婚約者はわたしよりも、病弱で可憐な実の妹の方が大事なようです。

ふまさ

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「お兄様!」

 授業の合間。いつものようにアビーの教室に訪れたモーガンに、アビーが涙を浮かべながら抱き付いた。モーガンが「どうした?」と慌てる。

「あの子、ひどいんですよ!」

 アビーは、クラスメイトの女の子を指差した。その子は「わ、わたしはただ、アビー様はどこがお悪いのかとお聞きしただけで」とおろおろしている。

「ほら! まるで私が仮病かのように言うのです!」

「そ、そんなことは決して……っ」

 クラスメイトたちがざわつく。このクラスでアビーより位の高い爵位の家の者はいないので、誰もなにも言えない。そんな中、モーガンは目を尖らせながら一歩前に出た。怒っているのはまわりの目にも明らかだった。

「──君は」

 モーガンの続く言葉を焦ったようにさえぎったのは、リアだった。

「ちょ、ちょっと待って」

 さすがに毎回ではないが、リアはときどき、アビーの様子を見にきていた。なにかクラスメイトと問題を起こさないか、不安だったから。

 ──予感は見事に的中してしまったわけだ。

「……リア。すまないが、止めないでくれないか」
  
 険しい顔で振り返るモーガンに一瞬ひるむリアだったが「そんなつもりはないわ」と、なんとか持ち直した。

「わたしはただ、アビーの顔色が気になっただけ。ねえ、アビー。もしかしたら、気分がすぐれないのではないかしら」

 アビーが目をまたたかせ「……ええ、実は少し」と顔を伏せた。アビーは体調を心配されるのが好きなのだ。これは、リアが過去の経験から学んだことだった。

「やっぱり。モーガン。アビーを連れて、今日はもう帰った方がいいわ」

 ここぞとばかりに心配そうな声音でリアがモーガンに訴えかける。

「ああ、そうだね。ほら、アビー。行こう」

 二人が連れ立って、教室を出ていく。リアはほっと息をついた。

「わ、わたしはなにも……っ」

 アビーに責められていた女の子が、泣きながら小さく訴える。リアは振り返り、女の子と向かい合った。

「ええ、わかっているわ。でも、ああでも言わないと、あの二人は納得しないから」

 女の子が目を丸くする。リアはそのまま、頭をさげた。

「あの二人に代わって、わたしが謝罪します。本当にごめんなさいね」

「そ、そんな! 頭をあげてください!」

 それからリアはクラスのみなに騒がせてしまったことを謝罪し、教室をあとにした。
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