婚約者はわたしよりも、病弱で可憐な実の妹の方が大事なようです。

ふまさ

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 そのとき。アビーの右手首をつかみ、アビーを止めたのはレナルドだった。

「──アビー。いい加減にしなさい」

「どうして止めるのですか?! 私はとてもひどいことを言われたのですよ?!」

 アビーがレナルドを睨み付ける。レナルドはリアを背中に隠し、アビーから遠ざけた。

「酷くはないよ。リア嬢は、君に同情してくれたんだ。そんなことをしてくれる人は、きっとリア嬢以外にはいないというのに」

「……レナルド様も、その女の味方をするのですね」

 アビーは強引にレナルドの腕から手首を放すと、そのまま去って行ってしまった。その場いる者が、ほうっと息を吐いた。が。

「……どうしよう。ぼく、なにかされるのかな」

 アビーにぶつかってしまった不運な男子生徒が不安に声をもらす。その男子生徒に向き直り、レナルドは笑った。

「大丈夫。もしなにかあったら、わたしに相談しなさい。力になれると思うよ」

 男子生徒が、顔色を明るくした。

「あ、ありがとうございます! あの、リア様も本当にありがとうございました!」

 男子生徒が頭をさげ、友人と共にその場をあとにする。残されたレナルドは、リアに視線を向けた。

「──まったく、あなたは。前にも言いましたが、そこまでする必要はないというのに」

「……第三者としてアビーを見ていたら、なんだかいっそ可哀想にも思えてきてしまって」

 レナルドはやれやれと肩をすくめた。

「危なっかしいというか……なんだか放っておけない方ですね、リア嬢は」

 切れ長の目を細め、レナルドがリアを見つめる。リアは、僅かに鼓動が早くなっていくのを感じた。

「い、いえ。今回は、たまたまと言いますか……さすがにもうかかわるつもりはありませんので。ご心配をおかけして、申し訳ありませんでした」

 赤くなった顔を見られたくなくて、リアは隠すように頭をさげた。公爵家嫡男。端正な顔。真っ直ぐな性格。どうして婚約者どころか、恋人すらいないのか。女性が苦手だとの噂もあるが、真相はどうなのだろう。何度か言葉を交わしてみたが、そんな風に感じたことはない。リアはあらためて、疑問に思った。

 ──心に決めた人でもいるのだろうか。

 思って、胸の奥がずきっと痛んだ気がした。

「リア嬢? どうされました?」

「な、なんでもありません。授業がはじまってしまいますので、これで失礼します」

「ああ、そうですね。では」

 互いに頭をさげ、別方向へと足を向ける。リアは目覚めはじめた恋心を、胸中で必死に否定していた。
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