9 / 46
レナード・シモンと媚薬 2
しおりを挟むレナードは私の髪を撫で、目尻や頬をゆっくり撫でながら歌うように言葉を紡ぐ。
「姉さんが産まれて間も無く、僕の両親は公爵夫妻……姉さんの両親に毒をもって殺しました。簡単だったそうですよ、なんせ、僕の母は姉さんの父の妹。公爵家への出入りは、自由にできました」
「レナード、そんな作り話はよくありません」
私は首を振る。
レナードはこんなことを言うような子じゃなかったはずだ。
「僕の父は、元々公爵家の使用人でした。母が父と姦淫したことを知られて、二人とも公爵家から追放されたようです。けれど、母の兄は優しい人で、たびたび金の無心に来る母に、金を渡してくれていました」
レナードは私の否定も聞かずに、作り話を続ける。
まさか、そんなわけがないと戸惑うことしかできない私に、レナードは言う。
「それでは足りず、公爵家を乗っ取ることにしたようです。公爵夫妻の死は病死とされて、両親が公爵家に戻ると母は元々いた使用人たちに金を握らせて暇を与えました。そして、新しい使用人を雇い、生まれたばかりの姉さんを自分の子供と偽った」
「……どうしてそんな嘘をつくの? どうして……お父様とお母様はどこにいるの? 話を、させて」
「もう、いません」
「いないというのは……」
「僕が二人を衛兵に突き出しました。当時のことを知っていた使用人を探し出し、証拠の毒を添えて。今頃牢獄にいるでしょう。そして、僕が公爵家を継ぎました。国王陛下にもすでに許可を得ています」
レナードの指が、私の頬から首筋を撫でて、剥き出しの鎖骨に触れる。
私は布面積の少ない下着を着ている。
そういえば、ガウンを着ていたはずなのだけれど、いつ着替えたのかしら。
レナードの告げた話にも愕然としたけれど、自分の姿にもさらに愕然とした。
布面積の少ない下着、というか。少なすぎる下着が、どう考えても私が率先して身につけるようなデザインではなかったからだ。
肩紐はある。あるのだけれど、胸の外周をレースが包み込んでいて、大切な中央部分には布がない。
くり抜かれている。
もう、これは下着じゃない。紐だわ。
つまり、私は弟の前で両胸を剥き出しにしている。
レナードは穏やかに、心配そうに「姉さん、風邪をひいてしまいますよ」と言って私を起こしてくれた。
もう、風邪をひくどころじゃない。
他に言わなくてはいけないことがたくさんあるはずなのに、体の心配をしてくれるレナードは優しいわね。
──そうじゃなかった。
レナードの話が衝撃的すぎて、頭が追いつかない。つい、現実逃避をしてしまった。
でも、よく考えるとそれもそうかもしれないと思う節は多々ある。
私は両親だと思っていた人たちにあまり似ていない。
レナードと妹は似ている。
両親は、私にだけ冷たかった。政略結婚の駒としか考えていないようだった。
だから、私だけ実の子供ではないとしても、それもそうかもしれないわね……と、納得できる。
ただ、私の実の両親の命を奪うまでしていたなんて、考えたくはないのだけれど。
「姉さん。あなたを救い出すことが遅くなり、申し訳ありませんでした。両親の真実に気づいたのはつい最近で、姉さんに安全な場所で暮らしてもらうために、あの二人の罪の証拠を集めるのに時間がかかってしまいました」
「ま、まって、レナード! どうして、触るの……!?」
どういうわけか、レナードは私の剥き出しの胸にそっと触れる。
剥き出しにしている私が悪いような気もしないでもなのだけれど、そこは胸だ。
弟に触らせていい場所ではない。
「もう、大丈夫です。ここにはあなたを傷つける者はいない。僕がこれからは、姉さんを守って差し上げますからね」
「ま、守ってくれるのは嬉しいけれど、その、少し離れてくれるかしら……」
「姉さん。実の姉弟ではないことを知って、僕がどれほど嬉しかったかわかりますか? あなたが殿下に婚約を破棄されて、僕は歓喜しました。けれど、姉弟であれば婚姻はできません。……ですが、従姉弟ならば、問題はありません」
レナードの手が、私の両胸をすくいあげる。
大きめの胸は、しっかりとした男性の手の中でふわりとたわんだ。
弟に、胸を触られている。
私は、口をぱくぱくさせた。
偶然手が触れたわけではなくて、明確な意思を持ってレナードは私の胸に触れている。
「ま、まって、お願い、待って……」
