22 / 67
手を繋ぐのがデフォルトになりつつある
しおりを挟む無駄話をしているうちに記念すべき学園生活第一日目の、お昼ご飯の時間が着々と無くなりつつある。
まさに無駄話だった。無駄話でしかない。クロヴィス様が待てというから、ミレニアもフィオルも待たせてしまって申し訳ない。
クロヴィス様は「何故ミレニアの番がリラなんだ、納得できない」などとまだ話し合いたいようなことを言っていたけれど、私はクロヴィス様の手を引っ張って食堂に行くことにした。
私がクロヴィス様の手をつかむと、ふさふさの先端だけ白い黒い尻尾をふって、クロヴィス様はそれはそれは嬉しそうにした。
ちょろい男である。
「いいかげんご飯を食べに行きますよ。ご飯を食べずに午後の授業とか嫌なので」
「それもそうだな。……リラと二人で食事をするのはいつぶりだろうか。これから毎日一緒に食事ができると思うと、これはもう実質結婚したようなものだな」
「違いますけど」
自信満々に良くわからないことを言うクロヴィス様を私は睨む。
「私もいますわ!」
「私もいます」
ミレニアとフィオルが手を挙げて主張した。
「三人とご飯を食べたら、三人と結婚したことになるんですか? 浮気者じゃないですか」
「違うぞ、リラ。俺の目にはリラしかうつっていない。女性としてはという話だ。無論、ミレニアも、フィオルも見えているが」
「クロヴィス様、フィオルのことを知っているんですか? さては、運命の番……」
「いや、そういうことではなくて、エンバート家は有名な商家だ。エンバート家から出る魔導士は皆優秀だということは有名だからな。フィオルも、教師たちからかなり注目されている。俺の耳にも届くほどには」
「そうなんですか? すごいわね、フィオル」
フィオルは運命の番ではなかった。
フィオルならば婚約者もいないし、私の親しい友人だし、良いかなと思ったのだけれど。
私が褒めると、フィオルは苦笑した。クロヴィス様やミレニアの手前か、「私は普通よ」と謙遜するので、今度詳しく魔法について聞いてみようと思う。
食堂は校舎一階の回廊を抜けた右端にある。
クロヴィス様の案内で、私たちは食堂に向かった。遅くなってしまったせいか、すでに食事をすませた生徒の皆様がちらほらと戻ってきている。
すれ違いざまに手をつないで歩く私たちを見ては、にこやかに会釈してくださる。
ちょっとした移動でも手を繋ぐ婚約者だと思われているわね、これは。
同じ学園に入学ができて浮かれ切っている王太子殿下の婚約者、といった感じだわ。
そんなんじゃないのに。
私たちの後ろをミレニアとフィオルが歩いている。
ミレニアはすっかりフィオルになついたようで、あれこれと話をしていた。
できれば私もそちらに加わりたい。けれど、仕方ない。クロヴィス様の介護生活も、番とやらが見つかるまでの話である。
その運命の番とやらが見つかったら私は、どうするんだったっけ。
番の方を学園から追い出すとかなんとか、言っていたかしら。私が。この状態の、私が。
そんなことをしたら――嫉妬のあまり、クロヴィス様の運命の女性を排除しようとしている恐ろしい婚約者になっちゃうのではないかしら。
今はこんなに仲睦まじいのに、番が現れてしまって――嫉妬にくるう私。
そんな感じになっちゃうのではないかしら。
そういうのでもないのに。
食堂では、シグルーンが先に待っていて、席を確保してくれていた。
私たちの姿を見つけると、手を振ってくれる。ミレニアが嬉しそうにはねながら手を振り返していた。
広い室内には六人掛けぐらいの大きなテーブルと椅子が、整然と並んでいる。食堂の入り口に食券売り場があり、食べたいランチを選ぶという仕組みのようだ。
といっても、食費は授業料に含まれているのでお金がかかるというわけではない。
ボタンを押すと券が出てくる自動券売機は、魔法を使うことができない国の大多数の人々が研究し作り上げている、蛍石を動力とする機械である。
ミレニアは自動券売機を見たのははじめてのようで、券売機の前でおろおろしていた。
10
あなたにおすすめの小説
一級魔法使いになれなかったので特級厨師になりました
しおしお
恋愛
魔法学院次席卒業のシャーリー・ドットは、
「一級魔法使いになれなかった」という理由だけで婚約破棄された。
――だが本当の理由は、ただの“うっかり”。
試験会場を間違え、隣の建物で行われていた
特級厨師試験に合格してしまったのだ。
気づけばシャーリーは、王宮からスカウトされるほどの
“超一流料理人”となり、国王の胃袋をがっちり掴む存在に。
一方、学院首席で一級魔法使いとなった
ナターシャ・キンスキーは、大活躍しているはずなのに――
「なんで料理で一番になってるのよ!?
あの女、魔法より料理の方が強くない!?」
すれ違い、逃げ回り、勘違いし続けるナターシャと、
天然すぎて誤解が絶えないシャーリー。
そんな二人が、魔王軍の襲撃、国家危機、王宮騒動を通じて、
少しずつ距離を縮めていく。
魔法で国を守る最強魔術師。
料理で国を救う特級厨師。
――これは、“敵でもライバルでもない二人”が、
ようやく互いを認め、本当の友情を築いていく物語。
すれ違いコメディ×料理魔法×ダブルヒロイン友情譚!
