特殊魔法は蜜の味

束原ミヤコ

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EP3:ユエル・アルファム 3

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 ユエルさんだったひとの頭からは、羊みたいな立派な二本の角がはえている。
 私と同じ制服は、裾や袖の長い異国風の深紅の衣装に変わっている。

 大きく開いた前合わせからのぞく胸板は、筋肉の隆起が凄い。
 アルス様より、シャウラ先生よりも逞しい男性になってしまったユエルさんに、私は当たり前だけれど戸惑いを隠せなかった。

「うん。中々良い感じの魔力ねぇ、レティ」

 話し方は女のひとね。
 礼儀正しかったユエルさんとは全く違うけれど。

「あ、あ、あなた、どなたです……? ユエルさんをどこに隠したんですか……?」

 もしや本物のユエルさんは、この筋肉質な男性によって誘拐されたのかしら。
 それはいけないわよ。犯罪者だもの。

 私の魔法は、なんと、犯罪を暴く効果まであったのかもしれないわね。
 なんてのんびり考えている場合じゃない。

 この方が犯罪者の場合、私は助けを呼ばなければいけないわよ。

「ユエルを隠した? そんなわけないじゃない。ユエルが私。私がユエル」

「似ても似つかないですけれど……!」

「おかしいわね、面影、あるでしょ。私を美少女にしたら、ユエル・アルファムになるのよ。ほら、じっと見て、じっと」

 要求に応じて私はユエルさんもどきをじっと見た。
 色合いは似ているわね。あと顔が綺麗。筋肉は凄いけれど、顔はとっても綺麗。

「つまり、あなたはユエルさん。ユエルさんは、実は男性……?」

「まぁ、分かりやすく言えばそうなるわよね」

「つまりつまり、アルス様たちは、男性のユエルさんをちやほやしていたということ?」

「そうそう。正体を現す気はなかったのよ? 暇つぶしの勝負が終わったら、そっと行方をくらまそうって思ってたのよ。でも、あれのお気に入りのあんたの行動があまりにもお馬鹿さんだったから、思わず出てきちゃったわよ」

「あれのお気に入りとか、暇つぶしの勝負とか、よく意味が分かりません。それに流石に初対面の方にお馬鹿さんと言われるのはちょっと」

 最近お馬鹿さんと言われがちの私だけれど、セディやアルス様はそれなりに長い付き合いなので別に良いとして、シャウラ先生も先生なので良いとして、ユエルさんは知らない人なので、ちょっと解せない。

「じゃあ、自己紹介をしましょうか。……話し方も、これだと違和感がある? 私は――俺は、光の大精霊ユール」

「はぁ……」

 にっこり微笑みながら、ユエルさん――もとい、ユールさんが言う。
 私は意味が良く分からなくて、曖昧な返事をした。
 光の大精霊様の名をかたる犯罪者の方としか思えない。

「信じてないという顔だな」

「信じてないです」

「信じる信じないはお前の自由だ、レティ。お前が信じなくても俺は光の大精霊ユールであることに代わりない。そしてお前はこの俺に、欲望を増幅させる魔法をかけたわけだ」

「光の大精霊様に私の魔法が有効とは思いません。だから、あなたは偽物です」

「俺にせっかく魔法をかけにきたのだから、受け入れるのが礼儀だろう? つまり、俺は今、目の前にいる女を食いたくて仕方ない。つまり、レティ。お前だ」

「光の大精霊様にも男性の象徴があるのですか? 精霊なのに?」

 精霊なのに、男性のそれがあるのかしら。
 そして勃つのかしら。

 精霊に会ったことは一度もないのだけれど、精霊とはもっとうすぼんやりしていて、粒子みたいなもので、もっと小さくて可愛いのかと思っていたわよ。
 こんな筋骨隆々な男性が精霊とか、夢が壊れるわね。

「あぁ、ある。大精霊たる俺だからな、無論どんな人間のものよりも立派だ。見てみるか?」

「遠慮します……!」

 大精霊様の名をかたる犯罪者の方の局部を見ている場合じゃないのよ。
 森の中で局部をさらけだすとか、犯罪者の上に変態かもしれないわよ。

「そう遠慮せずとも良い。そのみち、お前は俺に食われる運命にあるのだから。お前が俺にかけた魔法の責任を取るが良い」

「嫌ー! 変態ー!」

 私は腹の底から叫んだ。
 なんなの、角があるから、人間ではないのでしょうけれど。

 まさか本当に精霊なの?
 でも、王国をつくったと言われている大精霊様が、森の中で局部を曝け出そうとするのかしら?