「鈍感なのですね、姉さん。僕はずっとあなたに劣情を抱いていたというのに。どれほど厳しい立場にあっても、気高く前を向いていた姉さんに憧れていました。憧れではなく、恋や愛だというものだと気づいてしまった時の絶望と言ったら。あなたを殺して、僕も死のうと思うほどでした」
「え……っ」
ゾワゾワしたものが背筋を這い上がってくる。
でも、おかしいわよね、こんなの。
レナードが、こんなことを言うわけがないし、私の格好もどうかしている。
もしかして、これも──ワイアット様の時と同じ、夢なのかしら。
確かに私、すごい格好をしているのにちっとも寒くない。
なんて夢を、見てしまっているの。
「姉さん。何を考えているのですか? 逃げようと考えているのなら無駄ですよ。姉さんには僕の子を孕んでもらいます。公爵家の跡継ぎが必要ですから、たくさん頑張りましょうね」
口調は優しいのだけれど、レナードが怖い。別人みたいだ。
でも、これは私の夢だから、私がレナードを歪めているわけで、悪いのは私なのよね。
それでも、このまま流されるわけにはいかない。
私が逃げようとすると、レナードは私の腰を抱いて逃げないように引き寄せる。
片手に小瓶を手にしている。
小瓶を傾けると、とろりとした甘い香りのする液体が、私の曲線を描く胸へとしたたり落ちた。
冷たくはない。ぬるりとした感触の後に、液体が触れた皮膚が熱を持ち、じんじんと疼き出した。
「これは、初夜に女性の痛みをとるための媚薬です。公爵家で使用されるもので、幾度か試しましたが、かなり強力なようですよ」
「た、試したというのは、レナードには恋人がいるということでしょう?」
レナードには婚約者がいない。
体があまり強くないレナードは寝込むことが多く、婚約者選びは本人の意向もあって先送りにされていたし、貴族学園にも入学しなかった。
両親はレナードには優しかったので、レナードの要求は二つ返事で受け入れられていた。
でも、いつの間にか恋人ができていたみたいだ。
だとしたら私とこんなことをするのは、間違っている。そもそも、事実がどうであれ私にとっては弟なのだから。
「いませんよ。メイドを使って試しました。僕は指一本も触れていませんが、理性をすぐに失うぐらいに気持ちよくなれるようですね」
とろりとした液体に塗れた胸の突起を、レナードが弄る。
「見ないで、お願い、見ないで……ゃ、あああっ」
赤く腫れた乳首をキュッと摘まれただけで、快楽が脳髄を震わせた。
316
あなたにおすすめの小説
婚約破棄で悪役令嬢を辞めたので、今日から素で生きます。
黒猫かの
恋愛
「エリー・オルブライト! 貴様との婚約を破棄する!」
豪華絢爛な夜会で、ウィルフレッド王子から突きつけられた非情な宣告。
しかし、公爵令嬢エリーの心境は……「よっしゃあ! やっと喋れるわ!!」だった。
〈完結〉【書籍化&コミカライズ】悪妃は余暇を楽しむ
ごろごろみかん。
恋愛
「こちら、離縁届です。私と、離縁してくださいませ、陛下」
ある日、悪妃と名高いクレメンティーナが夫に渡したのは、離縁届だった。彼女はにっこりと笑って言う。
「先日、あなた方の真実の愛を拝見させていただきまして……有難いことに目が覚めましたわ。ですので、王妃、やめさせていただこうかと」
何せ、あれだけ見せつけてくれたのである。ショックついでに前世の記憶を取り戻して、千年の恋も瞬間冷凍された。
都合のいい女は本日で卒業。
今後は、余暇を楽しむとしましょう。
吹っ切れた悪妃は身辺整理を終えると早々に城を出て行ってしまった。
私が王子との結婚式の日に、妹に毒を盛られ、公衆の面前で辱められた。でも今、私は時を戻し、運命を変えに来た。
MayonakaTsuki
恋愛
王子との結婚式の日、私は最も信頼していた人物――自分の妹――に裏切られた。毒を盛られ、公開の場で辱められ、未来の王に拒絶され、私の人生は血と侮辱の中でそこで終わったかのように思えた。しかし、死が私を迎えたとき、不可能なことが起きた――私は同じ回廊で、祭壇の前で目を覚まし、あらゆる涙、嘘、そして一撃の記憶をそのまま覚えていた。今、二度目のチャンスを得た私は、ただ一つの使命を持つ――真実を突き止め、奪われたものを取り戻し、私を破滅させた者たちにその代償を払わせる。もはや、何も以前のままではない。何も許されない。
側妃の条件は「子を産んだら離縁」でしたが、孤独な陛下を癒したら、執着されて離してくれません!
