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「……ねえ、リビー。アントン様に愛されているのは、自分だけだって、思ってた?」
「な、なに言い出すの、お姉ちゃん。アントン様が愛しているのは、お姉ちゃんだけでしょ?」
「……そういうの、もういいよ。ぜんぶ知っているから──あのね、リビー。アントン様は、あなたの他に、少なくとも四人の女性と関係を持っていてね」
え。
取り繕うのも忘れ、リビーは、大きく目を見開いた。
「……どういう、意味?」
「──婚約者がいるにもかかわらず、五人の女と逢瀬を重ねていたということだ!!」
耐えきれないように叫んだのは、ゴーサンス伯爵だった。
リビーは血の気の引いた顔で、隣に立つアントンを見た。アントンの顔色も、負けず劣らず、真っ青だった。
「同じ王立学園に通っていた令嬢二人! 街娘が二人! そしてそこの聖女候補の女! 確認が取れたのはこの五人だけだが、腐った貴様のことだ。他にもいるのではないか? どうなんだ、アントン!!」
つかつかと歩み寄ってきたゴーサンス伯爵に、胸ぐらを掴まれるアントン。呆然としていて、されるがままだ。
その横で、リビーは力が抜けたようにがくんと膝をついていた。うそ。うそよ。ぶつぶつと独り言を呟いていたかと思うと、キッと面をあげた。
「王様! こんな最低なやつ、処刑にしてください!」
国王は、処刑か、と呟くと、真っ直ぐにリビーを見据えた。
「その可能性があるのは、お前の方だろう?」
「……へ?」
なに。なにを言っているの。
訳がわからなくて、リビーはエリノアの方に視線を移した。
エリノアもまた、逸らすことなく、真っ直ぐにリビーを見ていた。
それは、見たことがないほどの、怖いぐらい、真剣な表情で。
「……お姉ちゃん?」
リビーはごくりと、生唾を吞んだ。
「な、なに言い出すの、お姉ちゃん。アントン様が愛しているのは、お姉ちゃんだけでしょ?」
「……そういうの、もういいよ。ぜんぶ知っているから──あのね、リビー。アントン様は、あなたの他に、少なくとも四人の女性と関係を持っていてね」
え。
取り繕うのも忘れ、リビーは、大きく目を見開いた。
「……どういう、意味?」
「──婚約者がいるにもかかわらず、五人の女と逢瀬を重ねていたということだ!!」
耐えきれないように叫んだのは、ゴーサンス伯爵だった。
リビーは血の気の引いた顔で、隣に立つアントンを見た。アントンの顔色も、負けず劣らず、真っ青だった。
「同じ王立学園に通っていた令嬢二人! 街娘が二人! そしてそこの聖女候補の女! 確認が取れたのはこの五人だけだが、腐った貴様のことだ。他にもいるのではないか? どうなんだ、アントン!!」
つかつかと歩み寄ってきたゴーサンス伯爵に、胸ぐらを掴まれるアントン。呆然としていて、されるがままだ。
その横で、リビーは力が抜けたようにがくんと膝をついていた。うそ。うそよ。ぶつぶつと独り言を呟いていたかと思うと、キッと面をあげた。
「王様! こんな最低なやつ、処刑にしてください!」
国王は、処刑か、と呟くと、真っ直ぐにリビーを見据えた。
「その可能性があるのは、お前の方だろう?」
「……へ?」
なに。なにを言っているの。
訳がわからなくて、リビーはエリノアの方に視線を移した。
エリノアもまた、逸らすことなく、真っ直ぐにリビーを見ていた。
それは、見たことがないほどの、怖いぐらい、真剣な表情で。
「……お姉ちゃん?」
リビーはごくりと、生唾を吞んだ。
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