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番外 王のつがい
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番外編
王のつがい
王×人間
サタじゃない話
-
どろりと鼻に纏わりつくような甘い匂いがする。
腐った花のような、もしくは発情期の動物のフェロモンのような。
粘つく湿度の高い香り。
悪い匂いじゃないのだけれど……どうにも全身に絡みついてくるようなその匂いが恐ろしい。俺を絡めとり、動けなくさせようとしている。そんな妄想に駆られてしまう。ぞくりと薄気味悪いものが心に芽吹き、薄っすらと瞳を開けると、匂いが一際強くなった気がした。
体のあちこちに痛みと違和感がある。寝転がっている俺は、焦点が合わない視界で何度か瞬きして。それから不意に響いた低い声に体を跳ねさせた。
「起きたかな?」
「……っ!」
ようやくクリアになった俺の視界に無理やり入ってくるかのように顔を近づけてきたのは__濡れたような艶やかな黒髪の、若い男だ。
白い肌に整った顔立ち。
だけど決して女性的なわけではなく、つり上がった眉や切れ長の瞳が意志が強そうで……どこか酷薄そうな色をたたえている。
だけどそんなことよりもずっと目を引くのが__男の肌のあちこちに散らばる、薄い緑の鱗。
縦に瞳孔の開いた瞳。
そして人である俺よりもずっと長い舌。
明らかに異形の男は、俺の視線が彼の顔に向けられるのを見て、満足そうに笑ってそして体を大きく揺さぶった。
「……っぐ、ぁ、……ああ!」
後孔から僅かな痛みと、鋭い快感が体を駆け巡り、うめき声とも嬌声ともつかない声を上げる。
そうされてようやく俺は揺蕩っていた意識が徐々に戻ってくる。
そうだ。
なんで忘れていられたんだ。
俺は__俺は、この男に捕まって、それから何度も何度も繰り返し抱かれているんじゃないか。
この、目の前の蛇のような男に。
信じられないほど太いものが俺の後ろに深くずっぽりと突きこまれているのを、恐る恐る辿った視線で見つめる。
は、は、と荒い息を吐いていると男は愉快そうに笑った。
「ニンゲンは本当にか弱いね。少し愛でるとすぐに気を失ってしまう」
「ひっ……あ!」
そう言いながら男は白い指先で俺の胸の尖りを責めるように摘まむ。
痛みに体を震えさせると、今度は宥めるようにそこに舌を這わせてくる。
刺激に敏感に立ち上がったところをねっとりと舐め上げられて、今度はたしかな快感を感じる。
昔は胸への刺激なんてほとんど感じないものだと思っていたのに、この男に執拗に舐められて腰が震えてしまうようになった。
「ああ、こっちも弄ってほしいのかな?」
温度を感じない掌で陰茎を擦り上げられる。
くりくりと先端を弄られて粘ついたものを塗り込めるように拡げられる。
ゆっくりと腰を揺すって俺の後孔を苛んだまま、尿道口にそっと爪の先をのめり込ませられ、痛みに近い刺激が襲ってきて俺は嫌だと首を横に振った。
「ひっぁ、、……も、……や、め、」
「駄目だよ、可愛い番。執務でお前に会えない間ずっと寂しかったんだから、たっぷり可愛がらせてくれないと気が狂ってしまう」
縛られているわけでもないのに動きの鈍い腕。
なんとか男の胸を押しやろうと力をいれるけれどあっさり捕まってシーツに強い力で縫い付けられる。
覆いかぶさってきた男に口を塞がれて唇を舐め上げられる。
無理やり唇を割り拓いて入り込んできた舌に咥内をかき回され、音を立てて唾液を吸われてそれすらもじわりとした快感になる。
酸欠になるほど長く続いた口付けからようやく解放されると、くたりと力の抜けた体を再びじわじわ揺さぶられる。
「やっあ、!ぁあ!」
「薬が効いているから苦しくないだろう?」
「でも……俺、……!」
