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「……アビー。あなた、リア嬢に花瓶を投げつけたの……?」
シュミット公爵夫人がおそるおそる訊ねると、階段をおりきったアビーは目を尖らせた。
「違います。お母様。リア様が私に、花瓶を投げつけたのです。私、とても怖かったんですよ?」
「──貴様の家の庭師は、貴様が花瓶を頭上に振り上げたところを目撃したそうだが?」
冷たい言葉を浴びせてきたフォーゲル公爵に、アビーはびくっと肩を震わせた。自分はなにかまずいことを言ってしまったのだろうか。庭師がおろおろとし出した。
アビーが視線をさ迷わせる。かと思えば、すぐにはっとしたように口を開いた。
「わかりました! きっと、リア様はその男と恋仲だったのです!」
開いた口が塞がらない、とはこのことだろうか。あまりの言い訳に、フォーゲル公爵は呆れ、絶句する。シュミット公爵とシュミット公爵夫人は、両手で顔を覆っている。
「だからリア様をかばって、そんな嘘をついたのです。ですよね、お兄様?」
アビーがモーガンに視線をうつす。これまで、どんなことにだってうなずき、信じてくれた兄。アビーはなにも疑っていなかった。今度だって、きっと信じてくれると。なのに。
「……アビー」
泣きそうに、モーガンがアビーの名を呟く。リアが自分を深く愛してくれていること。それだけは、モーガンの中で揺るがない真実だった。だから、それに甘えた。妹を優先した。妹を信じた。その妹が、そんなことを言うなんて。
「お兄様……? どうしてそんな目で私を見るのですか……?」
アビーが瞳をうるます。モーガンは答えない。
「──なるほどな。リアが言っていたことに、間違いはなかったわけだ。こんな馬鹿で無茶苦茶な言い訳を、貴様はなんの疑いもせず、信じてきたわけだな。それで? 今度はリアと庭師の仲を疑い、また頬を打つのか?」
フォーゲル公爵が唾棄せんばかりに吐き捨てる。モーガンはただ、否定するようにゆっくりと頭を左右にふった。
「まあ、もはや婚約者でもなんでもない貴様が、そんなことをする権利などないがな。しかし、とんだ兄妹だったものだ。──シュミット公爵。私はこれで失礼する」
シュミット公爵が、勢いよく顔をあげた。
「お、お待ちを! せめてリア嬢に、謝罪だけでもっ」
フォーゲル公爵は「結構」と吐き捨て、屋敷をあとにした。
シュミット公爵夫人がおそるおそる訊ねると、階段をおりきったアビーは目を尖らせた。
「違います。お母様。リア様が私に、花瓶を投げつけたのです。私、とても怖かったんですよ?」
「──貴様の家の庭師は、貴様が花瓶を頭上に振り上げたところを目撃したそうだが?」
冷たい言葉を浴びせてきたフォーゲル公爵に、アビーはびくっと肩を震わせた。自分はなにかまずいことを言ってしまったのだろうか。庭師がおろおろとし出した。
アビーが視線をさ迷わせる。かと思えば、すぐにはっとしたように口を開いた。
「わかりました! きっと、リア様はその男と恋仲だったのです!」
開いた口が塞がらない、とはこのことだろうか。あまりの言い訳に、フォーゲル公爵は呆れ、絶句する。シュミット公爵とシュミット公爵夫人は、両手で顔を覆っている。
「だからリア様をかばって、そんな嘘をついたのです。ですよね、お兄様?」
アビーがモーガンに視線をうつす。これまで、どんなことにだってうなずき、信じてくれた兄。アビーはなにも疑っていなかった。今度だって、きっと信じてくれると。なのに。
「……アビー」
泣きそうに、モーガンがアビーの名を呟く。リアが自分を深く愛してくれていること。それだけは、モーガンの中で揺るがない真実だった。だから、それに甘えた。妹を優先した。妹を信じた。その妹が、そんなことを言うなんて。
「お兄様……? どうしてそんな目で私を見るのですか……?」
アビーが瞳をうるます。モーガンは答えない。
「──なるほどな。リアが言っていたことに、間違いはなかったわけだ。こんな馬鹿で無茶苦茶な言い訳を、貴様はなんの疑いもせず、信じてきたわけだな。それで? 今度はリアと庭師の仲を疑い、また頬を打つのか?」
フォーゲル公爵が唾棄せんばかりに吐き捨てる。モーガンはただ、否定するようにゆっくりと頭を左右にふった。
「まあ、もはや婚約者でもなんでもない貴様が、そんなことをする権利などないがな。しかし、とんだ兄妹だったものだ。──シュミット公爵。私はこれで失礼する」
シュミット公爵が、勢いよく顔をあげた。
「お、お待ちを! せめてリア嬢に、謝罪だけでもっ」
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