Hand in Hand - 二人で進むフィギュアスケート青春小説

宮 都

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第三部

80.ライバルの躍進 3

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「西日本、お疲れさまさまでした~」

 翌日。陽向さんと休憩を取っているところに果歩がやってきた。
「昨日蒼井君がね、ネットのスポーツニュースのインタビューを受けたんだって。それを制覇が見たいんだったら見せてあげてって言われたんだけど。どうする?」
「なんだよそれ」
 なぜあいつは僕と直接しゃべらない。なぜ果歩にいまだに連絡を取っている。そしてなぜ、インタビューなんか受けてるんだよー!

 僕より先に陽向さんが言葉を発した。
「それ、私も見せてもらっていいかしら」

 果歩がニュースサイトを読み込んだ。画面に、流斗と神宮路さんと、もう一人インタビューアーらしき女の人の姿が映し出された。
「再生するね」
 果歩のその声に、画面が動き出した。

「みなさん、こんにちは!
 いつもオンライン・スポーツファンをご視聴いただいて、ありがとうございます!
 さて本日は、私がどうしても会いたくてたまらなかった方に、リポーターの特権で会いに来てしまいました!」
 どうしても会いたくてたまらない方……。
 彼らがそんな風に言われていることに、僕はまず軽くやられた。

「アイスダンスのジュニアクラスでご活躍の、神宮路氷華さんと蒼井流人さんです。きゃー、本物! うれしー!
 ではよろしくお願いしまーす」

 一部ものすごいテンションが混入して、インタビューは始まった。
 流斗はにこやかによろしくお願いしますと頭を下げ、神宮路さんは無表情のまま身動きもせずに流斗の隣に座っている。よく見る表情だけどあれは怒っているわけじゃなくて、緊張したり考え込んだりしている顔なんだろうか。

 結成時期などプロフィールに関するいくつかのインタビューのあとだった。
「それではここからは、本日行われたフリー大会についてお話しを伺っていきます」
 思わず陽向さんと一緒に乗り出してしまう。

「先ほど生で拝見させていただいたんですけれど、ほんっと、最高に素敵なプログラムでした。神秘的と言いましょうか、幻想的と言いましょうか。楽曲のカノンと最高にマッチして、素敵な別世界へと連れていかれるようでした」
 誉め言葉はどうでもいいんだよ。誉め言葉は。つまらないインタビューで終わらせるなよ。
「あのプログラムは、挑戦作だとお聞きしたのですが」
「はい。僕たち二人はこれまでの誰とも違うものを作りたくて、ああいう少し変わったプログラムを考え出しました」
「誰とも違うもの! 素晴らしいですね。本当に、これまでにない独創性溢れる見事なプログラムだと見ていて痛感しました!」
 独創性が高いのは見たらわかることだから。もっと突っ込んだことを言ってくれ。

「アイスダンスといえばユニゾンと言われていますけれども、お二人のプログラムはいわゆる同じ動作を行うという意味でのユニゾンではなく、新しい形の調和を提言しているように見えました。そのあたり、いかがでしょう?」
「そうなんです。楽曲であるカノンの言葉通り、まさに輪唱のようなプログラムを作ったら斬新なのではないかとコーチやパートナーと話し合い、このようなプログラムが生み出されました。そしてせっかく輪唱という独特のことをするのですから、次々に繋がっていくというイメージを元に、プログラムに意味を与えました」

「意味といいますと?」
 マイクを彼らに向け、続きを催促するリポーター。
「この世には男性もいれば、女性もいますよね。プログラムの中での僕たちは男女の象徴として、世の中の人々が男女の垣根を超えて手を取り合い、共に何かを成し遂げていく姿をイメージして滑っています。さらに、広い世界の中でたくさんの人と関わり合うことや、前の時代から次の時代へと文化を伝えていくことの大切さをメッセージとして込めています。輪唱の繰り返すイメージに乗せて」

 なんだ、それは。
 僕は流斗のわけの分からないコメントに頭がくらくらした。僕が聞きたいと思っていたこととは思いっきり方向がずれている。
 そんな意味不明なこと考えてアイスダンス見る奴なんているかよ。なんで演技にメッセージを込めてみようなんて思うんだよ。お前たち、本当に僕と同じ人間かよ。

「素晴らしいですね~。なんと言いましょうか、壮大ですね~。今回、いったいなぜこのような挑戦を試みたいと思われたんでしょうか?」
「挑戦しないと勝てませんから」
 そう言った流斗は、今の今まで見せていた放送用の笑顔とは少し違う顔をしているように見えた。

 勝てないって……

 神宮路さんがそっと流斗の袖を引っ張り耳打ちした。流斗は彼女を見て頷くと、表情を整え咳払いした。
「勝つか負けるかなんてことはどうでもいいんです。せっかくこの世に生まれてせっかくスケートという珍しい技術を身につけたんですから、描きたいものを存分に描き出してみたい。僕たちはそういう欲求に従って、今までの枠にとらわれない作品を創っていきたいと思っています」
 神宮路さんが流斗の方を見て、嬉しそうにこくこく頷いた。
「この先、そういう僕たちならではの演技を見て、楽しんでもらえれば嬉しいです」
 リポーターはきゃーきゃーと大興奮で二人の方へと乗り出す。

「わかります! お二人の演技に点数も順位も必要ありません! お二人の演技は舞台であり、アートです。私は見られるだけで幸せです!!」
「そうは言っても、勝つ気でやりますけどね。スポーツですから」
 そう言う流斗の袖を、また神宮路さんが引っ張る。
「もちろん勝つことが最終目的ではありません」
 流斗は慌てて恰好つけて前言を撤回した。

 リポーターがこちらへと向き直る。
「勝つことは二の次とおっしゃっているお二人ですが、二週間前に開かれたジュニアグランプリチェコ大会では、十四組のうち五位という大変な好成績を収められています。
 芸術面ではもちろん、スポーツ選手としての注目度も抜群のお二人に、みなさんもこれからぜひぜひご注目ください!
 それでは本日は本当に、ありがとうございましたー!」
 こうしてインタビューは終わった。

「今までの枠にとらわれない、ね。面白いこと言うじゃない」
 そうつぶやいた陽向さんは、不敵な笑みを浮かべていた。

 これまで僕はアイスダンスについて色々なことを学んできた。
 けれど、そのどれもすべて、すでにこの世に存在していたものたちだった。
 僕はそれを学んで、これまでと同じようなスタイルで戦うことしか考えていなかった。

 それなのに。
 流斗たちはこの世界にこれまで存在しなかったものを追い求めようとしている。
 はるか遠くを見て、自分たちの手で新しいものを作り出そうと――
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