わたしの愛しい人を傷付けた、愛する婚約者様へ。わたしはあなたを絶対に許しません。

ふまさ

文字の大きさ
6 / 14

6

しおりを挟む
「……カ、カミラ……?」

 これまで一度だって、声かけもノックもなしに扉を開けたことなどなかったカミラの行動に、エルシーはただ、困惑した。それからはっと我に返り、お腹のアザを手で隠したが、腕や背中にあるものは、隠しきれず。

 エルシーの身体に複数ある新旧の青アザに、カミラは絶句し、顔面蒼白となった。

「……お、お嬢様……何ですか、それは……いったい、誰に……っ」

「ち、違うの。これは、わたしの不注意で……」

 視線をさ迷わせるエルシーに、カミラが一歩一歩、近付いていく。

「こ、こないで! 本当に大丈夫だから!」

 声を震わすエルシーを、カミラは、包み込むように優しく抱き締めた。

「……大丈夫なわけ、ないじゃないですか……っ」

 エルシーが、はっと目を見張る。そして、気持ちが追い付かないままに、エルシーの頬に、涙が流れはじめた。

 ──ああ。カミラは本当に、わたしのことを心配してくれているんだ。

 スペンサーとは違う、ほっとする温もり。胸の高鳴りはないけど、恐怖もない。

 久しぶりにひとしきり泣いたあと、エルシーは、このことは他言無用とカミラに約束させたのちに、全てを話した。

 話が進んでいくうちに、カミラの顔色が怒りに染まっていくのが見てとれ、エルシーは慌てて口を開いた。

「で、でもね。もう二度とこんなことはしないって約束してくれたのよ。スペンサーはきっと、心の病気で、それと必死に闘っていてねっ」

「……だからといって、こんなこと、許されるはずがありませんよ。病気だか何だか知りませんが、浮気をしたあげく、暴力をふるうだなんて……狂っているとしか思えません……っ」

 カミラの両こぶしが、怒りのために震えているのがわかった。エルシーはその手を、そっと握った。

「心配してくれて、ありがとう。今まで誰にも言えなかったから、ちょっとすっきりしたわ──そのうえで、改めて、お願いしたいの。このことは、誰にも言わないで」

「ですが……っ」

「お願い。わたし、どうしてもスペンサーが好きなの。愛しているの。それにね、本当にもう、浮気もしないし暴力もふるわないって、泣きながら約束してくれたの。だから」

「──それは、何度目の約束ですか?」

 カミラの指摘に、エルシーの身体がぴくりと揺れた。そう。この約束は、はじめてではない。

「……お願い! もしまたスペンサーが浮気をして、暴力をふるわれたら、そのときにはきちんと考えるから!!」

「…………っ」

 涙ながらの必死の訴えに、カミラが声をなくす。こんなこと、許されていいはずがない。けれどこのままノヴァック侯爵たちに伝えたところで、スペンサーはむろん、エルシーもその事実を否定するだろう。

(……時間をかけてお嬢様を説得するか、確固たる証拠を掴むしか……)

「……わかり、ました。けれど、スペンサー様が約束を破られたときには、旦那様に報告します。それでよろしいですね?」

「わ、わかったわ」

 こんな言い方をすれば、エルシーはそれを、隠そうとするだろう。けれどもう、隠させはしない。カミラは誓い、注意深くエルシーを観察することを決意した。


 ──でも。

 エルシーが記憶喪失となってしまったのは、その翌日のことだった。


 
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

【完結】「妹が欲しがるのだから与えるべきだ」と貴方は言うけれど……

小笠原 ゆか
恋愛
私の婚約者、アシュフォード侯爵家のエヴァンジェリンは、後妻の産んだ義妹ダルシニアを虐げている――そんな噂があった。次期王子妃として、ひいては次期王妃となるに相応しい振る舞いをするよう毎日叱責するが、エヴァンジェリンは聞き入れない。最後の手段として『婚約解消』を仄めかしても動じることなく彼女は私の下を去っていった。 この作品は『小説家になろう』でも公開中です。

【完結】婚約破棄したのに殿下が何かと絡んでくる

冬月光輝
恋愛
「お前とは婚約破棄したけど友達でいたい」 第三王子のカールと五歳の頃から婚約していた公爵令嬢のシーラ。 しかし、カールは妖艶で美しいと評判の子爵家の次女マリーナに夢中になり強引に婚約破棄して、彼女を新たな婚約者にした。 カールとシーラは幼いときより交流があるので気心の知れた関係でカールは彼女に何でも相談していた。 カールは婚約破棄した後も当然のようにシーラを相談があると毎日のように訪ねる。

