イケメン二人に溺愛されてますが選べずにいたら両方に食べられてしまいました

うさみち

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第17話 ナンナノコレハ side若菜

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 甘い甘い、夢を見た。
 多分、高熱で頭がぼーっとしてたせい。

 夢だからいいやって思って、から忘れられない、雅貴とのキスを、せがんでみたの。

「お願い、キスして。やめないで」
 ……って。

 そしたら、何度も何度も求めてくれた。
 雅貴を感じるたび、甘くきゅうんとした感覚が身体中を駆け巡って。
 そう。
 息継ぎを忘れるくらい、ギュッと雅貴にしがみついてた。

 あまりに気持ちよくて、夢の中のくせに、そのまま私、眠ったみたい。

 そうそう。
 キスする前の夢は、面白い夢だった。

 まず、目を開けたらそこに、雅貴がいたの。
 なんと、おじやまで作ってきてくれて。
 夢だっていうのに、とっても美味しそうな匂いがして。

 ーーあぁ、夢の中でもこんなに大切にしてくれるんだなって思ったら、私のイタズラ心が顔を出してきて。

 ーー思うがままに、甘えちゃった。
 夢だからいいやって。

 「あーん」って、ご飯たべさせてって言って、「熱いからふーふーして?」って言ったらふーふーもしてくれて。
 でね。おかしいの。
 雅貴ってば、恥ずかしそうに「あーんっ」って言って食べさせてくれた。それも、すごく微妙そうな顔しながら。

 そしてその後、キスをしたの。
 雅貴のキスは、溶けるように気持ちかった。
 強く強く抱きしめてくれて、それも。何度も。
 私は止められなくなって、夢中で雅貴の首にしがみついてキスしてた。

 なんて夢みちゃったんだろう。
 とってもとっても、いやらしい夢。

 雅貴には、絶対に内緒にしなくっちゃ。



「んん~!」

 私は寝たまま両手をギューっとのばす。

 ーーボコッ。

「ん?」

 何かにぶつかって、左手が痛い。
 ベッドフレームかなぁ。
 と思って横を見たら、

「ま、雅貴っ⁉︎」

 ーーえっ、ちょっと待って。
 なんでなんで? どうなってるの?

「ったく、ってぇなぁ。殴ることないだろ?」
「まさ……たか? え? なに? 夢?」
「まぁ、予想してはいたけどさ。若菜、昨日のこと覚えてないんだろ?」

 ーー昨日の、こと……?

「えぇと、営業課長に呼ばれて、そのまま倒れて……たしか、直樹先輩がここまで送ってくれて……」
「直樹、先輩……?」
「うん。そう。今度からそう呼んでほしいって言われて」
「……あ、そ」

 雅貴はベッドから降りた。
 そしてベッドの脇に背をつけて。私には背中を向けている。

「雅貴……?」
「ゴメン。やっぱり複雑なんだわ。若菜が吉野先輩を好きだってことは。ずっと前から知ってた。でも……吉野先輩が佐々木先輩を好きだっていう勘違いから始まった関係じゃん? 俺たち」
「……うん」

「昨日、告白されたんだろ? 吉野先輩から」
「……うん」

「俺としてはさ、いつフッてくれてもいいっていう条件付きで始まった恋愛だけど、俺のことちょっとは好きでいてくれんのかなって、期待してたわけ。だから、急に直樹先輩とか聞くと……くるわ」
「ごめ……」
「謝る必要はない。元々は俺の横恋慕だからな。……けど」

 けど、と言って急に雅貴は振り返った。
 そして振り向きざまに、私の唇にそっと触り、私の口の中に雅貴の指を入れてくる。

「んんっ! まさ……」
「なぁ? 昨日のことちっとも覚えてないわけ?」
「あ……ん……」

 雅貴の指が、私の口を弄ぶ。

「あんなにキス、しただろ? 俺たち」
「んん……?」

 ーーえええええええええええ!

「あ……雅貴、ちょっと待って! あれ、夢じゃなかったの?」
「夢だと思ってんの? あんなに、せがんできたくせに」

 ーーちょ、ちょ、ちょちょちょ! 待ってええ!