笑って、癒されて、最後は心が温かくなる王宮ラノベ、開幕です。
【完結】記憶喪失の令嬢は無自覚のうちに周囲をタラシ込む。
ゆらゆらぎ
恋愛
王国の筆頭公爵家であるヴェルガム家の長女であるティアルーナは食事に混ぜられていた遅延性の毒に苦しめられ、生死を彷徨い…そして目覚めた時には何もかもをキレイさっぱり忘れていた。
毒によって記憶を失った令嬢が使用人や両親、婚約者や兄を無自覚のうちにタラシ込むお話です。
【完結】虐げられて自己肯定感を失った令嬢は、周囲からの愛を受け取れない
春風由実
恋愛
事情があって伯爵家で長く虐げられてきたオリヴィアは、公爵家に嫁ぐも、同じく虐げられる日々が続くものだと信じていた。
願わくば、公爵家では邪魔にならず、ひっそりと生かして貰えたら。
そんなオリヴィアの小さな願いを、夫となった公爵レオンは容赦なく打ち砕く。
※完結まで毎日1話更新します。最終話は2/15の投稿です。
※「カクヨム」「小説家になろう」にも投稿しています。
【12月末日公開終了】有能女官の赴任先は辺境伯領
たぬきち25番
恋愛
辺境伯領の当主が他界。代わりに領主になったのは元騎士団の隊長ギルベルト(26)
ずっと騎士団に在籍して領のことなど右も左もわからない。
そのため新しい辺境伯様は帳簿も書類も不備ばかり。しかも辺境伯領は王国の端なので修正も大変。
そこで仕事を終わらせるために、腕っぷしに定評のあるギリギリ貴族の男爵出身の女官ライラ(18)が辺境伯領に出向くことになった。
だがそこでライラを待っていたのは、元騎士とは思えないほどつかみどころのない辺境伯様と、前辺境伯夫妻の忘れ形見の3人のこどもたち(14歳男子、9歳男子、6歳女子)だった。
仕事のわからない辺境伯を助けながら、こどもたちの生活を助けたり、魔物を倒したり!?
そしていつしか、ライラと辺境伯やこどもたちとの関係が変わっていく……
※お待たせしました。
※他サイト様にも掲載中
【完結】転生したぐうたら令嬢は王太子妃になんかになりたくない
金峯蓮華
恋愛
子供の頃から休みなく忙しくしていた貴子は公認会計士として独立するために会社を辞めた日に事故に遭い、死の間際に生まれ変わったらぐうたらしたい!と願った。気がついたら中世ヨーロッパのような世界の子供、ヴィヴィアンヌになっていた。何もしないお姫様のようなぐうたらライフを満喫していたが、突然、王太子に求婚された。王太子妃になんかなったらぐうたらできないじゃない!!ヴィヴィアンヌピンチ!
小説家になろうにも書いてます。
旦那様、離婚しましょう ~私は冒険者になるのでご心配なくっ~
榎夜
恋愛
私と旦那様は白い結婚だ。体の関係どころか手を繋ぐ事もしたことがない。
ある日突然、旦那の子供を身籠ったという女性に離婚を要求された。
別に構いませんが......じゃあ、冒険者にでもなろうかしら?
ー全50話ー
【完結】モブのメイドが腹黒公爵様に捕まりました
ベル
恋愛
皆さまお久しぶりです。メイドAです。
名前をつけられもしなかった私が主人公になるなんて誰が思ったでしょうか。
ええ。私は今非常に困惑しております。
私はザーグ公爵家に仕えるメイド。そして奥様のソフィア様のもと、楽しく時に生温かい微笑みを浮かべながら日々仕事に励んでおり、平和な生活を送らせていただいておりました。
...あの腹黒が現れるまでは。
『無口な旦那様は妻が可愛くて仕方ない』のサイドストーリーです。
個人的に好きだった二人を今回は主役にしてみました。
【完結】身勝手な旦那様と離縁したら、異国で我が子と幸せになれました
綾雅(りょうが)今年は7冊!
恋愛
腹を痛めて産んだ子を蔑ろにする身勝手な旦那様、離縁してくださいませ!
完璧な人生だと思っていた。優しい夫、大切にしてくれる義父母……待望の跡取り息子を産んだ私は、彼らの仕打ちに打ちのめされた。腹を痛めて産んだ我が子を取り戻すため、バレンティナは離縁を選ぶ。復讐する気のなかった彼女だが、新しく出会った隣国貴族に一目惚れで口説かれる。身勝手な元婚家は、嘘がバレて自業自得で没落していった。
崩壊する幸せ⇒異国での出会い⇒ハッピーエンド
元婚家の自業自得ざまぁ有りです。
【同時掲載】 小説家になろう、アルファポリス、カクヨム、エブリスタ
2022/10/07……アルファポリス、女性向けHOT4位
2022/10/05……カクヨム、恋愛週間13位
2022/10/04……小説家になろう、恋愛日間63位
2022/09/30……エブリスタ、トレンド恋愛19位
2022/09/28……連載開始
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる