不倫をしている私ですが、妻を愛しています。

ふまさ

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 ロッティへの慰謝料を払うため、二人で暮らしていた屋敷は売った。小さな家に移り住むとき、使用人は一人もついてこなかった。使用人はみな、ロッティを好いていたから。

 ジェフが不倫が原因で離縁したと知ったまわりの反応は、様々だった。疎む者。蔑む者。軽蔑する者。もっとうまくやれよと嗤う者。空っぽの心には、何も響かなかった。

 リンジーには最近、新しい恋人ができたようだ。ロッティと離縁したばかりのころは、どれだけ無視しようともしつこく付きまとってきていたが、ちょっと優しくされただけで、すぐに別の男にのりかえてしまった──噂によると、相手は妻子持ちらしいが、ジェフにとっては、どうでもいいことだった。


「……ただいま」

 王宮から帰宅し、玄関の扉を開ける。出迎えてくれる者はいない。今は通いの使用人が二人いるだけで、ジェフが遅く帰宅するときには、もう誰もいない。

 薄闇の中。聞こえるのは、ただ、静寂の音のみ。どんなに遅くなろうとも、笑顔で出迎えてくれたロッティはもういない。

 ロッティと離縁してから、もう一年が経つ。その間、ロッティとも、家族とも、一度も連絡をとってない。とりたくてもとれないのだ。手紙を送っても返事はないし、直接屋敷を訪ねても、門前払いをされてしまうから。

「あ、ああああああああ……っっ」

 ジェフが膝から崩れ落ち、泣き叫ぶ。

(きみがいないことがこんなに辛いなんて、思わなかった。一人がこんなに寂しいなんて……っ)

 どうしてあんなことをしてしまったのだろう。毎日毎日、後悔しかない。時間が巻き戻せるなら。ロッティを取り戻せるなら、何でもするのに。

 いくら時が経とうとも、ロッティに対する想いは消えるどころか、増していくばかり。そこでジェフは、はたと気付いた。

 ──ロッティも同じ気持ちなのではないかと。


 一度思うと、もう止まらなかった。ジェフはロッティの実家がある方へと駆けた。ロッティの屋敷に行くのは、半年ぶりだった。その前は数日ごとに通っていたが、あまりにしつこくすると、かえって嫌われてしまうのではということに気付いてからは、手紙を送るにとどめていたから。


 駆けて。駆けて。息も絶え絶えになりながら、ジェフはようやくロッティの実家近くにたどり着くことができた。

(半年も姿を見せていないのだから、きっとロッティも、私のことが気になっているはずだ)

 ジェフはこのとき、信じて疑わなかった。重い足を引きずるように、前に動かす。やがて視界に入ってきたのは、ローレンスの屋敷だった。

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