半獣王子とツンデ令嬢

束原ミヤコ

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猫舌な男とアツアツの海老ドリア

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 ランチメニューは二つ。
 これは日替わりらしいけれど、今日は『海老ドリア』と『きのこクリームパスタ』だった。
 ホワイトソースとチーズ攻め。私はどちらも嫌いじゃないので良いのだけれど。白いものが嫌いなひとはどうするのかしら。
 海老かきのこで悩んだ私は、きのこクリームパスタにしてみた。
 フィオルは「結構庶民的なのね」とメニューを見ながら言っていた。もっと貴族貴族した豪華なメニューだと思っていたようだ。
 魔道学園内では従者に世話を焼いて貰ってはいけないとされているので、食事も割合に簡素なものなのだろう。
 海老ドリアの乗ったトレイを持ったクロヴィス様が私のきのこクリームパスタも持とうとするので、断固阻止した。
 シグルーンはミレニアの分を注文してあげた挙句、持ってあげていた。甘やかしている。
 私たちはシグルーンの確保してくれていたテーブルに、食事を持って行って座った。
 クロヴィス様は私の隣。シグルーンとミレニアも並んで私たちの正面に座っている。
 フィオルには私の隣に座ってもらった。フィオルが隣にいるだけで、安心感がすごい。
 やっとご飯を食べることができる。
 フクロダケと思われるまんまるいキノコの入ったクリームパスタの、わかりやすい味が体にしみる。
 フィオルと行った王都の下町の食堂を思い出す味だった。懐かしい。とても良い。
 ふと隣を見ると、クロヴィス様が難しい顔をして目の前の海老ドリアを見つめ続けていた。
 そういえば、猫舌だったわね。
 海老ドリアは熱いでしょうね。
 なんで選んじゃったのかしら。海老、食べたかったのかしら。
 私はちらりと横目でクロヴィス様を見た後、目の前のシグルーンとミレニアに視線を向けた。
 ミレニアがシグルーンにクリームパスタを食べさせているのを目撃してしまった。「シグ様、あーん」とか言っている。流石ミレニアだ。デレしかない。悪気もない。
 ミレニアの愛らしい様子にシグルーンもきっとご満悦だろう。表面上はそつのない美麗な次期宰相みたいな顔をしているけれど、あれの中身は変態である。

「……殿下は、番とかいうのが心配過ぎて、食欲がないのかしら?」

 商人気質で食べるのが早いフィオルが、さっさと自分の分のきのこクリームパスタを食べ終えて、囁くように私に聞いた。
 私はフクロダケをフォークで突き刺しながら、フィオルに答える。

「猫舌なのよ」

「猫舌」

「それもかなりの」

「それは、大変ね。ドリアは見つめてたって冷めないわよ。教えてあげたら?」

「クロヴィス様はお育ちが良いから、ドリアをぐちゃぐちゃにかきまわしたりはしないのよ」

「日が暮れるわよ」

 フィオルは私をじっと見つめると、にっこり笑った。

「……リラ。リラの今の状況は何となく理解できたわ。幼馴染は負けるものだけれど、リラなら大丈夫よ。殿下に、リラこそが番だと気づかせてあげなさい」

「えぇ……、気付かせるって、どうやって……」

「正面を見なさい、リラ。お手本はすぐそこにあるわ」

 私の正面にいるのは変態とデレ兎だ。

「私食べ終わりましたので、先に失礼しますね。ごちそうさまでした」

 きちんと挨拶をしたあと、フィオルは自分の分の食器を片付けて先に食堂から出て行ってしまった。
 「あとはお若い方でごゆっくり、若いって良いわね、おほほほ」と言わんばかりの姿だった。
 フィオルの姿に、巷で評判の世話焼きご婦人の姿が重なって見えた。

「……あまり、会話をしないせいでリラの友人の気分を害してしまっただろうか。すまない。……リラと友人の邪魔をしたいわけではないんだが、俺もリラと一緒にいたい」

 白い深皿にたっぷりと入った海老ドリアを難しい顔でみつめながら、クロヴィス様が気遣うように言った。
 海老ドリアを前に苦悩する、海老ドリア研究者に見えなくもなかった。

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