「私、ふーふーして食べさせてって言った?」
「言った」
「あーんしてって言った?」
「言った」

「……ギューしてキスしてって言った?」
「言った。むしろ俺がギューされた」
「ーー! き、気持ちいいからやめないでって」
「言った」
「ひやあああああああ」
 
 私は両手で顔を隠す。

 ーー恥ずかしい恥ずかしい恥ずかしい!

 随分リアルな夢だなって思ったけど、夢じゃなかったなんて! ……ナンナノコレハ。

「あのさ」

 雅貴は平静を崩すこともなく、優しく微笑んで頭を撫でてくれる。

「若菜が俺と吉野先輩に揺れてもいいんだ。もともと、俺は部外者だったのに、今は同じ土俵に乗れてるんだしな。……けど、俺だって嫉妬はするんだぜ? わかる、よな?」
「はい……」

 そうだ。
 私はずるい女。
 みんなから人気者の2人の間で揺れ動いてる、優柔不断なサイテーな女……。

「ごめんなさい。急に、直樹先輩、なんて呼んで」

 雅貴はフーッと息をする。

「ま、職場で急に聞く分に比べたらマシだったな。俺も心の準備したかったから。そういう意味では、感謝だよ、若菜」
「まさ……たか……」

 私は急に涙が止まらなくなった。
 なんでこんなに、優しいの?
 私こんなに、ずるい女なのに。

「あのね、自分の気持ちがわからないの」
「……うん」
「先輩のことは、ずっとずっと好きだった」
「……知ってる」
「でもね……」
「ん?」

 私は雅貴の優しい瞳を見てハッキリと言う。

ずるいけど、優柔不断だけど。今は、雅貴も、同じくらい……大好き」

 雅貴は、クスリと笑う。

「ーー知ってる。昨日、あんなにたくさん、キスしたもんな? 気持ちいいって。な?」
「からかわないでよぅ」
「からかってんだよ。……てか俺の、照れ隠し」

 雅貴は、私のおでこにキスをする。

「好きだよ、若菜。いいんだよ、自分の気持ちに正直になって。てかさ、1週間前までは俺、圏外だったんだから、大躍進だよな」

 と言って、笑ってみせる優しい雅貴。

 好きって気持ちが、溢れてくる。
 でも、最近まで吉野先輩が大好きだった私が、こんなに簡単に、気持ち変えていいものなの?
 もしまた、やっぱり吉野先輩の方が好きってなったら、それこそ雅貴を傷つけるし、多分もう、雅貴とは親友でもいられなくなる。
 だから。
 優柔不断で時間かかるトロい私だけど、自分の気持ちと、後悔ないように向き合わなきゃダメだ。
 どっちつかずなことをするのが一番、みんなに迷惑がかかるから。
 最速で最短で、気持ちを確かめるためにも。
 自分自身と向き合わなきゃ。

「なぁ、若菜?」
「え?」
「ちょっと話変えるんだけど」
「……うん」
「俺、褒めてくれてもいいんだぜ?」
「そ、そだよね! おじや、作ってくれてありがとう。介抱もしてくれてありがとう」
「……そうじゃなくて」
「え?」

 雅貴はベッドに頬杖をつきながら、可愛い顔をして私を見上げてくる。爽やかなイケメンに見つめられると、いくら仲が良くたってさすがに照れる。

「俺、昨日ずーーーーーーっとお姫様の言うこと聞いてたわけ。気持ちいいからやめないで、抱きしめてーっていう、お姫様のワガママ」

 ーー身体から火が吹き出しそうにあつくなる。

「い、言わないで~」
「あのさ、一般的な話な? 好きな女の子にそんなこと言われてみ? 普通、最後までイタダキマスするからな?」
「う……はい」
「でも俺は耐えたわけ」
「ううう。はい」
「褒めて? 若菜」
「どうやって?」

 雅貴は急に立ち上がって、ベッドに横たわる私の上で四つん這いになる。

「ご褒美、ちょうだい? てか、嫌って言わせねぇから」

 雅貴は、私の首を強く吸った。

「あ……ん!」
「今日は離さないから」
「雅貴……、それ、私へのご褒美だよ……」
「煽るなよ、これ以上。我慢できなくなる」
「だっ……て」

 私たちは、甘い甘い、土曜日を過ごした。

 ……

 あの、インターホンが鳴るまでは。


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