あの娘は多分くすぐりフェチであるが確信が持てない

柊一郎|くすぐり小説

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【前編】くすぐりは好きですか?

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 以前その子のスマホで、熊本の名産品を調べる機会があった。次の週に出張で行かねばならず、お土産に何か買ってきてやるよと、気を利かせたのであった。

「え……。私に?いいんですか?」

 少し面食らった様子で、しかし少しだけ嬉しそうに、何がいいかな……とスマホを取り出す。

 慣れた手つきでブラウザを開き、熊本の "く" と入れた瞬間――予測変換欄に、

「くすぐり」 「くすぐっ」

と表示されたのが、チラリと見えてしまった。

 ちなみに俺は、生粋のくすぐりフェチである。

 そして後輩のあの子も、もしかするとくすぐりフェチなのかもしれない。そう思いたいのであった。

**

 その子は高宮という。会社の2つ下の後輩で、同じ部署で働いている。そこまで愛嬌の良い方ではないが、けっこう冗談も言うシュールなキャラクターであり、掴みどころのなさが面白い。

 チャットでの業務依頼には「御意」と返し、不服な時には「遺憾」と返ってくる。チラリとデスクに座る高宮を見ると、見られるのが分かっていたように悪戯に微笑んだのち、「冗談です」とチャットが入る。

 先日のオンラインMTGでは、部長のワイシャツの襟が反り立っていたので、高宮に「右上に伯爵いる」とチャットしてみた。数秒後、画面を見て気づいたのか、口角を震わせながら下を向き、画面がオフになってしまった。俺が満足げにしていると、真顔で襟を立てた高宮がカメラオンし、「爵位取れました」とチャットしてきて、俺は吹き出してしまい怒られるのであった。

 そして――何よりルックスが魅力的であった。黒髪のボブで端正な顔立ち。体型はスリムであり、胸は……そこまで大きく……ない。別にそんなところばかり見ている訳ではないが、それなりに気になる女子であり、勝手にいいなと思っているのであった。

 ちなみに、彼氏はいないらしい。前に会社の飲み会で、それとなく聞いたのだ。

「彼氏――ですか。いないですね。先輩がなってくれるんですか」

「いや、なんでだよ」

「冗談です。本気にしたんですか」

「してねえよ」

「してないんだ。残念です」

「…………」

 こんな調子で、軽く弄ばれたものの、彼氏がおらず少し安心したのであった。

**

 そんな高宮の予測変換欄に、俺と同じような、くすぐりフェチの勲章たる足跡が垣間見えた。高宮はその刹那、急いで画面を俺から見えない角度に持っていき、そうだな~……と検索を続けていた。

 一方俺は、ドキドキが収まらなかった。高宮が?まさか――いやいや、勘違いかもしれない。ただ偶々、何かの折に入力しただけかもしれない。

 俺は他人で、しかも異性で、性的嗜好が同じである人を見たことが無かった。俄には信じがたい。俺は、どうにかして真偽を知りたくなったのであった。

**

 こうなると、意地でも判明させたい。判明させざるを得ない。でも、どうしたらいいか分からない――俺は頭を悩ませて、数種類のメニューを用意し、判断することにした。

 尚、デイリーでは難しいため、上司を丸め込み高宮も熊本出張に巻き込むことにした。自分で言うのもなんだが、こういう時のエネルギーは半端ではない。無事成功し、明朝から一泊二日での出張である。


◼︎弱点ってなに?と聞く

 その朝、高宮は大変にご機嫌であった。何故なら、上司から突然出張を命じられ、普段のつまらない事務仕事から解放されたからである。何食べようかな……とか言いながら、成田の待合でPCワークをしている。俺のおかげだぞ……と言いたいところだが、それはそれで「なんで?」となるので、特段何も言わなかった。

 俺には重大ミッションがある。まずは弱点を聞くことだ。これは実は巧妙で、くすぐりフェチの俺からすると"弱点"イコール脇の下とか、足の裏とか、そう脳が直結するのだが――世間一般では違う。

 人によっては「朝が弱い」だし、「私数字が苦手なんですよね~」だし、「お酒が一切飲めないんです~」なのだ。この質問をジャブとして打ってみて、反応を見る。勝負は空の上。直行便のため、1時間40分くらいの闘いである。

「あっ、動いた。はやい。」

 飛行機が助走を始めると、高宮が色めき立つ。窓の方にひっつく姿を見て、可愛いなと思ってしまう。そして飛び立ったと思ったら、高宮は既にアイマスクをしており、お気になさらずと、手をひらひらさせた。

「いや、早すぎるだろ」

「別に寝やしませんよ。ただアイマスクって落ち着くんです」

「分かるけど」

「ほら、会話ができている」

 俺は出鼻を挫かれた気がしたが、どうやら本当に寝はしないようなので、ポツリポツリと仕事の話や趣味の話をした。ちなみに高宮の趣味のひとつに御朱印集めがあり、熊本でも何ヶ所か目星を付けているようであった。

 特に渋い御朱印に弱くて――という話になった時、俺の目がキラリと輝く。ここである。

「ふーん。そういやさ。高宮って、弱点とかってあるの?」

 ナイス俺である。自然すぎる。この程度の話題振りなら、全く問題ないだろう。

「…………?弱点ですか?」

「ん?うん。誰でもあるだろ、弱点」

「……なんでですか」

「いや、隙がありそうで無いからさ」

 高宮はうーん……と言いながら黙ってしまった。アイマスクのせいで、どんな顔をしているのか分かりづらいが、考え込んでいるようだった。

「……笑い上戸ですね」

 ドキリとした。

「ツボに入ると笑いが止まりません」

 ……っ!

「だから電車ではYouTubeとか見れないんです」

「…………ふーん」

「なんですか。自分から聞いといて」

 期待とは異なったが、高宮が堪えられず笑う姿を想像して、少しだけ疼くのであった。


◼︎くすぐりの話題を振ってみる

 阿蘇くまもと空港に着き、そこでランチをする。取引先のアポイントは13時なので、それまでは少し時間がある。本当は阿蘇白蛇神社へ行きたかったようであるが、その往復はやや間に合わない。そもそも業務中であり、アポも3件立て続いているので、今日は諦めることとなった。

「分かってますよ。仕事ですから。でも明日土曜ですから。休日は邪魔しないでいただきたい」

「いや、別に邪魔してる訳じゃ無いんだけど」

「渋いんですから。明日は付き合ってもらいますから」

 よく考えたら、明日は休日である。なんだか高宮との旅行のような気分になって浮き足立つ。神社巡りの趣味はないが、朝解散で別行動より格段に楽しみである。

 そこから順調に商談をこなしていった。取引先での高宮は、何というかマトモで、先方とも良好な関係を築き、大変に有意義であった。

「なんか高宮は……あれだな。普段わざと変な奴のフリしてるのか?」

「何言ってるんですか。心にもない事を喋り、ストレスで溶けそうです」

「溶けるタイプなのか」

「どうせ溶けるなら、温泉で溶けましょう。早く行きますよ」

 俺たちは宿泊先のビジネスホテルにそれぞれチェックインし、隣の温泉施設で集合することとなった。

 温泉に浸かりながら、高宮のことを考える。変な奴だけど、やはりなにか魅力的な女性だ。これでフェチが一緒なら最高なんだが――いや、この際違ってもいい。しかし、確認はしたいのだ。あの検索履歴を見てから、居ても立っても居られないのだ。ザバリと、決意を持って湯から上がる。俺の股座のシンボルも、なにか決意めいたものをたたえている様子だった。

**

「遅いです」

 高宮は、温泉施設内にある、畳のフードコートのようなところで待っていた。レンタルの浴衣を着ていて、普段と違う雰囲気に少しときめく。

「なんで高宮の方が早いんだよ」

「私早いんです。あんまり長時間入ってられなくて。あ、でもちゃんと身体は隈なく洗ってますよ」

 そんな事を言われると、何とは無しに身体に目が行ってしまう。上気した肌、浴衣の胸元、そして卓袱台の下に伸ばした、裾から覗く素足。高宮の対面に座ると、すぐ下に足の裏が見えている。

「なんでこっちに足伸ばしてるんだよ」

「悪いですか。正座は苦手なんです。それと私、足は全く匂いしないので」

「知らないよ。そもそも風呂入ったばっかだろ」

「じゃあ尚更いいじゃないですか」

「……」

 噛み合ってるんだか、噛み合ってないんだか。しかしそれはそれとして、高宮の足の裏が目の前にある。ここだ。第二フェーズに突入である。

「……目の前に足があると、……なんか、くすぐりたくなるよな」

「えっ」

 高宮は、怪訝な顔をしてこちらを見ている。攻めすぎたか。俺は黙って返答を待つ。ここで誤魔化しては、元も子もない。

「私をですか」

「いや、一般論としてよ」

「女子の、足裏をですか」

「いやだから、目の前に裸足があるとさ、イタズラ的な……」

「はあ……」

「まさか……高宮、くすぐり弱かったりして?」

「さては……先輩って変態だったんですね?」

 それは流石に、ぐうの音も出ない。白目を剥きそうになる。

「弱いのでだめです。こんなとこで」

 そういって高宮は、足を畳んで崩した正座のような座り方をした。撃沈した――ように思えたが、"こんなところで"という付け足しがひっかかる。大衆の面前じゃなければ良かったということか?ううむ、分からない。ファジーすぎる。そして……弱いのか。俺のシンボルが反応してしまう。

「バカだな、冗談だよ」

「冗談下手ですね」

「……」


◼︎実際にくすぐってみる

 俺たちはそのフードコート的なところで数杯のビールと夕飯を摂取し、ビジネスホテルに帰還した。高宮は、まだ飲むでしょ、明日休みでしょ、と言いながら、俺の部屋に押しかけてきた。

 前から思っていたが、掴みどころのない奴であるものの、俺のことはそこまで嫌いではなさそうなのだ。他の社員と比べても、心を開いてくれているような気がする。はたまた、全く恋愛対象ではなく、意識も警戒もしていないだけなのかもしれなかった。

「私はね。そろそろ缶チューハイは卒業なのです。あれは人をダメにします」

「何買ってきたんだよ」

「へへへ。ウイスキーとソーダ水です」

「出先でハイボール作るなよ……」

 そう言って、俺は自分の缶ビールをプシュ、と開ける。高宮は、グラスにハイボールを作り、ナッツを口に放りながら飲み始めた。

「割と愉快ですね。出張もいいものですね」

 高宮は引き続き上機嫌であった。湯上がりよりも少し浴衣がはだけていて、引き続き白く小さな足の裏が、仲良く並んで露わになっている。

「愉快ついでに言いますけれど」

「なんだよ?」

「さっきの変態発言は、上に報告しますね」

「いや、愉快ついでに言うことじゃないのよ」

「あっはっは。愉快愉快」

 高宮は、足の裏を俺の方に向けている。恐らく、気づいていない。完全に油断しているようである。

「ふん。どうせ報告されるなら、いっそのこと……」

 そう言って俺は、軽く、本当に軽く、高宮の足の裏を撫でてみた。第三フェーズである。お酒の勢いもあったかもしれない。相棒のアルコールが、俺の背中を押してくれたのだ。

 思った以上に柔らかい触感。ビクッと足が引き攣り、足の指が、届かない土踏まずを守るべくギュッと丸まる。

「ひっ……!」

 高宮はびっくりしたように身体を跳ねさせて、足を急いで畳んだ。

 その様子は――得も言われぬものであった。あんなにも余裕綽綽な態度であったのが、頬を赤らめて、口をパクパクさせながら、目を白黒させている。

「ななななななななにを」

 こんなに狼狽している高宮は初めてみた。こう言ってはなんだが、大変に面白い。

「な、ななんで今、足を触ったのですか」

「いや、だから、目の前にあるとくすぐりたくなるなあって。さっきも言ったじゃないか」

「にしたって、にしたって……」


―後編へ続く―
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