「大丈夫だよ。たくさん気持ちよくなれば、昔の世界なんて忘れられるから」
乱れる俺を見下ろしながら、男はうっそりと微笑んでそう言った。
___元の世界。
そうだ、俺は。
俺はずっと日本に住んでいた。
親と折り合いが悪くて高校を出てすぐに家を飛び出した。
好きでもないけど付き合っていた、年上の女の子の部屋に何日も泊まって、バイトをいくつも掛け持ちして働いていた。
だけどどれだけ働いてもお金なんて全然貯まらなくていつからか女の子も俺が部屋に帰ると嫌な顔をするようになって。
自分が実家だけじゃなくてどこに行っても邪魔ものだって気が付いた。
それでも帰る家なんてないしどこにも行く当てがなくて居心地の悪い生活でも誤魔化しながら生きていた。
何もかもが嫌で、俺には未来なんてなくて、あるのは暗く口を開いた不安だけだった。
どう考えてもどう頑張ってもこれから先に良いことがあると思えない。
暗い坂を転がり落ちたくなくてそれだけで毎日バイトに行ってる日々だった。
それで頭がおかしくなりそうな不安に、ある日俺は酒に逃げようと思った。
アルコールの強い、それでもジュースみたいな見た目のチューハイを買って、薄っすらと寒気のする季節に一人で公園で飲んでいたんだ。
友達なんていないし、部屋で飲んだら嫌味を言われると思ったから外で飲んでいた。
もう消えてしまいたい。
全て忘れてしまいたい。
ただそんな気分で好きでもないアルコールを喉に流し込んだ。
普段は全然飲まないのに急に強い酒を飲んだせいか、頭があっという間にぐらぐらして気分が悪くなって___。
それで気が付いたら真っ暗い神殿にいた。
大きな、獣の混じった姿をした男たちに囲まれて。
『__ようやく成功した』
『前のニンゲンは途中で見失ってしまったから』
『雄か。それにしてもこんなに細いなんて、まだ子供じゃないのか?ちゃんとニンゲンの子種を残せるのか?』
頭が揺さぶられたような気持ち悪さに冷たい床に倒れる俺を、男たちは見分するような、だけど変な熱のこもった瞳で見下ろしてきていた。
彼らの頭には、ちゃちなコスプレのような獣の耳。
口を開くとちらりと牙が覗く人もいた。
その一番前に、角も耳も生えていないけれど……顔の皮膚の一部がトカゲの鱗のようにキラキラと反射する男が立っていた。
安い劇に引きずり出されたような気持ちで倒れたまま男たちを見上げていると、俺のことを一番近くで見ていた男の後ろから『彼』が音もなく静かに現れたんだ。
『父上、彼の交配相手が決まるまで私が面倒を見ますよ』
『ツェーザ、お前がか?』
『ええ。王の子である私なら、他の誰に任せるよりも公平でしょう』
王と呼ばれた男は少し考えこむようにして、それから頷いた。
『変な気は起こすなよ。これには100は子供を作らせないといけない。それにそれが終わったら他国への交渉の道具にもなる』
『もちろんです。私は今まで父上に逆らったことなんてありませんよ』
笑顔でそう返した彼は、その場に膝をつくとそっと俺のことを抱き起した。
その手もその笑顔もどうにも薄ら寒いものを感じたけれど、混乱と恐怖に固まっていた俺はその腕にすがるしかなかった。
そうして俺は彼に保護されることになった。
その後の彼……ツェーザは優しかった。
はじめは俺に首枷、手枷、それから足枷が付けられるはずだった。
全て重たい鉄でできた重罪人にはめるようなやつだ。
だけど俺の体は細くて弱くて耐えられないってツェーザが言ってくれて、太いけれど一本の縄を足に巻かれるだけで済んだ。
綺麗な部屋に通してもらって暖かく広いベッドで寝れて、与えられたご飯は日本で食べていたコンビニ弁当とは比べ物にならないくらい美味しかった。
ツェーザは一日に一回は必ずやってきて、困ったことや足りないものがないか聞いてくれた。
少しづつこの世界のことも教えてくれた。
そうすると単純な脳みそでできている俺はツェーザに頼り切った。
なにしろ今までの人生の中で一番優しくされたんだから、まるで彼が親鳥かのように何でも聞いて頼った。
だからいつも微笑んでいるツェーザが本当はどんなことを考えているのかも、どんな男なのかも一切気にしていなかった。
そうしてすっかり気温が下がった、冬の日の夜。
ツェーザが暗い笑みを浮かべて俺の部屋を訪れた。
『父が死んだよ。今日から私がこの国の王だ。そして君はこの国で唯一のニンゲンで、___私の番になるんだ』
優しく諭すようにそう言われても俺は何のことだかさっぱり分からなかった。
ツェーザはこの世界のことを少しだけ教えてくれていたけれど、それは獣人しかいない、とか他の国もそうだとか、そんなことだ。
番なんて聞いたこともない。
首を傾げる俺の首にそっと体温の低いツェーザの手がかけられた。
『種馬になんてしない。父上は少しでもニンゲンの血が濃い獣人を増やしたいみたいだったけど、そんなの今更無駄なことだ。政治の道具なんてもってのほか。お前だって数え切れないほどの雌に蹂躙されるよりも、私の番になった方がマシだろう?』
そう言ったツェーザの瞳はぎらぎらと輝いていて恐ろしかった。
今まで怖いと思ったこともなかった赤い長い舌がちろちろと出て、俺のことを獲物だと見定めているのが分かった。
ひっと小さく悲鳴を上げて体をびくつかせると、逃げるとでも思ったのかツェーザは俺を乱暴にベッドへと引きずり込んだ。
それから裸に剥かれて体中を舐め回されていつの間にか抱かれていた。
突然のことに混乱する俺を見て、何度も首筋に彼は牙を立てては『誰も助けに来ない』『諦めろ』と言い聞かせるように繰り返し呟いた。
顔は恐ろしいほど楽し気な笑みを浮かべているのに、その声だけは寂し気に聞こえて。
でもその時の俺にはとても彼のことを考える余裕なんてなくて、ただただ翻弄されてむせび泣いた。
「……ぁ、や、っあ!」
「また、意識が飛んでいたね」
ぐり、と最奥を抉られる感触に薄らいでいた意識が戻る。
まるでお仕置きだとでも言うかのようにぎゅうと強く陰茎を握られて俺は悲鳴を上げた。
「こっちを向いて、私の番」
「見てる……見て、る、……から、ぁ、あ!」
顔を至近距離で覗き込まれて瞳の奥まで調べるように見つめられる。
まるでそこから俺の心の裡を見ようとしているかのようで少し怖くて、泣くような情けない声をだす。
するとツェーザは俺の陰茎を緩く扱きながら、ゆっくりと尋ねた。
「お前は誰の番?」
「ツェー、ザ、の……!ツェーザの番、……!」
「そうだね。もう絶対に逃げられないんだから、ずっと俺のものだ。ずっと」
何度も教えられた通りに応えると彼は少しだけ満足したのか視線を和らげて俺の頬に唇を落とす。
優しく吸い付かれるそのくすぐったさと甘さに、肌がそわりと快感を拾った。
この世界に来るまでは、ずっとずっと辛かった。
消えたい、いなくなりたいと思ってた。
誰にも大事にされたことなんてなかった。
__だから、別に逃げたいなんて思ってないのにな。
頭の隅でそんなことを考えながら、再び打ち付けられた腰に甘い悲鳴を上げた。
-------------
ツェーザ:蛇族。もともと狡猾で残忍な蛇族がこの国を支配していて、そこの王子だった。召喚されたニンゲンを一目で番認定して、他の相手に触られる前に自分の番にするために暗躍。無理やり召喚して襲ったので、受けには絶対に好かれていないと思ってる。
ニンゲン:日本に居た頃は色々大変だったので、こっちでの生活とツェーザの面倒見の良さにとっくに絆されてる。けど『番』とは言われるけど好きともなんとも言われないので、ツェーザの本意が分からないまま片思い気分。王様ってことはやっぱり王妃様とかいるのかな、とか無駄なことを考えて自滅してる日々。
王のつがい
王×人間
