9 / 20
9
しおりを挟む
「わたしに用とは、何でしょうか」
馬車に揺られ、ヒューゴーと向かい合いながらリネットが訊ねる。ヒューゴーは何やらご機嫌斜めといった様子で、口を開いた。
「……兄上が、父上と母上に、話した。僕が間違って、きみに婚約を申し込んでしまったこと」
リネットは「……はあ」と答えながら、まだ話してなかったのかという呆れと、それをキースが伝えてくれた嬉しさで、ごっちゃになっていた。
「全部。全部話したから、僕は父上たちに、叱られてしまった。特に母上には、相手がリネット嬢だから婚約を認めたのにと怒鳴られた」
「……わたしだから、ですか?」
不思議そうに首を傾げるリネットに、ヒューゴーが「だろう? そう思うだろ?!」と身を乗り出してきた。
「僕も変だと思ったよ。アデラ嬢じゃなく、どうしてきみなんだって。どう考えても釣り合わないだろ?」
リネットは顔をひきつらせながら「そうですね」と答え、先を促した。いちいち腹を立てていたら、この王子様とは会話が出来ない。
「僕は頼りなくて、甘えただから、きみのように強くて、しっかりしている女性が合ってるって言われた……逆にアデラ嬢は、社交界でも評判が悪いから、絶対駄目だって」
姉の噂は、もう社交界まで広がっているらしい。考えてみれば、当然のことだろう。リネットは思ったが、口には出さなかった。
「ねえ、僕、どうしたらいい?」
──知りませんよ。
すがるような目を向けられ、リネットは胸中で突っ込んだ。冷たい双眸を向けながら。けれどヒューゴーは気付かず、なおも続ける。
「……僕は、きみと結婚するしかないのかな。でも、僕がきみを好きになるなんてこと、ありえると思う?」
「──ないと思います」
きっぱり告げると、ヒューゴーは頬を膨らませた。
「何で最初から諦めるのさ。ひと月の猶予をあげたのは、何のためだと思ってるの? 僕にきみを惚れさせてみせてよ!」
リネットの頭の血管が、限界を迎える。だが、相手は腐っても王子。下手なことは言えない。もうここでおろして下さい。そう伝えようとしたとき。
「──ヒューゴー殿下。肩に、蜘蛛が」
ヒューゴー殿下の肩を、リネットが静かに指差した。瞬間。ヒューゴーは、つんざくような悲鳴をあげた。
馬車に揺られ、ヒューゴーと向かい合いながらリネットが訊ねる。ヒューゴーは何やらご機嫌斜めといった様子で、口を開いた。
「……兄上が、父上と母上に、話した。僕が間違って、きみに婚約を申し込んでしまったこと」
リネットは「……はあ」と答えながら、まだ話してなかったのかという呆れと、それをキースが伝えてくれた嬉しさで、ごっちゃになっていた。
「全部。全部話したから、僕は父上たちに、叱られてしまった。特に母上には、相手がリネット嬢だから婚約を認めたのにと怒鳴られた」
「……わたしだから、ですか?」
不思議そうに首を傾げるリネットに、ヒューゴーが「だろう? そう思うだろ?!」と身を乗り出してきた。
「僕も変だと思ったよ。アデラ嬢じゃなく、どうしてきみなんだって。どう考えても釣り合わないだろ?」
リネットは顔をひきつらせながら「そうですね」と答え、先を促した。いちいち腹を立てていたら、この王子様とは会話が出来ない。
「僕は頼りなくて、甘えただから、きみのように強くて、しっかりしている女性が合ってるって言われた……逆にアデラ嬢は、社交界でも評判が悪いから、絶対駄目だって」
姉の噂は、もう社交界まで広がっているらしい。考えてみれば、当然のことだろう。リネットは思ったが、口には出さなかった。
「ねえ、僕、どうしたらいい?」
──知りませんよ。
すがるような目を向けられ、リネットは胸中で突っ込んだ。冷たい双眸を向けながら。けれどヒューゴーは気付かず、なおも続ける。
「……僕は、きみと結婚するしかないのかな。でも、僕がきみを好きになるなんてこと、ありえると思う?」
「──ないと思います」
きっぱり告げると、ヒューゴーは頬を膨らませた。
「何で最初から諦めるのさ。ひと月の猶予をあげたのは、何のためだと思ってるの? 僕にきみを惚れさせてみせてよ!」
リネットの頭の血管が、限界を迎える。だが、相手は腐っても王子。下手なことは言えない。もうここでおろして下さい。そう伝えようとしたとき。
「──ヒューゴー殿下。肩に、蜘蛛が」
ヒューゴー殿下の肩を、リネットが静かに指差した。瞬間。ヒューゴーは、つんざくような悲鳴をあげた。
446
あなたにおすすめの小説
特殊能力を持つ妹に婚約者を取られた姉、義兄になるはずだった第一王子と新たに婚約する
下菊みこと
恋愛
妹のために尽くしてきた姉、妹の裏切りで幸せになる。
ナタリアはルリアに婚約者を取られる。しかしそのおかげで力を遺憾なく発揮できるようになる。周りはルリアから手のひらを返してナタリアを歓迎するようになる。
小説家になろう様でも投稿しています。
【完結】私の婚約者の、自称健康な幼なじみ。
❄️冬は つとめて
恋愛
「ルミナス、すまない。カノンが…… 」
「大丈夫ですの? カノン様は。」
「本当にすまない。ルミナス。」
ルミナスの婚約者のオスカー伯爵令息は、何時ものようにすまなそうな顔をして彼女に謝った。
「お兄様、ゴホッゴホッ! ルミナス様、ゴホッ! さあ、遊園地に行きましょ、ゴボッ!! 」
カノンは血を吐いた。
私を家から追い出した妹達は、これから後悔するようです
天宮有
恋愛
伯爵令嬢の私サフィラよりも、妹エイダの方が優秀だった。
それは全て私の力によるものだけど、そのことを知っているのにエイダは姉に迷惑していると言い広めていく。
婚約者のヴァン王子はエイダの発言を信じて、私は婚約破棄を言い渡されてしまう。
その後、エイダは私の力が必要ないと思い込んでいるようで、私を家から追い出す。
これから元家族やヴァンは後悔するけど、私には関係ありません。
【完結】義家族に婚約者も、家も奪われたけれど幸せになります〜義妹達は華麗に笑う
鏑木 うりこ
恋愛
お姉様、お姉様の婚約者、私にくださらない?地味なお姉様より私の方がお似合いですもの!
お姉様、お姉様のお家。私にくださらない?お姉様に伯爵家の当主なんて務まらないわ
お母様が亡くなって喪も明けないうちにやってきた新しいお義母様には私より一つしか違わない双子の姉妹を連れて来られました。
とても美しい姉妹ですが、私はお義母様と義妹達に辛く当たられてしまうのです。
この話は特殊な形で進んで行きます。表(ベアトリス視点が多い)と裏(義母・義妹視点が多い)が入り乱れますので、混乱したら申し訳ないですが、書いていてとても楽しかったです。
魅了の魔法を使っているのは義妹のほうでした・完
瀬名 翠
恋愛
”魅了の魔法”を使っている悪女として国外追放されるアンネリーゼ。実際は義妹・ビアンカのしわざであり、アンネリーゼは潔白であった。断罪後、親しくしていた、隣国・魔法王国出身の後輩に、声をかけられ、連れ去られ。
夢も叶えて恋も叶える、絶世の美女の話。
*五話でさくっと読めます。
永遠の誓いをあなたに ~何でも欲しがる妹がすべてを失ってからわたしが溺愛されるまで~
畔本グラヤノン
恋愛
両親に愛される妹エイミィと愛されない姉ジェシカ。ジェシカはひょんなことで公爵令息のオーウェンと知り合い、周囲から婚約を噂されるようになる。ある日ジェシカはオーウェンに王族の出席する式典に招待されるが、ジェシカの代わりに式典に出ることを目論んだエイミィは邪魔なジェシカを消そうと考えるのだった。
従姉と結婚するとおっしゃるけれど、彼女にも婚約者はいるんですよ? まあ、いいですけど。
チカフジ ユキ
恋愛
ヴィオレッタはとある理由で、侯爵令息のフランツと婚約した。
しかし、そのフランツは従姉である子爵令嬢アメリアの事ばかり優遇し優先する。
アメリアもまたフランツがまるで自分の婚約者のように振る舞っていた。
目的のために婚約だったので、特別ヴィオレッタは気にしていなかったが、アメリアにも婚約者がいるので、そちらに睨まれないために窘めると、それから関係が悪化。
フランツは、アメリアとの関係について口をだすヴィオレッタを疎ましく思い、アメリアは気に食わない婚約者の事を口に出すヴィオレッタを嫌い、ことあるごとにフランツとの関係にマウントをとって来る。
そんな二人に辟易としながら過ごした一年後、そこで二人は盛大にやらかしてくれた。
完璧な妹に全てを奪われた私に微笑んでくれたのは
今川幸乃
恋愛
ファーレン王国の大貴族、エルガルド公爵家には二人の姉妹がいた。
長女セシルは真面目だったが、何をやっても人並ぐらいの出来にしかならなかった。
次女リリーは逆に学問も手習いも容姿も図抜けていた。
リリー、両親、学問の先生などセシルに関わる人たちは皆彼女を「出来損ない」と蔑み、いじめを行う。
そんな時、王太子のクリストフと公爵家の縁談が持ち上がる。
父はリリーを推薦するが、クリストフは「二人に会って判断したい」と言った。
「どうせ会ってもリリーが選ばれる」と思ったセシルだったが、思わぬ方法でクリストフはリリーの本性を見抜くのだった。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる