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「──そこで何をしているんだ?」

 ジャスパーの声に、ルイスは恐る恐る振り向いた。両手は砂まみれ。掘り出されたところには、綺麗にラッピングされていたクッキー入りの袋がぐちゃぐちゃになって顔を覗かせていた。ジャスパーはそれをちらっと見ると、口角をあげた。

「マリーからもらったクッキーが行方不明になったと焦っていたら、お前が盗んでいたのか。しかもこんなところに埋めて」

「え……ち、ちが……これはジャスパーお兄様が、夜に……っ」

 とたんに、ジャスパーの目が吊り上がった。ひっ。ルイスが小さく悲鳴をあげる。

「それは、お前が埋めたんだよ。ぼくがそう証言すれば、みんなぼくを信じる。お前の言うことを信じるやつなんて、この世にはいないんだよ」

 そんなことはない。とは、ルイスには言えなかった。その通りだと、痛感していたから。お父様だって、マリー様だって、きっとジャスパーお兄様を信じる。そしたら、どんな目に遭わされるか。想像するだけで身体がぶるりと震えた。

「けど、ぼくは優しいから黙っていてあげるよ。お前がこのことを決して誰にも口外しなければ、だけどね」

 にっこり。ジャスパーが笑う。こんな兄を見るのははじめてで、ルイスはどうしていいかわからず、ただ口を閉ざすことしか出来なかった。

 ──でも。


「お前。マリーにあのことを話したんじゃないだろうな」

 数日後。部屋を訪れてきたジャスパーに、すごい剣幕で詰め寄られた。ルイスは震えながら、必死に否定した。

「な、何も言ってません……それに、ジャスパーお兄様が言ったのではありませんか……ぼくの言うことなど、誰も信じないと……」

「確かにな。だが、万が一ということもある。不安の種は、詰んでおいた方がいいのかもしれないな」

「…………え」

 ジャスパーが威圧し、近付いてくる。後退るルイス。まだ近付いてくる。身体がバルコニーの上にのると、ジャスパーに手首を掴まれた。ぞっとし、声にならない悲鳴をあげた。

「手すりにのぼれ」

「い、いやです……っ」

「早くしろ。屋敷から追い出され、惨めに生きていくよりずっとましだろうが」

 何だ。兄は何を言っている。わからないまま、恐怖だけが身体を支配する。震えて、うまく声が出せない。

「…………やめっ!!」

 微かな拒絶の声。こんな小さくては、きっと誰にも届かない。絶望するルイスの耳に、扉が開く音と、自分の名を必死に呼ぶ声が、同時に響いた。


「──ルイス!!」

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