サタじゃない話
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どろりと鼻に纏わりつくような甘い匂いがする。
腐った花のような、もしくは発情期の動物のフェロモンのような。
粘つく湿度の高い香り。
悪い匂いじゃないのだけれど……どうにも全身に絡みついてくるようなその匂いが恐ろしい。俺を絡めとり、動けなくさせようとしている。そんな妄想に駆られてしまう。ぞくりと薄気味悪いものが心に芽吹き、薄っすらと瞳を開けると、匂いが一際強くなった気がした。
体のあちこちに痛みと違和感がある。寝転がっている俺は、焦点が合わない視界で何度か瞬きして。それから不意に響いた低い声に体を跳ねさせた。
「起きたかな?」
「……っ!」
ようやくクリアになった俺の視界に無理やり入ってくるかのように顔を近づけてきたのは__濡れたような艶やかな黒髪の、若い男だ。
白い肌に整った顔立ち。
だけど決して女性的なわけではなく、つり上がった眉や切れ長の瞳が意志が強そうで……どこか酷薄そうな色をたたえている。
だけどそんなことよりもずっと目を引くのが__男の肌のあちこちに散らばる、薄い緑の鱗。
縦に瞳孔の開いた瞳。
そして人である俺よりもずっと長い舌。
明らかに異形の男は、俺の視線が彼の顔に向けられるのを見て、満足そうに笑ってそして体を大きく揺さぶった。
「……っぐ、ぁ、……ああ!」
後孔から僅かな痛みと、鋭い快感が体を駆け巡り、うめき声とも嬌声ともつかない声を上げる。
そうされてようやく俺は揺蕩っていた意識が徐々に戻ってくる。
そうだ。
なんで忘れていられたんだ。
俺は__俺は、この男に捕まって、それから何度も何度も繰り返し抱かれているんじゃないか。
この、目の前の蛇のような男に。
信じられないほど太いものが俺の後ろに深くずっぽりと突きこまれているのを、恐る恐る辿った視線で見つめる。
は、は、と荒い息を吐いていると男は愉快そうに笑った。
「ニンゲンは本当にか弱いね。少し愛でるとすぐに気を失ってしまう」
「ひっ……あ!」
そう言いながら男は白い指先で俺の胸の尖りを責めるように摘まむ。
痛みに体を震えさせると、今度は宥めるようにそこに舌を這わせてくる。
刺激に敏感に立ち上がったところをねっとりと舐め上げられて、今度はたしかな快感を感じる。
昔は胸への刺激なんてほとんど感じないものだと思っていたのに、この男に執拗に舐められて腰が震えてしまうようになった。
「ああ、こっちも弄ってほしいのかな?」
温度を感じない掌で陰茎を擦り上げられる。
くりくりと先端を弄られて粘ついたものを塗り込めるように拡げられる。
ゆっくりと腰を揺すって俺の後孔を苛んだまま、尿道口にそっと爪の先をのめり込ませられ、痛みに近い刺激が襲ってきて俺は嫌だと首を横に振った。
「ひっぁ、、……も、……や、め、」
「駄目だよ、可愛い番。執務でお前に会えない間ずっと寂しかったんだから、たっぷり可愛がらせてくれないと気が狂ってしまう」
縛られているわけでもないのに動きの鈍い腕。
なんとか男の胸を押しやろうと力をいれるけれどあっさり捕まってシーツに強い力で縫い付けられる。
覆いかぶさってきた男に口を塞がれて唇を舐め上げられる。
無理やり唇を割り拓いて入り込んできた舌に咥内をかき回され、音を立てて唾液を吸われてそれすらもじわりとした快感になる。
酸欠になるほど長く続いた口付けからようやく解放されると、くたりと力の抜けた体を再びじわじわ揺さぶられる。
「やっあ、!ぁあ!」
「薬が効いているから苦しくないだろう?」
「でも……俺、……!」
「大丈夫だよ。たくさん気持ちよくなれば、昔の世界なんて忘れられるから」
乱れる俺を見下ろしながら、男はうっそりと微笑んでそう言った。
___元の世界。
そうだ、俺は。