君に愛は囁けない

しーしび
恋愛
姉が亡くなり、かつて姉の婚約者だったジルベールと婚約したセシル。 彼は社交界で引く手数多の美しい青年で、令嬢たちはこぞって彼に夢中。 愛らしいと噂の公爵令嬢だって彼への好意を隠そうとはしない。 けれど、彼はセシルに愛を囁く事はない。 セシルも彼に愛を囁けない。 だから、セシルは決めた。 ***** ※ゆるゆる設定 ※誤字脱字を何故か見つけられない病なので、ご容赦ください。努力はします。 ※日本語の勘違いもよくあります。方言もよく分かっていない田舎っぺです。

最後に一つだけ。あなたの未来を壊す方法を教えてあげる

椿谷あずる
恋愛
婚約者カインの口から、一方的に別れを告げられたルーミア。 その隣では、彼が庇う女、アメリが怯える素振りを見せながら、こっそりと勝者の微笑みを浮かべていた。 ──ああ、なるほど。私は、最初から負ける役だったのね。 全てを悟ったルーミアは、静かに微笑み、淡々と婚約破棄を受け入れる。 だが、その背中を向ける間際、彼女はふと立ち止まり、振り返った。 「……ねえ、最後に一つだけ。教えてあげるわ」 その一言が、すべての運命を覆すとも知らずに。 裏切られた彼女は、微笑みながらすべてを奪い返す──これは、華麗なる逆転劇の始まり。

貴方に私は相応しくない【完結】

迷い人
恋愛
私との将来を求める公爵令息エドウィン・フォスター。 彼は初恋の人で学園入学をきっかけに再会を果たした。 天使のような無邪気な笑みで愛を語り。 彼は私の心を踏みにじる。 私は貴方の都合の良い子にはなれません。 私は貴方に相応しい女にはなれません。

【完結】伯爵令嬢は婚約を終わりにしたい〜次期公爵の幸せのために婚約破棄されることを目指して悪女になったら、なぜか溺愛されてしまったようです〜

よどら文鳥
恋愛
 伯爵令嬢のミリアナは、次期公爵レインハルトと婚約関係である。  二人は特に問題もなく、順調に親睦を深めていった。  だがある日。  王女のシャーリャはミリアナに対して、「二人の婚約を解消してほしい、レインハルトは本当は私を愛しているの」と促した。  ミリアナは最初こそ信じなかったが王女が帰った後、レインハルトとの会話で王女のことを愛していることが判明した。  レインハルトの幸せをなによりも優先して考えているミリアナは、自分自身が嫌われて婚約破棄を宣告してもらえばいいという決断をする。  ミリアナはレインハルトの前では悪女になりきることを決意。  もともとミリアナは破天荒で活発な性格である。  そのため、悪女になりきるとはいっても、むしろあまり変わっていないことにもミリアナは気がついていない。  だが、悪女になって様々な作戦でレインハルトから嫌われるような行動をするが、なぜか全て感謝されてしまう。  それどころか、レインハルトからの愛情がどんどんと深くなっていき……? ※前回の作品同様、投稿前日に思いついて書いてみた作品なので、先のプロットや展開は未定です。今作も、完結までは書くつもりです。 ※第一話のキャラがざまぁされそうな感じはありますが、今回はざまぁがメインの作品ではありません。もしかしたら、このキャラも更生していい子になっちゃったりする可能性もあります。(このあたり、現時点ではどうするか展開考えていないです)

あなたへの想いを終わりにします

四折 柊
恋愛
 シエナは王太子アドリアンの婚約者として体の弱い彼を支えてきた。だがある日彼は視察先で倒れそこで男爵令嬢に看病される。彼女の献身的な看病で医者に見放されていた病が治りアドリアンは健康を手に入れた。男爵令嬢は殿下を治癒した聖女と呼ばれ王城に招かれることになった。いつしかアドリアンは男爵令嬢に夢中になり彼女を正妃に迎えたいと言い出す。男爵令嬢では妃としての能力に問題がある。だからシエナには側室として彼女を支えてほしいと言われた。シエナは今までの献身と恋心を踏み躙られた絶望で彼らの目の前で自身の胸を短剣で刺した…………。(全13話)

【完結】お飾り妃〜寵愛は聖女様のモノ〜

恋愛
今日、私はお飾りの妃となります。 ※実際の慣習等とは異なる場合があり、あくまでこの世界観での要素もございますので御了承ください。

処理中です...