聖女の婚約者と妹は、聖女の死を望んでいる。

ふまさ

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 しん。
 一瞬、謁見の間が静まり返った。リビーも、はじめて打たれた衝撃に、呆然としている。

 その状態のまま、アントンと共に、リビーは兵士に連行されていった。

「……あの、クリフ殿下。ありがとう、ございます」

 何だかふわふわとした感覚のまま、エリノアはクリフに頭を下げた。クリフが、いや、と苦笑する。

「あそこまで茫然自失になるなんて、思わなかったな。彼女、打たれたのははじめて?」

「……そう、ですね。孤児院にいたころから、リビーが何かしでかしても、姉のわたしのせいだと言われ、打たれるのは、わたしの役目だったので……」

 そうだったのか。クリフは、小刻みに震えるエリノアの手を、そっと握った。

「──いままで、よく頑張ってきたね」

 その優しい微笑みに、エリノアは目をぱちくりさせた。

「……そうですか?」

「そうだよ」

「でも、わたしは姉なので、当然なことだと言われてきましたよ?」

「誰に?」

「孤児院にいた、大人たちにです」

 クリフは、そうか、と、エリノアの頭にぽんと手を置き、リビーたちが出て行った謁見の間の扉を見た。

「……彼女がああなってしまったのは、原因の一つに、環境もあるのだろうね」

 呟かれた言葉は、エリノアの耳に届くことはなかった。


 王命に逆らったアントンにも実刑判決が下され、刑期を終えたあとは、聖女エリノアの希望もあり、国外追放となった。その後の彼がどうなったのか。縁を切った家族はもとより、友人も、愛人も、誰も、知らない。


 リビーは、国王が述べた通り、処刑もありえた。だが──それが本人の望みであったのかどうかは別として──エリノアの願いもあり、終身刑の刑罰が下された。


 エリノアは一度だけ、リビーとの面会を試みた。だが、リビーがそれを拒絶したことから、以後、エリノアがリビーと顔を合わせることは、二度となかったという。

 
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