あなたのつがいは私じゃない

束原ミヤコ

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 突然の訃報 2

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 遊覧船が暗礁にぶつかり転覆をした。乗客は、ほとんど助からなかった。
 両親もその船に乗っていたが、救助された者たちの中には両親の姿はなかったのだという。

 遺体のない、静かな葬儀だった。

「メルティーナ、大丈夫……ではないな。辛いな」

 葬儀には、ディルグもすぐに駆けつけて、参列をしてくれた。
 国王や王妃からは見舞いの花や手紙が届いた。

 兄が忙しく動き回る中、ディルグは泣きじゃくるメルティーナの傍にずっといてくれた。
 リュデュック伯爵家から少し離れた墓地には、メルティーナや兄、兄嫁や、使用人たち、そして親類たちが集まっている。
 棺が用意されて、神官が祈りの言葉を捧げる。その棺は空だ。

「ディルグ様、ごめんなさい、情けない姿をお見せして……」

 ディルグは辛抱強く、メルティーナの手を握り、涙をハンカチで拭い、背をさすってくれた。
 祈りの言葉が終わると少し落ち着いたメルティーナは、自分のふがいなさを恥じて、謝罪をした。

「情けなくなどない。両親が亡くなったのだぞ? 君は泣いていい。悲しんでいい」

 ディルグは怒った顔をして、首を振る。

「ありがとうございます、ディルグ様。優しい、両親でした。大好きでした」

 メルティーナは両親を思い出して、再び涙をこぼした。
 空の棺に両親の服や靴や装飾品や、それから姿絵をおさめて、棺を埋めた。
 使用人たちからもすすり泣きの声が聞えて、兄も、声を殺して泣いていた。

 葬儀が終わり、メルティーナはディルグと自室に二人きりになった。
 兄がディルグをもてなそうとしたのを、ディルグは「メルティーナの傍にいてやりたい。俺への気遣いは無用だ」と言って断った。

「君の両親と、もっと言葉を交わしたかった。……こんなに早く亡くなるとは」
「はい。……寂しくなってしまいました」
「メルティーナ、こちらに」

 ディルグはメルティーナの手を引いて、ソファに座らせた。
 その隣にディルグも座ると、メルティーナの手を優しく握った。

「君の両親の代わりにはならないだろう。だが、俺がずっと君の傍にいる。君が寂しくないように。俺が君を守る」
「ディルグ様……」
「君は、一人じゃない。俺がいる」

 ──その恋は、その言葉は、熱病のようなもの。

「ディルグ様……っ」

 でも、今だけは信じさせて欲しかった。
 はらはらと涙をこぼすメルティーナを、ディルグはそっと抱きしめる。
 髪を撫でる手が、背中を撫でる手が、どこまでも優しかった。

 
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