あなたのつがいは私じゃない

束原ミヤコ

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 運命の人 2

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 ディルグと手を繋いで、学園への道を歩いて行く。
 もうすぐ冬期休暇になる。年末にはセラフィーナの大祝賀会が催される。
 これは、王国全土で、王国民の信仰の対象である、女神セラフィーナの生誕を祝うものである。

 王城には貴族たちが集まり、祝いの会が催されて、ダンスや食事を楽しむ。
 去年メルティーナは不参加だった。
 王都に向かおうとした時には、王都に続く街道が雪で埋まってしまっていたのだ。
 父が手紙鳩を飛ばして、国王陛下に謝罪の手紙を送った。

 ──だが、メルティーナは口に出さなかったけれど、あれは父がわざと出立を後らせていたのではないかと思う。
 今思えば父は極力、メルティーナとディルグを会わせないようにしていた。
 それもメルティーナを守るためだったのだろう。

 本当は、婚約者であるメルティーナは率先して参加をしなくてはいけなかったのに。
 ディルグはそれでも怒らず、メルティーナを責めるようなこともしなかった。
 ディルグには、申し訳ないことばかりをしていた。
  
 今年は彼の隣に並ぶことができる。一緒に踊ることができるだろうか。
 着飾って、晩餐会を楽しむことができるだろうか。
 ──楽しみだ。

「……っ」

 不意に、ディルグが息を飲んだ。
 視線の先には、一人の少女がいる。
 見たことのない少女だ。メルティーナと同じぐらいの年齢だろうか。
 学園の、真新しい制服を着ている。降りしきる雪と同じような、ふわりとした白の髪に、垂れたうさぎのような耳がはえていた。

 人獣の少女である。空を見あげていた彼女は、彼女は困り果てた顔をして──メルティーナとディルグのほうに振り向いた。

 大きな桃色の瞳に、薔薇色の頬。小さな鼻と唇が可愛らしい顔立ちの少女だ。
 彼女はぱちぱちと、目をしばたかせて、じっとディルグを見つめた。
 その頬が、更に赤みを増した。その瞳が、潤んだ。

「あ──あの。わ、私、イルマール辺境伯家の三女で、ヴィオレットともうします。体が弱く、ようやく外出することができるようになって、今日、はじめての登校で……校舎に行こうとしたら、迷ってしまって」

 遠慮がちで愛らしい声が、メルティーナの心を雪雲のような暗雲で覆い尽くしていく。
 ディルグのメルティーナと繋いだ手に、痛いぐらいの力が込もる。

「──ティーナ、案内を頼めるか?」
「はい、もちろんです」

 ディルグは低い声でそれだけ言うと、メルティーナから手を離して、その場からいなくなった。

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