あなたのつがいは私じゃない

束原ミヤコ

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あなたの優しさを、愛情を 1

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 葬儀のあとに身ぎれいにするために、侍女たちが湯浴みの準備をしてくれていた。

 王都からリュデュック伯爵家は遠い。そのため、ディルグは街の宿に宿泊する準備をしてきていた。
 ディルグの従者たちにリュデュック家に泊ることを告げると、すぐに荷物の支度がなされた。

 湯浴みをすませたディルグは、先に部屋で待っていたメルティーナを抱き上げると、ベッドにメルティーナを横たえた。

 それからランプの炎を消して、寝室のカーテンを開く。
 寝室の窓からは月と星のあかりが部屋にこぼれ落ちてくる。
 その灯りに照らされたディルグの銀の髪や尻尾は、白く輝いて見えた。

 ディルグは横たわるメルティーナの隣に、自分の体を滑り込ませた。
 ざっくり開いたシャツの隙間から、立派な首筋や鎖骨、筋肉の浮き出た胸がのぞいている。
 腕の太さも、体の大きさも、薄着になったせいでいつもよりもはっきりと感じられた。
 
 長いふさふさの尻尾がぱたりと揺れる。

「ティーナには、尻尾がないだろう? うらやましい」
「うらやましいですか……?」
「あぁ。尻尾があると、邪魔でな。仰向けに寝ることが……できなくはないが、難しい」

 メルティーナに寄り添うように、横向きにディルグは寝そべっている。
 独り寝には十分過ぎる大きさのベッドだが、背の高いディルグには狭そうに見えた。

「そうなのですね。……私は、耳と尻尾があるのがうらやましいです」
「何故?」
「ディルグ様と、同じになれますから」

 種族の差を気にしたことなど、ディルグの婚約者になるまでは一度もなかったのに。
 リュデュック家にも人獣の使用人がいる。彼らと自分の違いを考えることなど、したことがなかった。

「同じになる必要などない。君がどんな形でも、姿でも、俺は君を愛している」

 ただ──子犬を助けただけだ。
 そこにたまたま、メルティーナが居合わせただけだ。
 それなのに。

「ティーナ、手を」
「手……?」

 ディルグが差し出した手に、メルティーナは自分の手をぴたりとあわせる。 

「こうして、手を重ねられる相手が君でよかったと、俺は思っている」

 それは、メルティーナも同じだ。
 こんなに優しい人が──傍にいてくれる。
 壊れそうだった心を、優しく抱きしめるように。
 そうでなければ、メルティーナは両親の死から立ち直り、一歩踏み出すことさえできなかったかもしれない。
 食事も拒否して、部屋から出ることも拒否して──。

 頭ではわかっている。そんな姿を見せれば、亡くなった両親は悲しむだろうこと。
 けれど立ち直るまでは、長い時間がかかっていただろう。
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