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自宅療養後の久々の登校
しおりを挟む先生たちが私とクロヴィス様を迎えにきてくれたのは、程なくしてのことだった。
私はクロヴィス様の腕に抱かれて山を降り、馬車に乗せられてそのまま王都にある治療院へと向かった。
お医者さんの見立てでは骨は折れて居なくて、けれどかなり酷い捻挫だから、完治するまでには一か月以上かかるだろうということだった。
切り傷は薬を塗ってもらいガーゼをあてて、足には固定のための包帯を巻かれて、もしかしたらということもあるからと念のために一日治療院で入院をした。
クロヴィス様は治療院が閉まるまで一緒にいてくれた。連絡がいったのだろう、お母様とお父様も顔を見に来てくれて、ともかく助かって良かったと無事を喜んでくれた。
翌日私はお父様のお迎えで、王都にある自宅の公爵家の屋敷に戻った。
公爵家ではルシアナがぴったりと私にくっついて離れず、足が不自由で歩くことが困難な私の世話を甲斐甲斐しいほど甲斐甲斐しくやいてくれた。
痛みがだいぶ引いたのは一週間後。それから徐々に元の生活に、体を戻し始めた。
フィオルやミレニアは暇があれば顔を見に来てくれた。
シグルーンも時々ミレニアと一緒に我が家を訪れて、私から転落時の状況を詳しく聞きたがった。
今後同じような事故が起こったら困るからという理由らしいけれど、崖崩れについてはどうしようもないと思う。
ひとは自然には勝てない。
校外学習に使用されていた山は、一時閉じることになったのだという。
また崩れては危険だし、人食い熊が現れたということもあるそうだ。
人食い熊の生息地は国の端の、もっと深い山の中だという。今ままで何度も校外学習をしてきたけれど、そんなものを見たひとは一人もいないのだそうだ。
そういわれても、居たものは居たのだから仕方ない。
魔獣もたまには住処を変えるのではないかしら。
そう言ったら、シグルーンはとても呆れた表情を浮かべていた。
リラ様は魔獣のことをもう一度勉強しなおした方が良いですよと言われた。余計なお世話である。
クロヴィス様は事故の後処理や調査などで忙しいらしく、会いに来てくれることはなかった。
一抹の寂しさを感じていたけれど、――忙しいなら、仕方ないわよね。
そう思って、自分を納得させていた。
口付けも、したのに。
気持ちが通じ合ったような気がしたのに。
それなのに、いつかの私とクロヴィス様に戻ってしまったようで、日にちが経つにつれて胸の奥にぽっかりと穴があいたような虚しさと喪失感を感じた。
フィオルやミレニアは「王都近隣に生息している魔獣の調査や、崩落した崖の修復の手配やら、他の生徒への説明やらで忙しいだけだから大丈夫」と私を励ましてくれた。
二人が言うなら、そうなのだろう。
フィオルたちが私に嘘をつくわけがない。仕方ないことなのだから、寂しくても我慢しなければいけない。
クロヴィス様と結婚して王妃になれば、国王の地位を受けついだクロヴィス様が忙しくて、あまり話もできないなんてよくあることだろう。
いちいち寂しがるほど、私は弱くもなければ面倒くさい女でもない。四六時中べたべたしている私の両親や、ミレニアやシグと、私は違う。そういうタイプじゃないのよ。
――そう自分に言い聞かせていた。
体の傷もふさがり、ルシアナが丁寧に薬を塗ったり保護布をはりかえたりしてくれていたおかげで、傷跡も残らなかった。
満足に両足で歩けるようになり、学園に戻ることができたのは崖から転落して、一か月と少しのことだった。
年末の祭典まで、あと数日。
間に合って良かった。お祭りに行きたかったし、クロヴィス様と一緒に王家の晩餐会に参加したかった。
クロヴィス様の態度が素っ気なくなってからずっと、ダンスとは縁遠い生活を送っていた。
足も治ったし、踊ることができる。本当は――結構、かなり、楽しみにしていた。
華やかなドレスで着飾って、クロヴィス様と一緒にダンスをしたい。
それから、もしクロヴィス様が一緒に行ってくれるのなら、王都の街に降りてお祭りで賑わう通りを歩きたい。
美味しいものもたくさんあるし、夜の九時には花火が打ちあがる。
夜道は危ないけれど、その日だけは皆外に出ているから街はいつまでも明るくて、警備兵も多く出ている。
だから、花火が終わるまでは家に帰らなくても大丈夫だと言われている。
ミレニアはもうドレスを準備したと言っていて、フィオルも一応参加すると言っていた。
まだ婚約者のいないフィオルは、男性からかなり人気がある。
すでに何人かから、エスコートしたいと声をかけられているらしい。
「お嬢様、無理は禁物ですよ。足が痛くなったら、休んでください。ルシアナはいつでも迎えに行きますから」
ルシアナが心配そうに、何度もそう言った。
私は「大丈夫、ありがとう」とお礼を言って、ルシアナに微笑む。
「お嬢様がツンデレじゃなくなってしまって、ルシアナは少しだけ寂しいです。けれど、素直可愛いお嬢様もまた罪深い……」
ルシアナは学生寮の玄関で、私を拝んだ。
ルシアナはいつものルシアナで、私もいつもの――というよりも、以前の私の素直さを少しだけ取り戻していた。
ただいつもと違うのは、クロヴィス様がお迎えに来てくれなかった、ということだ。
その代わり、ミレニアとフィオルが時間を合わせて私と一緒に学園の校舎へと向かってくれた。
二人は終始私を気遣ってくれたけれど、もう私の怪我はすっかり治っている。
走ったり、跳ねたりしてみせると、二人は安堵したように、あまり気を使いすぎることをやめてくれた。
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