでください。私はあなたが寿命以外で死ぬのは見たくありません。約束ですよ。私も自分を大切にしますので、アルも自分を大切にしてください」

「あぁ、わかった。約束だ」

アルはアリスを優しく抱きしめ、久方ぶりのアリスの温もりを噛みしめるのだった。




「うぅ、落ち着いたらすごく手が痛いです」

「当たり前だろ。こんな大怪我をしておいて我慢しているほうがおかしいんだ」

アルとアリスとウィルは王城内の医務室で現在治療中である。

「アリス様、動かないでくださいね。傷の深さから骨にまで達していますからね」

彼女の名はアレイア・ミラース。
この王城専属の回復魔法師長兼医師長である。
彼女はアリスの手を魔法役で洗浄すると回復魔法をかける

「いっ……痛いぃいいいい!!!」

アリスは回復魔法の痛みに悶絶するがアレイアは問答無用で魔法をかけ続ける。
アルはアリスを羽交い絞めにし、ウィルは治療中のアリスの手を固定する。

「アリス、暴れるな!」

「アル様、回復魔法は激痛が伴うものですのでアリスには刺激が強すぎたのかと」

アルは叫びながらアリスを羽交い絞めにしているが、ウィルのほうはアリスのことを気遣いながら腕を固定する。

回復魔法により徐々に傷口同士がくっついていくが、その過程で強い痛みが発生し、アリスの額には玉のような汗がにじむ。
ほんの1分のできごとのようであったが、アリスにはそれは長く感じられた。
傷口が完全に塞がったころ、アレイアは回復魔法を解いてから、アリスの手を触診する。

「ふぅ、アリス様。よくがんばられましたね。無事に傷跡もなく完治しました」

アリスは手のひらを見ると、そこには傷の一つもなかった。
これには彼女も安心から脱力するのだった。

「おっと大丈夫ですか?」

ウィルがすかさずアリスを受け止めようとするが、アルが身体を差し込み、アリスを受け止める。

「アリス、大丈夫か。長旅と治療でつかれたんだろう。俺が部屋まで連れて行ってやる」

ウィルはアルの気持ちを察して先に医務室から出ていってしまう。
彼も、アルがアリスのいない間、苦しんでいたことを察したのである。




アリスはベッドでアルに抱きしめられながらため息をつく。

「アリス、なぜリーベルトを連れてこなかったんだ。婚約をするにもアルストロメリア王国に婚約者を連れてくればいいんじゃないのか?」

アリスはこの話が面倒くさかったのである。
責任問題などにされたら面倒なのだ。

「リーベルトは私とエリシアとの子がハルシュライン王国に取られないため婿になると言って、ハルシュライン王国に残りました」

「それで、本当の思惑はなんだ」

「バレましたか。彼はエレオノーラさんのことが一番と言って、彼女のためにハルシュライン王国に残りました。結婚式は当分後にはなると思いますが、今頃はハルシュライン王国で幸せにやっていますよ」

「あいつは自由すぎて何をするか分からないと思っていたが結婚まで好き勝手とはな」

「まぁ、愛し合うもの同士が結ばれるのが一番ですよ」

「あぁ、アリス。俺もお前と婚約出来て嬉しい。これからも愛を育んでいこう」

「えぇ、いつかは結婚しましょうね」

「当たり前だ、必ず結婚するに決まっている。愛しているアリス」

その言葉を聞き安心したアリスはアルに抱きしめられながら寝息をたてるのだった。

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