初恋の王子様が奪われてしまったので、庭付き風呂付き怪異つき古びた館に引っ越しました

束原ミヤコ

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レナード・シモンと媚薬 2

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 レナードは私の髪を撫で、目尻や頬をゆっくり撫でながら歌うように言葉を紡ぐ。

「姉さんが産まれて間も無く、僕の両親は公爵夫妻……姉さんの両親に毒をもって殺しました。簡単だったそうですよ、なんせ、僕の母は姉さんの父の妹。公爵家への出入りは、自由にできました」

「レナード、そんな作り話はよくありません」

 私は首を振る。
 レナードはこんなことを言うような子じゃなかったはずだ。

「僕の父は、元々公爵家の使用人でした。母が父と姦淫したことを知られて、二人とも公爵家から追放されたようです。けれど、母の兄は優しい人で、たびたび金の無心に来る母に、金を渡してくれていました」

 レナードは私の否定も聞かずに、作り話を続ける。
 まさか、そんなわけがないと戸惑うことしかできない私に、レナードは言う。

「それでは足りず、公爵家を乗っ取ることにしたようです。公爵夫妻の死は病死とされて、両親が公爵家に戻ると母は元々いた使用人たちに金を握らせて暇を与えました。そして、新しい使用人を雇い、生まれたばかりの姉さんを自分の子供と偽った」

「……どうしてそんな嘘をつくの? どうして……お父様とお母様はどこにいるの? 話を、させて」

「もう、いません」

「いないというのは……」

「僕が二人を衛兵に突き出しました。当時のことを知っていた使用人を探し出し、証拠の毒を添えて。今頃牢獄にいるでしょう。そして、僕が公爵家を継ぎました。国王陛下にもすでに許可を得ています」

 レナードの指が、私の頬から首筋を撫でて、剥き出しの鎖骨に触れる。
 私は布面積の少ない下着を着ている。
 そういえば、ガウンを着ていたはずなのだけれど、いつ着替えたのかしら。
 
 レナードの告げた話にも愕然としたけれど、自分の姿にもさらに愕然とした。
 布面積の少ない下着、というか。少なすぎる下着が、どう考えても私が率先して身につけるようなデザインではなかったからだ。

 肩紐はある。あるのだけれど、胸の外周をレースが包み込んでいて、大切な中央部分には布がない。
 くり抜かれている。

 もう、これは下着じゃない。紐だわ。

 つまり、私は弟の前で両胸を剥き出しにしている。
 レナードは穏やかに、心配そうに「姉さん、風邪をひいてしまいますよ」と言って私を起こしてくれた。
 もう、風邪をひくどころじゃない。
 他に言わなくてはいけないことがたくさんあるはずなのに、体の心配をしてくれるレナードは優しいわね。

 ──そうじゃなかった。
 レナードの話が衝撃的すぎて、頭が追いつかない。つい、現実逃避をしてしまった。
 でも、よく考えるとそれもそうかもしれないと思う節は多々ある。

 私は両親だと思っていた人たちにあまり似ていない。
 レナードと妹は似ている。

 両親は、私にだけ冷たかった。政略結婚の駒としか考えていないようだった。

 だから、私だけ実の子供ではないとしても、それもそうかもしれないわね……と、納得できる。

 ただ、私の実の両親の命を奪うまでしていたなんて、考えたくはないのだけれど。
 
「姉さん。あなたを救い出すことが遅くなり、申し訳ありませんでした。両親の真実に気づいたのはつい最近で、姉さんに安全な場所で暮らしてもらうために、あの二人の罪の証拠を集めるのに時間がかかってしまいました」

「ま、まって、レナード! どうして、触るの……!?」

 どういうわけか、レナードは私の剥き出しの胸にそっと触れる。
 剥き出しにしている私が悪いような気もしないでもなのだけれど、そこは胸だ。
 弟に触らせていい場所ではない。

「もう、大丈夫です。ここにはあなたを傷つける者はいない。僕がこれからは、姉さんを守って差し上げますからね」

「ま、守ってくれるのは嬉しいけれど、その、少し離れてくれるかしら……」

「姉さん。実の姉弟ではないことを知って、僕がどれほど嬉しかったかわかりますか? あなたが殿下に婚約を破棄されて、僕は歓喜しました。けれど、姉弟であれば婚姻はできません。……ですが、従姉弟ならば、問題はありません」

 レナードの手が、私の両胸をすくいあげる。
 大きめの胸は、しっかりとした男性の手の中でふわりとたわんだ。

 弟に、胸を触られている。

 私は、口をぱくぱくさせた。
 偶然手が触れたわけではなくて、明確な意思を持ってレナードは私の胸に触れている。

「ま、まって、お願い、待って……」

「鈍感なのですね、姉さん。僕はずっとあなたに劣情を抱いていたというのに。どれほど厳しい立場にあっても、気高く前を向いていた姉さんに憧れていました。憧れではなく、恋や愛だというものだと気づいてしまった時の絶望と言ったら。あなたを殺して、僕も死のうと思うほどでした」

「え……っ」

 ゾワゾワしたものが背筋を這い上がってくる。
 でも、おかしいわよね、こんなの。
 レナードが、こんなことを言うわけがないし、私の格好もどうかしている。

 もしかして、これも──ワイアット様の時と同じ、夢なのかしら。
 確かに私、すごい格好をしているのにちっとも寒くない。
 なんて夢を、見てしまっているの。

「姉さん。何を考えているのですか? 逃げようと考えているのなら無駄ですよ。姉さんには僕の子を孕んでもらいます。公爵家の跡継ぎが必要ですから、たくさん頑張りましょうね」

 口調は優しいのだけれど、レナードが怖い。別人みたいだ。
 でも、これは私の夢だから、私がレナードを歪めているわけで、悪いのは私なのよね。
 
 それでも、このまま流されるわけにはいかない。
 私が逃げようとすると、レナードは私の腰を抱いて逃げないように引き寄せる。

 片手に小瓶を手にしている。
 小瓶を傾けると、とろりとした甘い香りのする液体が、私の曲線を描く胸へとしたたり落ちた。

 冷たくはない。ぬるりとした感触の後に、液体が触れた皮膚が熱を持ち、じんじんと疼き出した。

「これは、初夜に女性の痛みをとるための媚薬です。公爵家で使用されるもので、幾度か試しましたが、かなり強力なようですよ」

「た、試したというのは、レナードには恋人がいるということでしょう?」

 レナードには婚約者がいない。
 体があまり強くないレナードは寝込むことが多く、婚約者選びは本人の意向もあって先送りにされていたし、貴族学園にも入学しなかった。
 両親はレナードには優しかったので、レナードの要求は二つ返事で受け入れられていた。

 でも、いつの間にか恋人ができていたみたいだ。
 だとしたら私とこんなことをするのは、間違っている。そもそも、事実がどうであれ私にとっては弟なのだから。

「いませんよ。メイドを使って試しました。僕は指一本も触れていませんが、理性をすぐに失うぐらいに気持ちよくなれるようですね」

 とろりとした液体に塗れた胸の突起を、レナードが弄る。

「見ないで、お願い、見ないで……ゃ、あああっ」

 赤く腫れた乳首をキュッと摘まれただけで、快楽が脳髄を震わせた。

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