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ディルグの戴冠 2
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ディルグは、メルティーナと共にフェンリスの前に立つ。
その背後には、ファティマ卿や、ジュリオやその家の者たち、リュデュック伯、兄嫁の生家の侯爵家の者たちが護衛のように並んでいる。
沢山の人たちが、味方をしてくれている。
ディルグとメルティーナの意思を尊重し、その身に降りかかった多くの不幸な出来事に憤ってくれている。
なんて──心強いことか。
「皆、聞け。ヴィオレットと俺との婚礼は、全て偽りだ。ヴィオレットはつがいだが、俺が愛しているのはメルティーナ・リュデュックただ一人。それは、今までもこれからも変わることがない」
ディルグの言葉に、人獣たちからどよめきが起こる。
多くの人獣にとって、つがいとは、絶対的な概念だからだ。
「ここには、人間も、そして人獣もいるだろう。人獣と人間の間に生まれた、双方の血を引く者もいるだろう。初代リンウィル王は言った。どのような種族でも、平等であると」
頭に動物の耳のある者も、ないものも。双方の血を引く者も。多くの物が王国には住んでいる。
この場所は、その縮図だ。
人間の姿は少なく、人獣の姿は多い。
平等の名のもとに、そこには確かな偏りがあった。
「人獣にはつがいがいて、人間にはつがいがいない。そのせいで、人獣に裏切られた人間もいるだろう。それとは逆に、人間に裏切られた人獣もいるはずだ。つがいは絶対だが、人の愛は揺らぐ。どちらが正しいかなど、わからない。だが」
ディルグは腰の剣を抜いて、その切っ先を、フェンリスに向けた。
フェンリスはフラウディーテを庇いながら、一歩後ろにさがる。
「メルティーナを愛していると言った俺から、この者たちは汚い画策をしてメルティーナを奪おうとした。ヴィオレットはその命さえ、イルマール家の兄たちに命じて奪おうとしたのだ。そのような者を妃にすることなどできない」
フラウディーテの瞳が大きく見開かれる。そして、きつくヴィオレットを睨んだ。
「なんてことを! つがいとしてディルグを繋ぎ止めることもできず、あまつさえ、メルティーナさんを殺そうとするなんて……! そんなこと、私は許可していないわ!」
「母よ、黙れ。そのうるさい口を閉じろ」
「ディルグ、お母様にむかってなんてことを……っ」
「黙れと言っている。最早お前を母とは思わん。お前がジュリオに命じて、メルティーナを俺から遠ざけるために攫わせようとしていたことは知っている」
「そ、そんなこと、私は……」
ふらつくフラウディーテを、フェンリスが支えた。
皆の非難の瞳が、王や王妃、そしてヴィオレットにそそがれている。
ファティマ卿が、息子たちの背を蹴った。
二人は床にべしゃりと転がって「申し訳ありません」「本当に、申し訳ないことをしました」と口々に言う。
勇猛果敢と評判の二人の情けない様子が余計に、ディルグの言葉に真実味を帯びさせていた。
「私は……私は、ディルグ様のつがいだもの……っ、ただ、愛されたかったの、ただそれだけなのに……っ」
「お前と言葉を交わすことは、二度とないだろう。だが最後に教えてやろう、ヴィオレット。欲しいからと、悪辣なことをしてでも奪おうとするのは──畜生以下だ。お前たちの行いは人獣の品格を地に落とすものだ。そして俺は、お前のことなど、路傍の石程度にさえ思っていない」
ヴィオレットの瞳に、涙の膜がはった。
哀れなその姿からディルグは視線を逸らすと、父王を見据える。
「父よ、俺に王位を譲れ。品位を失くし腐りはてた王の手から、王冠を奪い、俺がこの国の王となろう! 人と獣が手を取り合い、歩んで行ける国を、メルティーナと共に築こう!」
大きな歓声が、人間の貴族を中心に沸き起こる。
今まで、人獣によって傷ついたものも多くいるのだろう。メルティーナや、ジュリオだけではなく。おそらくそれは氷山の一角にすぎなかったのだ。
ディルグの宣言に励まされ、皆が声をあげはじめている。
「我らは殿下と志を共にするものだ。フェンリス王よ、我らと戦いたくなくば、殿下のいうとおりにするがいい。ヴィオレット、お前は道を踏み外した。相応の、罰を受けよ!」
ファティマ卿の怒声に、ヴィオレットは、肩を震わせた。
ウサギの耳をぴんと伸ばして、低く唸り声をあげはじめる。
「お前のせいで、お前なんかがいるせいで!」
「ヴィオレット様、確かにそうなのかもしれません。けれど、私は惑いません。ディルグ様の隣に私は立ちます。ディルグ様が望んでくださる私を、私自身が否定するわけにはいきませんから」
ヴィオレットの激しい感情が、肌をびりびりと震わせるようだった。
恨みや憎しみを一身に向けられても尚、メルティーナは前を向いた。
彼の隣に立つのは自分であると、皆に示すため。
ディルグの想いに応えるため。
そして、メルティーナを最後まで心配していた亡くなった両親に、恥じない自分でいるために。
「うるさい、黙って! あなたなんて、いなくなればいい、死んでしまえばいい!」
爪が尖り、牙が尖る。それは彼女のうさぎの耳とは違う、虎のような牙だ。
ヴィオレットの頬に、黒い縞模様が走る。
彼女は虎の姿になると、メルティーナの喉笛を食いちぎろうと飛びかかる。
ディルグは白い狼の姿になると、白い体毛に覆われて黒い縞模様のある虎を、壇上から弾き飛ばし、床の上に叩き落とした。
巨大な虎が檀上から落ちてきて、成り行きを見守っていた貴族たちは悲鳴をあげながら避けた。
まるで、汚いものに触れたくないとでもいうように。
呻き声と共に、虎がヴィオレットの姿に戻る。
彼女は胸を押さえて呻きながら、助けを求めて手を伸ばした。
けれど──誰も、その手を取ることはなかった。
その背後には、ファティマ卿や、ジュリオやその家の者たち、リュデュック伯、兄嫁の生家の侯爵家の者たちが護衛のように並んでいる。
沢山の人たちが、味方をしてくれている。
ディルグとメルティーナの意思を尊重し、その身に降りかかった多くの不幸な出来事に憤ってくれている。
なんて──心強いことか。
「皆、聞け。ヴィオレットと俺との婚礼は、全て偽りだ。ヴィオレットはつがいだが、俺が愛しているのはメルティーナ・リュデュックただ一人。それは、今までもこれからも変わることがない」
ディルグの言葉に、人獣たちからどよめきが起こる。
多くの人獣にとって、つがいとは、絶対的な概念だからだ。
「ここには、人間も、そして人獣もいるだろう。人獣と人間の間に生まれた、双方の血を引く者もいるだろう。初代リンウィル王は言った。どのような種族でも、平等であると」
頭に動物の耳のある者も、ないものも。双方の血を引く者も。多くの物が王国には住んでいる。
この場所は、その縮図だ。
人間の姿は少なく、人獣の姿は多い。
平等の名のもとに、そこには確かな偏りがあった。
「人獣にはつがいがいて、人間にはつがいがいない。そのせいで、人獣に裏切られた人間もいるだろう。それとは逆に、人間に裏切られた人獣もいるはずだ。つがいは絶対だが、人の愛は揺らぐ。どちらが正しいかなど、わからない。だが」
ディルグは腰の剣を抜いて、その切っ先を、フェンリスに向けた。
フェンリスはフラウディーテを庇いながら、一歩後ろにさがる。
「メルティーナを愛していると言った俺から、この者たちは汚い画策をしてメルティーナを奪おうとした。ヴィオレットはその命さえ、イルマール家の兄たちに命じて奪おうとしたのだ。そのような者を妃にすることなどできない」
