婚約者はわたしよりも、病弱で可憐な実の妹の方が大事なようです。

ふまさ

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 アビーは哀しかった。同時に、苛ついてもいた。兄であるモーガンの態度が、明らかにおかしくなってしまったからだ。いつだって、どんなときだって味方になってくれた優しくて、愛しい兄。最近では、目も合わせてくれなくなってしまった。

 どうして。誰のせい。アビーの中で、すでに答えは出ていた。頭にその人物の顔を思い浮かべながら廊下を歩いていたアビーは、曲がり角を曲がったところで一人の男子生徒とぶつかり、よろけた。

「す、すみません! 大丈夫ですか?!」

 男子生徒が慌てたように謝罪する。アビーはゆっくり体勢を立て直すと、静かに口を開いた。

「……あなた、わざと私を押したでしょう」

 男子生徒は、ぎょっとした。

「そ、そんなことしてません!」

「いいえ、しました。このことは、きちんとお兄様に報告します。覚悟しておいてくださいませ」

「そんな……っ」

 男子生徒と一緒にいた友人も、わざとではないと必死に説得するが、アビーは聞く耳を持ってはいなかった。いや。アビーにとって、真実などどうでもよかったのだ。大事なのは。

 ──これでまた、お兄様は私のために怒ってくれるはずだわ。

 その一点のみだった。アビーは久しぶりに、上機嫌だった。それなのに。

「──それはあまりにも、言いがかりがすぎるのではないでしょうか」

 後方から響いた聞き覚えのある声色に、アビーは顔を向けた。不快に眉をひそめる。

「赤の他人であるあなたに、失礼な物言いをされるいわれはありません。お兄様に言いつけますよ」

 アビーに睨まれながら、リアは哀しそうに口を開いた。

「……アビー。あなたが自分に都合よく嘘をつく癖を、誰も注意はしてくれなかったのですか?」

「なんですか、それ。意味がわかりません」

 リアは憐れみを込め「──かわいそうな子」と、静かに呟いた。アビーが双眸に怒りを宿し、右腕を大きく振り上げた。手のひらを、リアの頬目掛けて振り下ろす。

 まわりがざわつく。リアは目を見張ったが、それは一瞬で、すぐに諦めたように目を閉じた。

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