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果たしてそこに希望はあるか
しおりを挟むディルグはメルティーナの顔を見て、ひどく傷ついたような表情を浮かべた。
心をナイフで深く切り裂かれたような痛みが、そこにはある。
深い愛情の熱のともる瞳は、悲しみと苦渋と果てなき興奮に輝いている。
開いた扉の前に立っていたのがヴィオレットではなくメルティーナだったということへの失望が、感じられるような気がした。
考えすぎだ。気のせいだ。目の前にある事実が、メルティーナの思考を坂道を転げ落ちるように、より悪いものへと誘っていく。
「ディルグ様、申し訳ありません。具合が悪くていらっしゃるのですよね。私……帰りますね」
「ティーナ、中に。来てくれ、こちらに」
ディルグはメルティーナの腰を乱暴に引くと、執務室の内鍵をかけた。
触れる手が熱い。近づく体が熱い。
ディルグももうわかっているのだろう。心も体も、ヴィオレットを求めているということを。
それでもメルティーナを邪険にしない、彼の優しさが苦しい。
「……ティーナ。すまない。駄目だ、やはり駄目だ。俺に近づいてはいけない。今の、俺には」
「ディルグ様」
ディルグはメルティーナを抱き寄せようとした手をおろした。
その手には、血管が浮き出ている。指の先まで力がこもっている。
メルティーナは、その手に触れる。そして、遠慮がちにそっと握り締めた。
つがいが見つかると、今までの愛など全て忘れてしまうのだと、父は言った。
今までの愛など全て忘れて、ステラはいなくなった。
けれど、ディルグはそうではない。それを感じられただけ、メルティーナは幸せだ。
「ディルグ様。お辛そうです。……私で、よければ。私があなたを助けられるのなら、どうか、あなたの好きに」
「ティーナ、駄目だ」
「いいのです。私は、あなたのもの。何があっても、私の心は変わりません。ですからどうか」
ヴィオレットのかわりに、なれるだろうか。
かわりにしてくれるだろうか。今この瞬間だけでも。メルティーナのことを、彼が忘れてしまう前に。
メルティーナは制服の胸のリボンを外した。ブラウスのボタンを外すのを、ディルグは食い入るように見つめている。
スラックスの下の彼自身が固く張り詰めているのが、メルティーナにはわかる。
指を伸ばして、それに触れる。自分からディルグに触れるなどは、したことがなかった。
今は、羞恥心など捨て去らなくてはいけない。ディルグのために、できることはなんでもしたい。
ディルグがヴィオレットを求める前に。彼の心に残る愛を、少しでも、感じたい。
「触れるな。駄目だ、ティーナ」
「ディルグ様、私を、あなたの好きに。好きなように……して、ください」
布の上からでも、ディルグの熱さと硬さが伝わってくる。
ここにくるまでに、誰にも会わなかった。ディルグは人払いをして、一人になって、獣欲に耐えていたのだとわかった。
メルティーナを裏切らないように、欲望に支配されて、ヴィオレットに手を伸ばさないように。
「お願いです。それとも私では、駄目ですか。私では……」
「ティーナ……っ」
瞳が潤む。ずっと堪えていた涙が、溢れそうになってしまう。
心が、限界を迎えていた。立っていることさえできずに、ぺたんとその場に座り込んでしまう。
ディルグの前に座り込んだメルティーナをすぐに抱き上げる。
それから、乱暴に立派な政務机の上にある書類を腕でどけた。床に書類がばさばさと落ちる。床に落ちたインク壺が割れる。ペンが転がり落ちて、耳障りな音を立てた。
机の上に押し倒されたメルティーナに、ディルグが覆い被さっている。
銀の髪が頬に触れる。口付けをするときはいつも、気恥ずかしさと幸せで満ちた。
けれど今は。強引に、噛み付くように唇が重なる。
貪るように深く。激しく。
舌がメルティーナの唇を撫で、すぐに唇の狭間に捩じ込まれる。
メルティーナの両足の間に、ディルグの体がある。猛った自身を布越しに擦り付けられて、メルティーナはくぐもった声をあげた。
「ん、んぅ、ふ、ぅ……ぅ……っ」
かわりでもいい。
かわりにしてほしい。
今は与えられる熱で、満たされたい。
涙が一雫溢れて、頬をつたい落ちた。
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