真実の愛は、誰のもの?

ふまさ

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  ──この屋敷は、どうしてこんなにも息苦しいのだろう。

 それがストレスからくるものだとは考えもせず、エディが、自室の窓から外を見詰める。家庭教師に出された課題は、ほぼ終わった。今日は、コーリーがルソー伯爵夫人と出かけていて、ルソー伯爵も仕事で王宮。義兄は学園。なので、いくぶんか、気分は楽だった。

『お前の面倒を見るのは、学園を卒業するまでだ。我が家に相応しい仕事についたのち、これまでにお前に費やした金はすべて返金してもらうからな』

 ルソー伯爵に冷たく言い捨てられた言葉だったが、逆にそれは、エディの唯一の希望でもあった。

「早くこの屋敷を出たいなあ……」

 ぽつりと呟いてみる。仕事は、絶対に地方で探そう。王都だと、きっとコーリーと離れられないから。

 七年弱。この屋敷で過ごしてみて、見えてきたことがある。コーリーを本当に溺愛しているのは、ルソー伯爵だけではないか、ということだ。

 ルソー伯爵夫人と義兄は、ルソー伯爵がコーリーを溺愛しているから。そのルソー伯爵の機嫌を損ねないように、コーリーに甘く、優しく接しているように、似たような立場であるエディの目には映っていた。

(……いや。僕の願望かな)

 コンコン。コンコン。
 珍しく気を抜いていたエディは、響いたノック音に肩を揺らし、はい、と慌てて答えた。

「エディ様。旦那様が、お部屋まで来るようにと」

(……もう帰ってきたのか)

 がっかりしながら、エディは、わかりましたと席を立った。



「……夜会、ですか?」

 足と腕を組み、ルソー伯爵はエディを目の前に立たせたまま、そうだ、といつものように、愛想なく答えた。

「慈善活動家の貴族を招いて、夜会を開く。お前も、もう十になるのに、婚約者がいないのかとまわりに嫌味を言われてな。これだから貴族は面倒なのだ」

 がしがしと頭を掻きむしり、ルソー伯爵は続けた。

「お前と近い年齢の令嬢がいる貴族も、何人か招待する。ここまで養ってやったのだから、少しは役に立ってもらうぞ」

 あの。声に出そうになったが、すんでのところでなんとか止めた。

(……学園を卒業すれば、この男と、ルソー伯爵家と完全に縁が切れると思っていたのに)

 エディにとってそれは、絶望に等しいものだった。いくら貴族の息子といえど、長男以外は爵位も財産も継げず、成人すれば、家を追い出されることが当然だと思っていた。現に、父はそうだった。

「中でも、ジェンキンス伯爵家の令嬢は、条件が最高だ。唯一の子どもであり、財産もあり、領地持ちだ。お前はいずれ爵位も継げるうえに、持参金も、かなり期待できる」

 勝手に話を進め、勝手に、その気になるルソー伯爵。

「まあ、お前に婚約者ができれば、コーリーの目も覚めるだろう」

 なるほど。それだけは、ありがたいな。エディは沈む心の中で、ぼんやり思った。

「お前のために、わざわざ夜会を開いてやるのだ。なんの成果もなかったら──わかっているな」

「……はい」
  
 ばんっ!
 ルソー伯爵が、手のひらで机を叩いた。びくっ。エディの肩が揺れる。

「礼はどうした」

 蛇のような目で睨む、ルソー伯爵。エディは、深く、頭を下げた。

「……ありがとうございます」

 また一つ、心が抉られていくような気がした。
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