俺はずっと日本に住んでいた。
親と折り合いが悪くて高校を出てすぐに家を飛び出した。
好きでもないけど付き合っていた、年上の女の子の部屋に何日も泊まって、バイトをいくつも掛け持ちして働いていた。
だけどどれだけ働いてもお金なんて全然貯まらなくていつからか女の子も俺が部屋に帰ると嫌な顔をするようになって。
自分が実家だけじゃなくてどこに行っても邪魔ものだって気が付いた。
それでも帰る家なんてないしどこにも行く当てがなくて居心地の悪い生活でも誤魔化しながら生きていた。
何もかもが嫌で、俺には未来なんてなくて、あるのは暗く口を開いた不安だけだった。
どう考えてもどう頑張ってもこれから先に良いことがあると思えない。
暗い坂を転がり落ちたくなくてそれだけで毎日バイトに行ってる日々だった。
それで頭がおかしくなりそうな不安に、ある日俺は酒に逃げようと思った。
アルコールの強い、それでもジュースみたいな見た目のチューハイを買って、薄っすらと寒気のする季節に一人で公園で飲んでいたんだ。
友達なんていないし、部屋で飲んだら嫌味を言われると思ったから外で飲んでいた。
もう消えてしまいたい。
全て忘れてしまいたい。
ただそんな気分で好きでもないアルコールを喉に流し込んだ。
普段は全然飲まないのに急に強い酒を飲んだせいか、頭があっという間にぐらぐらして気分が悪くなって___。
それで気が付いたら真っ暗い神殿にいた。
大きな、獣の混じった姿をした男たちに囲まれて。
『__ようやく成功した』
『前のニンゲンは途中で見失ってしまったから』
『雄か。それにしてもこんなに細いなんて、まだ子供じゃないのか?ちゃんとニンゲンの子種を残せるのか?』
頭が揺さぶられたような気持ち悪さに冷たい床に倒れる俺を、男たちは見分するような、だけど変な熱のこもった瞳で見下ろしてきていた。
彼らの頭には、ちゃちなコスプレのような獣の耳。
口を開くとちらりと牙が覗く人もいた。
その一番前に、角も耳も生えていないけれど……顔の皮膚の一部がトカゲの鱗のようにキラキラと反射する男が立っていた。
安い劇に引きずり出されたような気持ちで倒れたまま男たちを見上げていると、俺のことを一番近くで見ていた男の後ろから『彼』が音もなく静かに現れたんだ。
『父上、彼の交配相手が決まるまで私が面倒を見ますよ』
『ツェーザ、お前がか?』
『ええ。王の子である私なら、他の誰に任せるよりも公平でしょう』
王と呼ばれた男は少し考えこむようにして、それから頷いた。
『変な気は起こすなよ。これには100は子供を作らせないといけない。それにそれが終わったら他国への交渉の道具にもなる』
『もちろんです。私は今まで父上に逆らったことなんてありませんよ』
笑顔でそう返した彼は、その場に膝をつくとそっと俺のことを抱き起した。
その手もその笑顔もどうにも薄ら寒いものを感じたけれど、混乱と恐怖に固まっていた俺はその腕にすがるしかなかった。
そうして俺は彼に保護されることになった。
その後の彼……ツェーザは優しかった。
はじめは俺に首枷、手枷、それから足枷が付けられるはずだった。
全て重たい鉄でできた重罪人にはめるようなやつだ。
だけど俺の体は細くて弱くて耐えられないってツェーザが言ってくれて、太いけれど一本の縄を足に巻かれるだけで済んだ。
綺麗な部屋に通してもらって暖かく広いベッドで寝れて、与えられたご飯は日本で食べていたコンビニ弁当とは比べ物にならないくらい美味しかった。
ツェーザは一日に一回は必ずやってきて、困ったことや足りないものがないか聞いてくれた。
少しづつこの世界のことも教えてくれた。
そうすると単純な脳みそでできている俺はツェーザに頼り切った。
なにしろ今までの人生の中で一番優しくされたんだから、まるで彼が親鳥かのように何でも聞いて頼った。
