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クロヴィス様はとうとう番を見つけたらしい
しおりを挟む私はフィオルやミレニアたちと、年末の晩餐会のための新しいドレスの色とか、その数日後にある学期末試験の話、冬休みの話などをしながら一日を過ごした。
フィオルは冬休みにはエンバート商会の手伝いで隣国に数週間滞在しに行くと言っていて、ミレニアは侯爵家に戻るのだと言っていた。
ミレニアはフィオルのエスコートの相手をしきりに聞きたがり、フィオルは苦笑しながら「特に決まっていないから、兄に頼む予定」だと言っていた。
エンバート家にはフィオルの血の繋がらないお兄さんが大勢いる。
血がつながっていないから、養子同士で結婚する場合もあるのだという。つまり、カレルさんとフィオルが結婚しても特に問題はないということだ。
そういう可能性もあるのかと思ったけれど、口に出すのは下世話な気がして言わなかった。
昼休みの食堂でも、クロヴィス様の姿を見ることはなかった。
晩餐会まであと数日。あまり時間はない。新しいドレスは、怪我をした私を慰めるためだろうか、お父様とお母様が数着作ってくれていたけれど、どの色が良いのか聞きたかったのに。
授業を終えて、放課後。
一緒に帰ろうと言う、フィオル達の誘いを断って、私はクロヴィス様を探すことにした。
ずっと冷たい態度をとっていた手前、フィオル達に「クロヴィス様はどこかしら」などと聞くのは恥ずかしくて、「図書室で休んで遅れた分を取り戻すために勉強をしたい」と適当に嘘をついた。
ミレニアとフィオルと別れた私は、放課後の校舎をひとりでうろうろと歩いた。
上級生の教室まで行くのは気が引ける。
放課後は確か、生徒会の執務室で雑務をしていると聞いていた。
だから、とりあえず執務室の方へと足を進めた。
朝や昼は今まで一緒に過ごしていたけれど、放課後私はまっすぐ寮に帰っていたので、クロヴィス様と会うことは少なかった。
クロヴィス様も当たり前だけれど暇ではない。
一年生の時から生徒会に選ばれていて、二年生になると生徒会長になったらしい。
これは推薦によるものなので、別にやりたくてやっているわけではないのだと、仕方なさそうに言っていた。
雑務が案外多いせいで「リラとの時間が削られる」と悲しそうに言っていた。
とりあえず、「頑張ってください」と返事をしていた。
崖から落ちてクロヴィス様に助けられるまでの私は、完全に意地を張って強がっていたので、クロヴィス様が放課後まで私の邪魔をしに来なくて良かった、とまで思っていた。
今思えば、婚約者の愛情に向き合おうとせず応えず、拒絶ばかりする嫌な女だったわね、私。
今更かもしれないけれど、私も少しぐらいは――ミレニアのように、素直になりたい。
校舎の最上階にある生徒会室までの階段をあがるのは、少々骨がおれた。
足はすっかり治ってはいるのだけれど、体力はあからさまに落ちている。
長い間動かさなかった足から筋肉のはりが失われていて、階段をあがっていると足が痛み、息が切れそうになってくる。
ーー情けないわね。
時間がたてばそのうち元に戻るのだろうけれど、こんな状態でヒールの靴を履いて踊るなんてできるのかしら。
情けなさと共に悲しい気持ちになりそうになって、私は軽く頭を振った。
想像で落ち込むなんて馬鹿げている。とりあえず、行動するべきだわ。
階段をのぼりきり、ふう、と深く息をついた。
政務室にクロヴィス様はいるのだろうか。もう、一か月ぐらい会っていない。
政務室まで呼吸を整えながらすすんで、扉に手をかける。
ノックをして入ろうとしたところで、中から声が聞こえて、私は動きを止めた。
別に気にすることでもないだろう。ただ、扉を開けば良いだけだ。それなのに、できない。
中から聞こえたのが、女性の声だからだ。
「――ロヴィ。リラ様が戻ってきたのに、会いに行かないの?」
思わず耳を澄ませた私に、そんな声が聞こえてくる。
心臓が、どくどくと脈打った。
女性の声は甘えるようで、その言葉からは普通とは違う親密さが滲んでいた。
いけないことだとは分かっているけれど、薄く扉を開いて中を覗き込む。
そこには椅子に座ったクロヴィス様の膝の上にしなだれかかるようにして座り、その首に腕を巻きつけているエイダの姿があった。
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