一人で寂しい夜は

春廼舎 明

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こんなことってあるんですね

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 彼がどさっと私の上に崩れ落ちた。別に賢者タイムに入ったわけじゃない。

「そこからかよ!」

 呆れたようにツッコミを入れ、私の横にごろりとなる。体をこちらに向けぐいっと腕を引っ張られた。私も彼の方に体を向ける。

「まさか、名前も知らない男とやろうとしてたの?」
「見ず知らずの人じゃないんですから、そんな言い方しないでくださいよ。」
「……」
「み、水原、じゃなくて、水沢…」

 彼がムッとした表情になる。

「水野…ええっと…」
「遠ざかった。…葵ちゃん? 今日自己紹介したよね? フルネームはともかく苗字も覚えてもないの? 直上の上司になのに!」
「ご、ごめんなさい。」
水上みずかみ 吏作つかさ、温泉地と同じ水の上だけど、読みは『ミズ』…」
「ツカサ…(くん)!」

 『●●のキス』のツカサくん系と思ったら本当にツカサだった!

「なんだよ、もしかして元彼と同じ名前とか言うなよ?」
「い、いえ。違います。攻略キャラと同じ名前です」
「ぶっ。……まあ、いいや。元彼じゃないなら。で、葵ちゃん?」

 にこにことこちらを見ている。

「つ、つか……だめです! 上司を名前呼びなんて!」
「その上司とこれからすんのに?」
「うっかり仕事の時出ちゃうとまずいですから!」
「いいよ~別に。俺、全員名前呼びだし。」
「だめですだめです!」
「みんな『ミズカミ』だか『ミナカミ』だか、判らなくなっちゃうからって、ツカサって呼ぶし。」
「だめですだめです!」
「強情だな…葵ちゃん、そんなに言うこときかないと……」

 意地悪そうな笑顔を見せ、内腿をなぞる指がツーっと近づく。

「!」

 すっと指が遠ざかる。
 ニヤリと笑われる。
 耳たぶを舐めるように耳元で囁かれる。

「葵…」

 ちょっとちょっとちょっとーーー!!
 ツカサくんと同じじゃない!
 普段はほんわかして優しいのに、ベッドの上では超ドSになるって言う噂の。ツカサルートはノマエン止まりだから読んだことないけど……

 ぱぁぁあっと顔を輝かせると、キョトンとした表情を返された。

「え、ちょっと、何期待しちゃってんのさ。これじゃご褒美あげるみたいじゃん。」
「え、だって、ご褒美ですよー。ツカサくんはツカサさんじゃなくてツカサくんなのに、吏作さんがツカサくんだったからもうっ」
「は? ゲームキャラに俺重ねてる? どんなキャラなのさ」
「言えません~」

 思わず口に手を持って行ったつもりが、袖が長く袖で口元を隠したようになった。狙うつもりもないのにいわゆる、あざとかわいい仕草。吏作さんが、ふっと笑うとすぽっと袖口から手を出させ、手を合わせる。大きな分厚い手のひら。わずかに角度をずらし、指の間に指を割り入れ私の手を握る。ゴツい手、長い指だなと思っているとごろりと体を傾け、膝の間に膝を入れられ文字通り組み敷かれる。
 キスの続きが始まる直前、ピタリと止められる。

「言わなくてもいい」
「え?」
「どんなキャラか、どうでもいい。今は俺を見てろ。」
「うん」
「名前呼んで、葵」
「吏作、さん」
「…ん…」

 イケメンがとろりとした表情で、顔を傾け口付ける。やっぱりこれは現実じゃないのかもしれない。緊張と期待の熱に浮かされ、彼にされるがままになる。準備ができ彼を受け入れようとして、ギョッとした。
 思わず目が釘付けになる。

「な~に、葵。そんなにコレ欲しかった?」
「え! 違います、いや違くないけど…いや…」
「やめる?」
「え」
「ん?」
「あの、その…私にはちょっと大きいかなーと」
「…っ、それ褒め言葉だよ?」
「そうじゃなくて、でも、あの、ご立派なのはわかりましたけど、私もう…」
「ぶっ! …いらない?」

 うおっ気がつけば、おきまりのやり取りをさせられてる。
 ごろりと押し倒され、入り口を擦られる。熱くて気持ち良い。とろけそう。

「こんなヌルヌルなのに、やめるの?」

 ちょんちょんと、入り口を突かれる。ほんの少しだけ潜り込まれる。ぬちゅっと全方向へ押し拡げる圧倒的な存在に、あっぷあっぷする。
 ぎゅっと力が入ってしまう。

「俺、普通だと思うんだけど、ゴムMだし。だからあとでちゃんと気持ち良くしてやるからって強引に進めちゃおうかと思ったんだけど…」

 ふわっと微笑まれた。

「葵にはちょっときついかもね……」

 やばい、その笑顔で落とされたんだってば!
 ゆっくり体を離されそうになって、握られていた手を慌てて握り返した。
 また彼が目を細め、うなずけばとろりとした表情になる。




 昼休み、後ろを通る声に思わずぎくりとしたら、万理江にきょとんとした顔をされた。辺りを見回しメガネのブリッジをツイッと上げる。

「ああ、水上さん?」

 ギョッとして思わず万理江の顔を凝視した。普段ほとんど人の名前を覚えない彼女が名前を覚えている。
 まさか、あの人、他にも? 思わず焦る。

「ん? へえ~そう言うこと。」

 万理江がニヤリと笑う。

「大丈夫よ、アタシはやってない。」
「は?」
「だって同じ名前だなーってチェックしちゃったから。」

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