聖女の婚約者と妹は、聖女の死を望んでいる。

ふまさ

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「すべての責任を私に押し付けようとしても無駄だ! 実の姉を本当に殺そうとするとは……なんて怖ろしい女なんだ……っ」

 喚くアントンの頭を、ゴーサンス伯爵が、黙れと地面に押さえ付けた。

「お前がどうこう言えた義理か!」

 うう。呻くアントンをちらっと見てから、リビーはエリノアに向き直った。

「……あたし、いまならわかるわ。きっと、あの男に洗脳されてたの。お姉ちゃんがいなくなれば、聖女になれるって。婚約者にしてくれるって。いつも言っていたのよ。だから……」

「だから、わたしのお金を盗んで、好きでもない男に抱かれてまで、わたしを殺そうとしたの?」

 静かな、けれどはっきりとした問いに、リビーが気まずそうに視線を彷徨わせる。

「……ごめんなさい。あたし、どうかしてた。一度だけ、やり直すチャンスがほしいの。もう絶対、お姉ちゃんを裏切ったりしないって誓うからっ」

 膝をつき、許しをこうリビーを見下ろしながら、エリノアは、ゆっくり口を開いた。

「……わたしのいまの気持ち、正直に言うわね」

「うん……聞かせて?」


 エリノアはすうっと息を吸うと、


「──あなたたち二人への嫌悪感で、吐きそう」


 と、呟いた。


 予想外だったのか。リビーと、そしてアントンも、目を丸くしていた。

「クリフ殿下は、無理してこの場に出席しなくていいと言ってくださったわ。でも、二人と顔を合わせるのはこれで最後と決めて、ここに来たの。未練が残らないようにするために。前に進むために」

 でも。エリノアは一歩、後ろに後退った。

「……必死に冷静を装って、我慢していたけど、もう限界……魔物なんかより、二人の方がよっぽど気持ち悪いわ……」

「ひ、ひどっ」

 演技ではなく、本当にショックだったか。リビーが愕然とする。

「姉の婚約者と密会を重ねて、殺しまで依頼しておいて、そのわたしの前でいつもと変わらず、平然と笑っていたあなたは、異常よ……それを泣いて謝れば許してもらえると本気で思っている神経も、わたしには理解できない……」

 泣き落としは通じない。そう理解したとたん、リビーは喚きはじめた。

「──だからあたしが処刑されてもいいっていうの? そういうお姉ちゃんこそ、異常じゃない?!」


 立ち上がり、エリノアに近付くリビー。その前に、クリフが立ちはだかった。失礼。そう一言呟くと、クリフはリビーの左頬を平手で叩いた。
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