 というか、美少女に変化してアルス様をはじめとした美形の男性たちを侍らせるとか、光の大精霊様ともあろうかたの行動とは思えない。

「魔物でしょ、絶対魔物! 魔物のくせに大精霊様の名をかたるとか、恥を知りなさいー!」

「俺が光の大精霊だと言っている。俺を魔物扱いするとは良い度胸だ」

「角が魔物っぽいもの」

「角、格好良いではないか。俺は見た目にはこだわる性質だ。よって、俺が変化していたユエルも世界一の美少女だっただろう?」

 変態の上にナルシストだわ。
 ユエルさんによかれと思って魔法をかけたら、犯罪者で変態でナルシストの魔物になってしまったわよ。

 属性盛り過ぎじゃないかしら。
 そして、色々覚醒しすぎじゃないかしら。

「よくわからないけど、さっきまで心が女の子だったはずなので、ユールさんは女の子ですから、今すぐに好きな男性の元へ走るべきかと思いますー!」

「俺は男だ。男に興味はない」

「顔の良い男たちを侍らせるご趣味があるのに……?」

「そんな趣味は無い。長らく生き過ぎて暇を持て余し、ある男と賭けをしていただけだ。……そんなことはどうでも良い。大人しく食われろ、レティ」

「いやぁ……っ」

 どうしよう。
 ユエルさんの本体っぽい初対面の男性が、背後から私の体をまさぐりはじめる。

 いえ、私が悪いと言えば悪いのだけれど。
 アルス様の時は怖かったけれど、嫌とかそういうのは無かったもの。
 シャウラ先生の時は、もうなんだか良く分からなくなって、それどころじゃなかったのよ。

 今回は私は正気だし、ユールさんは知らない人だし。
 いえ、やっぱりこうなったのは、私が悪いと言えば悪いのだけれど。

「そう怯えるな。悪いようにはしない。人とのまぐわいでは感じることのできないような、極上の快楽を与えてやろう」

「うぅ……っ」

「壊れるなよ、レティ」

「やだぁ……っ」

 大きな手で触れられると、体が勝手に熱くなるみたいだ。
 拒絶感のさらに奥に、確かな快楽を感じる。
 私、相手が誰でも良い、淫乱なのかしら。
 そんな自覚はなかったのだけれど、そうなのかしら。

「このような魔法をかけて誘ってきたわりに、初心なのだな。もっと慣れているのかと思っていたが」

「なんで、そんなこと……」

「毎夜あれに可愛がられて、教え込まれていると思っていた。これはこれで」

「さっきから言っている意味が分からないのですけれど……っ、ぅ、っん、ん」

 背後からスカートの下に差し込まれた手が、下着の上から秘所を辿り始める。

 片手は制服の上から胸をやわやわと揉み始めている。
 布地の上から胸の突起を摘ままれて、指先で転がされると、つんと尖って布を持ち上げてしまうのがくっきりと見える。
 恥ずかしいし、いたたまれない。

「だが、体は素直だな、レティ。もう濡れてきた」

「違っ……、違う、の……っ、嫌ぁ……」

 耳元で、低く深い声がする。
 ユールさんの声が鼓膜を震わせるたびに、ざわりと肌がさざめく。

 確かに指摘された通り、何度も秘所を下着の上から優しく撫でられるたびに、蜜口がもっと欲しいとでもいうように収縮して、とろりと愛液が流れ落ちている。

 花芯を指が掠めるたび、強い刺激が欲しくて自ら腰を擦り付けようとしてしまう。
 私の体は快楽をすでに知っていて、もっと、もっとと求めている。

「怖がらなくて良い。快楽とは実に原始的な欲望。欲望に身をゆだねるのは、人の正しい姿。光の大精霊たる俺に触れられて、堪えられるはずもない」

「でも、私……っ」

「レティ、気持ち良くなることは良いことだ。素直になれ」

「良いのですか……?」

「あぁ。俺に全てを委ねろ、レティ。何も心配する必要はない」

 ユールさんの言葉を聞いていると、ユールさんが全て正しいような気がしてくる。
 まるで、全てを許されているような、泣き出したくなるような心地よさすら感じる。
 私はこくこくと頷いた。

 気持ち良くなりたい。

 気持ち良くして欲しい。

「良い子だ」

 下着の隙間から入り込んできた指が、ぐりりと花芯を擦り上げる。

「あっ、ぁああ……っ」

 性急な快楽が唐突に与えられて、声を抑えることもできなかった。
 私は背筋をそらしながら、びくびくと震えた。 

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