フラウディーテの瞳が大きく見開かれる。そして、きつくヴィオレットを睨んだ。
「なんてことを! つがいとしてディルグを繋ぎ止めることもできず、あまつさえ、メルティーナさんを殺そうとするなんて……! そんなこと、私は許可していないわ!」
「母よ、黙れ。そのうるさい口を閉じろ」
「ディルグ、お母様にむかってなんてことを……っ」
「黙れと言っている。最早お前を母とは思わん。お前がジュリオに命じて、メルティーナを俺から遠ざけるために攫わせようとしていたことは知っている」
「そ、そんなこと、私は……」
ふらつくフラウディーテを、フェンリスが支えた。
皆の非難の瞳が、王や王妃、そしてヴィオレットにそそがれている。
ファティマ卿が、息子たちの背を蹴った。
二人は床にべしゃりと転がって「申し訳ありません」「本当に、申し訳ないことをしました」と口々に言う。
勇猛果敢と評判の二人の情けない様子が余計に、ディルグの言葉に真実味を帯びさせていた。
「私は……私は、ディルグ様のつがいだもの……っ、ただ、愛されたかったの、ただそれだけなのに……っ」
「お前と言葉を交わすことは、二度とないだろう。だが最後に教えてやろう、ヴィオレット。欲しいからと、悪辣なことをしてでも奪おうとするのは──畜生以下だ。お前たちの行いは人獣の品格を地に落とすものだ。そして俺は、お前のことなど、路傍の石程度にさえ思っていない」
ヴィオレットの瞳に、涙の膜がはった。
哀れなその姿からディルグは視線を逸らすと、父王を見据える。
「父よ、俺に王位を譲れ。品位を失くし腐りはてた王の手から、王冠を奪い、俺がこの国の王となろう! 人と獣が手を取り合い、歩んで行ける国を、メルティーナと共に築こう!」
大きな歓声が、人間の貴族を中心に沸き起こる。
今まで、人獣によって傷ついたものも多くいるのだろう。メルティーナや、ジュリオだけではなく。おそらくそれは氷山の一角にすぎなかったのだ。
ディルグの宣言に励まされ、皆が声をあげはじめている。
「我らは殿下と志を共にするものだ。フェンリス王よ、我らと戦いたくなくば、殿下のいうとおりにするがいい。ヴィオレット、お前は道を踏み外した。相応の、罰を受けよ!」
ファティマ卿の怒声に、ヴィオレットは、肩を震わせた。
ウサギの耳をぴんと伸ばして、低く唸り声をあげはじめる。
「お前のせいで、お前なんかがいるせいで!」
「ヴィオレット様、確かにそうなのかもしれません。けれど、私は惑いません。ディルグ様の隣に私は立ちます。ディルグ様が望んでくださる私を、私自身が否定するわけにはいきませんから」
ヴィオレットの激しい感情が、肌をびりびりと震わせるようだった。
恨みや憎しみを一身に向けられても尚、メルティーナは前を向いた。
彼の隣に立つのは自分であると、皆に示すため。
ディルグの想いに応えるため。
そして、メルティーナを最後まで心配していた亡くなった両親に、恥じない自分でいるために。
「うるさい、黙って! あなたなんて、いなくなればいい、死んでしまえばいい!」
爪が尖り、牙が尖る。それは彼女のうさぎの耳とは違う、虎のような牙だ。
ヴィオレットの頬に、黒い縞模様が走る。
彼女は虎の姿になると、メルティーナの喉笛を食いちぎろうと飛びかかる。
ディルグは白い狼の姿になると、白い体毛に覆われて黒い縞模様のある虎を、壇上から弾き飛ばし、床の上に叩き落とした。
巨大な虎が檀上から落ちてきて、成り行きを見守っていた貴族たちは悲鳴をあげながら避けた。
まるで、汚いものに触れたくないとでもいうように。
呻き声と共に、虎がヴィオレットの姿に戻る。
彼女は胸を押さえて呻きながら、助けを求めて手を伸ばした。
けれど──誰も、その手を取ることはなかった。
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