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篭絡とは違うもの 1
しおりを挟むメルティーナの脳裏に、兄嫁の言葉が想起された。
ディルグに捨てられないようにするために、体を使って彼を籠絡するべきだと。
けれど、今は。これは。
違う。彼女が言っていたものとは、違うように思う。
「でぃ、る……っ、さ……っ、わ、わたし」
「怖がらなくていい。ティーナ、可愛い。ずっと、触れたかった」
ディルグの指がメルティーナの、ぷっくりと膨れた胸の頂にある二つの桃色の小さな突起を、両手の指で摘む。
くるくると優しく指でしごかれて、かりかりと指先で弾かれる。
体のさざめきがどんどん大きくなっていく。身じろぐメルティーナの首筋に、ディルグの唇があたる。
舌がぬるりと首筋を辿る。体の奥が切なさでいっぱいになって、メルティーナは体を縮こまらせた。
「ぁ……う……」
「ティーナ、すまない。君が可愛すぎて、我慢できない」
「わ、わたし、はじめてで……」
「俺も同じだ。君にもし他の男との経験があったら、俺はその男を──いや、なんでもない」
「ディルグ様……?」
「ティーナ、俺も君以外とはこんなことをしたいと思わない。君だから、触れたい」
「は、はい……」
あぁ──大丈夫なのだと、メルティーナは思う。
ディルグの瞳にともる熱も、指先の熱も本物だ。
愛しい人に求められることは、幸せだ。もちろん、こんな場所でという背徳感も禁忌も感じる。
それでも、ディルグに応えたい。
メルティーナは彼の気持ちを長い間裏切っていた。
だから今は、あなたが好きだと。心から好きだと、言葉でも態度でも伝えたいと思う。
「ディルグ様……は、恥ずかしいです、けれど……あなたの、好きに」
「……っ、あぁ、ティーナ。愛している」
ディルグはメルティーナの体を草原にひいてある敷物の上に横たえる。
薄く開いた瞳には、日の暮れだした空がうつっている。
遮るもののない空は、手を伸ばせば触れることができそうなほどに近い。
もうすぐ夜がくる。涼しい風が頬や、剥き出しの皮膚を撫でる。ディルグの長いふさふさの尾が、メルティーナの足をさらりと撫でた。
くすぐったい。でも、それだけではない。
ディルグはメルティーナに覆い被さって、もう一度唇を重ねる。
「ん、んん……っ」
「ティーナ、舌を出せ」
「ん……っ」
言われるままに舌を差し出すと、くちゅくちゅとディルグの舌で擦られる。
片手で胸をこねるように揉まれて、メルティーナの閉じた瞼から、涙が一筋こぼれた。
ちゅと、音を立てて唇が離れる。
頭の奥がじんじんして、ぼんやりしてくる。ディルグの匂いがする。
白い子犬と同じ匂いだ。よく晴れた日の、陽の匂い。
それに、僅かに甘い匂いが混じっている。メルティーナは震える指で、ディルグの髪をそっと撫でた。
ディルグはその手をとって、手のひらに口付ける。繊細な指を食んで、指と指の間に舌を這わせた。
「ディルグ様、いい、匂いが……甘い、花の……」
「……あぁ。君に、獣臭いと思われたくない。だから香水つけるようになった。似合わないだろうが……」
「そんなことは……似合います、好きな匂い。……エルダーフラワーの」
「君に出会った時に、庭園に咲いていた。……花には興味がないが、あの花は特別だ」
ディルグはメルティーナの細い手首に軽く歯を立てる。
僅かに、犬歯が尖っている。聴覚も嗅覚も、人獣は人間よりもずっと鋭い。
メルティーナはディルグに失礼のないようにと、ホワイトローズの練り香水をほんの少しだけつけていた。
メルティーナが選んだ香りに大きな意味はなかった。
それなのにディルグが香りまで──記憶を慈しむように選んでくれているのだとわかり、胸の奥が苦しいぐらいに高鳴った。
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