だからいつも微笑んでいるツェーザが本当はどんなことを考えているのかも、どんな男なのかも一切気にしていなかった。
そうしてすっかり気温が下がった、冬の日の夜。
ツェーザが暗い笑みを浮かべて俺の部屋を訪れた。
『父が死んだよ。今日から私がこの国の王だ。そして君はこの国で唯一のニンゲンで、___私の番になるんだ』
優しく諭すようにそう言われても俺は何のことだかさっぱり分からなかった。
ツェーザはこの世界のことを少しだけ教えてくれていたけれど、それは獣人しかいない、とか他の国もそうだとか、そんなことだ。
番なんて聞いたこともない。
首を傾げる俺の首にそっと体温の低いツェーザの手がかけられた。
『種馬になんてしない。父上は少しでもニンゲンの血が濃い獣人を増やしたいみたいだったけど、そんなの今更無駄なことだ。政治の道具なんてもってのほか。お前だって数え切れないほどの雌に蹂躙されるよりも、私の番になった方がマシだろう?』
そう言ったツェーザの瞳はぎらぎらと輝いていて恐ろしかった。
今まで怖いと思ったこともなかった赤い長い舌がちろちろと出て、俺のことを獲物だと見定めているのが分かった。
ひっと小さく悲鳴を上げて体をびくつかせると、逃げるとでも思ったのかツェーザは俺を乱暴にベッドへと引きずり込んだ。
それから裸に剥かれて体中を舐め回されていつの間にか抱かれていた。
突然のことに混乱する俺を見て、何度も首筋に彼は牙を立てては『誰も助けに来ない』『諦めろ』と言い聞かせるように繰り返し呟いた。
顔は恐ろしいほど楽し気な笑みを浮かべているのに、その声だけは寂し気に聞こえて。
でもその時の俺にはとても彼のことを考える余裕なんてなくて、ただただ翻弄されてむせび泣いた。
「……ぁ、や、っあ!」
「また、意識が飛んでいたね」
ぐり、と最奥を抉られる感触に薄らいでいた意識が戻る。
まるでお仕置きだとでも言うかのようにぎゅうと強く陰茎を握られて俺は悲鳴を上げた。
「こっちを向いて、私の番」
「見てる……見て、る、……から、ぁ、あ!」
顔を至近距離で覗き込まれて瞳の奥まで調べるように見つめられる。
まるでそこから俺の心の裡を見ようとしているかのようで少し怖くて、泣くような情けない声をだす。
するとツェーザは俺の陰茎を緩く扱きながら、ゆっくりと尋ねた。
「お前は誰の番?」
「ツェー、ザ、の……!ツェーザの番、……!」
「そうだね。もう絶対に逃げられないんだから、ずっと俺のものだ。ずっと」
何度も教えられた通りに応えると彼は少しだけ満足したのか視線を和らげて俺の頬に唇を落とす。
優しく吸い付かれるそのくすぐったさと甘さに、肌がそわりと快感を拾った。
この世界に来るまでは、ずっとずっと辛かった。
消えたい、いなくなりたいと思ってた。
誰にも大事にされたことなんてなかった。
__だから、別に逃げたいなんて思ってないのにな。
頭の隅でそんなことを考えながら、再び打ち付けられた腰に甘い悲鳴を上げた。
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ツェーザ:蛇族。もともと狡猾で残忍な蛇族がこの国を支配していて、そこの王子だった。召喚されたニンゲンを一目で番認定して、他の相手に触られる前に自分の番にするために暗躍。無理やり召喚して襲ったので、受けには絶対に好かれていないと思ってる。
ニンゲン:日本に居た頃は色々大変だったので、こっちでの生活とツェーザの面倒見の良さにとっくに絆されてる。けど『番』とは言われるけど好きともなんとも言われないので、ツェーザの本意が分からないまま片思い気分。王様ってことはやっぱり王妃様とかいるのかな、とか無駄なことを考えて自滅してる日々。
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