花瀬ゆらぎ
恋愛
「おまえには、国王陛下の側妃になってもらう」
婚約者と親友に裏切られ、傷心の伯爵令嬢イリア。
追い打ちをかけるように父から命じられたのは、若き国王フェイランの側妃になることだった。
しかし、王宮で待っていたのは、「世継ぎを産んだら離縁」という非情な条件。
夫となったフェイランは冷たく、侍女からは蔑まれ、王妃からは「用が済んだら去れ」と突き放される。
けれど、イリアは知ってしまう。 彼が兄の死と誤解に苦しみ、誰よりも孤独の中にいることを──。
「私は、陛下の幸せを願っております。だから……離縁してください」
フェイランを想い、身を引こうとしたイリア。
しかし、無関心だったはずの陛下が、イリアを強く抱きしめて……!?
「離縁する気か? 許さない。私の心を乱しておいて、逃げられると思うな」
凍てついた王の心を溶かしたのは、売られた側妃の純真な愛。
孤独な陛下に執着され、正妃へと昇り詰める逆転ラブロマンス!
※ 以下のタイトルにて、ベリーズカフェでも公開中。
【側妃の条件は「子を産んだら離縁」でしたが、陛下は私を離してくれません】
《完結》「パパはいますか?」ある日、夫に似た子供が訪ねて来た。
ヴァンドール
恋愛
嫁いですぐに夫は戦地に赴いた。すると突然一人の男の子が訪ねて来た「パパはいますか?」
その子供の顔は戦地に行った夫にそっくりだった。
【完結】愛を知らない伯爵令嬢は執着激重王太子の愛を一身に受ける。
扇 レンナ
恋愛
スパダリ系執着王太子×愛を知らない純情令嬢――婚約破棄から始まる、極上の恋
伯爵令嬢テレジアは小さな頃から両親に《次期公爵閣下の婚約者》という価値しか見出してもらえなかった。
それでもその利用価値に縋っていたテレジアだが、努力も虚しく婚約破棄を突きつけられる。
途方に暮れるテレジアを助けたのは、留学中だったはずの王太子ラインヴァルト。彼は何故かテレジアに「好きだ」と告げて、熱烈に愛してくれる。
その真意が、テレジアにはわからなくて……。
*hotランキング 最高68位ありがとうございます♡
▼掲載先→ベリーズカフェ、エブリスタ、アルファポリス
実は家事万能な伯爵令嬢、婚約破棄されても全く問題ありません ~追放された先で洗濯した男は、伝説の天使様でした~
空色蜻蛉
恋愛
「令嬢であるお前は、身の周りのことは従者なしに何もできまい」
氷薔薇姫の異名で知られるネーヴェは、王子に婚約破棄され、辺境の地モンタルチーノに追放された。
「私が何も出来ない箱入り娘だと、勘違いしているのね。私から見れば、聖女様の方がよっぽど箱入りだけど」
ネーヴェは自分で屋敷を掃除したり美味しい料理を作ったり、自由な生活を満喫する。
成り行きで、葡萄畑作りで泥だらけになっている男と仲良くなるが、実は彼の正体は伝説の・・であった。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる