ハロウィントリップ!〜異世界で獣人騎士に溺愛された話〜

のらねことすていぬ

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幸せ

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「サタは、元の世界に戻りたいんだよな」

 無茶をしすぎたせいで小さな体は暫くぐったりと力を失って、少し眠ってから俺に文句を言った。それでも文句の後に『幸せだ』と囁いてシーツにくるまった。彼が穏やかに微笑んでくれることが信じられないほど胸に幸せを満たす。このままずっとこうしていたい。

 だが、まだくったりとベッドの上に転がるサタを撫でながら、思わずそう呟いた。

 彼は俺に出会った時に、元の世界に戻りたいと言っていた。それは今も変わらないだろう。この世界だとニンゲンであるサタは変装なしでは外にも出られない。もし彼が獣人ではないとバレたら、何をされるか分からないのだから。そんな世界にとどまりたくないと思っても当然だ。

「まだ帰る方法ま見つけられていない。だが、もし戻るとなったら……」

 言葉を重ねる俺に、サタはくるりとベッドの中で向きを変えて、俺の言葉を遮った。

「騎士団長で貴族でもあるアズラークが方法を探して、手がかりすら見つけられないんだろ? 俺も無理なんだろうなって薄々感じてたし、覚悟決めるよ」

 覚悟を決める、とどこか寂し気な表情で言う彼に俺は首を横に振る。

「まだ探す。時間をかければ、いつか」
「ありがとう」

 あまり期待していないのだろう。もしくは無駄な期待するのが嫌なのだろうか。彼は諦めを抱いた顔のままほほ笑んだ。その悲し気な表情を少しだけ見つめて、俺は彼の柔らかな頬を指先で摘まんだ。

「もし戻ることになったら、俺も付いて行くからな。それも覚悟しておけよ」
「は……?」
「当たり前だろう。ようやく手に入った番を一人で異世界なんかに行かせるわけがない。その時は、向こうでの案内は頼んだぞ」


 俺は、彼が元の世界に帰ってしまうと恐れていた。そうしたら二度と会えなくなってしまうと。
 だが__そんなこと、俺が向こうに行けば済む話だ。体力のある獣人なら大体の環境で生きていける。ニンゲンしかいない世界だと少し目立つかもしれないが……それはその時に考えればいい。どうせこの世界に、サタ以上に大事なものなんてないのだから全て捨てていけばいい。

 にやりと笑みを浮かべると、しばらくきょとんとした顔で俺を見ていたサタは楽しそうに噴き出した。

「いいよ。そうしたら俺が養ってあげる。できるサラリーマンじゃなかったけど、一人くらいならなんとかなるし」

 『俺のマンション、狭いけど我慢しろよ』とか楽し気にあれこれ話し出すサタに視線を緩める。彼が何を言っているのか分からない言葉もあったけれど、それでも明るさを取り戻した表情にそっとその頬を撫でた。
 すると一人で話していた彼がぴたりと言葉を止めて、音がするほどぎこちなくこちらを向いた。

「あー……アズラーク。そう言えば、俺、言ってないことがある」
「言っていないこと?」

 幸せそうだった彼の顔が、再び蒼褪めている。どこか気まずそうな顔……どころか沈痛な面持ちだ。

「うん。言っていないっていうか、嘘っていうか……」
「嘘?」

 嘘。まさか。まさか向こうの世界に恋人……いや婚姻関係を結んだ相手でもいるのか。恋人なら別れてもらえばいい。婚姻関係だって解消させる。だが、もし元の世界に戻るなら、そちらとやり直したいとでも言うのか。言いづらそうに口をもごもごと動かすサタに、思わず問い詰めようとすると、彼は大きなため息をついて言葉を吐き出した。

「俺、16歳じゃないんだよね」

 彼の言葉に俺は体を凍らせた。

「ということは……まだ未成年……」
「いやいや違うって! どこをどう見たらそうなるんだよ! 16歳より10以上も年上だよ!」

 もしや幼い子供にこれだけ無体なことを強いてしまったのかと固まっていた俺に、サタがそんなわけあるかと首を横に振る。幸いなことに彼は年を違う方向で誤魔化していたみたいだ。

「そう、なのか」
「幻滅した? やっぱり若い方が良かった?」

 ほっと息を吐く俺にサタが少し不安げに首を傾げる。そのことに思わず苦く笑った。

「いや、見えないし驚いたが……今まで話していて、16とはとても思えなかったから納得だな。匂いも、まだ若いが大人のものだ」
「それだけ?」
「他に何かあるのか?」

 彼の驚いた様子に今度は俺が首を傾げる。恋した番が、こうして傍にいて微笑んでくれる。それだけで他に何が必要だと言うんだろうか。年も、種族も、生まれた世界も、全てが予想と違っていても。これほどの幸せは他にないのだから。

 寝そべる彼に覆いかぶさると、そっと口づけで唇を塞ぐ。その柔らかな唇からは、震えるほど幸せな甘い味がした。










◇◇◇◇◇

本編完結です。
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