あなたのつがいは私じゃない

束原ミヤコ

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異例の婚礼

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 苦しみ呻いていたヴィオレットは、子供のように泣きじゃくりはじめた。
 なんたるざまだと嘆きながら、ファティマ卿が部下たちに、ヴィオレットと二人の息子たちを連れて行け、牢に入れろと指示をした。
 目の前で罪人が連れていかれるという一種異様な光景に、広間の貴族たちは一言も発せず、しんと静まり返っている。
 その静寂を破るように、フェンリスは人獣が被っても耳が邪魔にならない作りになっている、頭をぐるりと覆い細い十字の連なった金冠を外した。

「──ディルグ、私はなんの指示もしていない。ただ、フラウディーテの思う通りにさせていただけだ。善悪も考えず、彼女の行動は正しいのだと信じた。それが王家の繁栄のためだと、思い込んでいた」
「父よ。あなたは、かつて恋人を捨てた。あなたの行いのせいで、俺は幼い時に、あなたの捨てた恋人に殺されそうになった」

 それは、メルティーナも知らない話だった。
 ジュリオも知らなかったらしく、小さな声で「殿下が……」と呟いている。

 会場にどよめきが起こっている。おそらくは、公にされていない事柄なのだろう。
 
「殺されそうになったことなどは、どうでもいい。俺は、フラウディーテがつがいだとわかり捨てられたあなたの恋人が、俺を殺そうとするまで思いつめたことが哀れだった。あなたは彼女の痛みを理解せず、彼女を処断した。そして、俺やメルティーナの痛みを理解せず、ただフラウディーテに従った」

 ディルグは底冷えのする冷たい瞳で、父王を見据える。

「あなたは王ではない。ただの──木偶だ」

 決別を告げる声に、フェンリスはその場に崩れ落ちるように膝をつき、金冠をディルグに捧げた。
 ジュリオが前に進み出て、包帯の巻かれた両手で金冠を受け取る。
 それを、姿勢を低くしたディルグにうやうやしく被せる。

 ディルグの頭で、王の証が美しく輝いた。

「ジュリオ、王命だ。彼らはヴィオレットと共謀し、偽りの婚礼で王国民を騙した。そして、メルティーナの命を奪おうとした。連れて行け」
「御意に」

 王と王妃はディルグの指示で、ジュリオが兵を率いて大広間から連れられて行く。
 フラウディーテは息子からの決別の意思に、青ざめながら震え続けている。
 もう──何かを言う気力さえ、失ってしまったように見えた。

 メルティーナは、彼らにかける言葉を持たない。
 ただ静かに、去っていくその背を、最後まで見届けていた。

「新たな王の生誕だ、皆、祝おう! そして──本当の花嫁との婚礼の祝いを!」

 罪人が去った大広間に、ファティマ卿の快活な声が響き渡る。
 
「この、ファティマ・イルマールと、そして──こちらいにいるリュデュック伯爵が二人の見届け人となろう。異例な婚礼だが、人間と人獣を繋ぐ新たな一歩だ。つがいとは絶対的なものだと、我ら人獣は思考を放棄し考えていた。だが──」

 ディルグはメルティーナの手を取る。
 兄とファティマ卿が、あたたかい眼差しをメルティーナとディルグに向ける。

「俺は、メルティーナを選んだ。人間が愛する相手を己自身の意思で選ぶように。俺自身の意思で、彼女を選び、幸いなことに彼女も俺の想いに応えてくれた。その──数多の星の中から、ただ一人に巡り合えたような奇跡を、大切に生きていこう」

 ディルグの声が、そして瞳が、愛に満ちたものへと変わる。
 その勇ましくも魅惑的な姿に、皆が感嘆の溜息をついた。
 自然と、胸に手を当てる者がいる。
 立礼をする者がいる。
 彼が王であると──金冠がなくても、皆がディルグを認めているように思えた。

「これからはメルティーナと手を取り合い、皆のために尽くそう。未熟な王ではあるが、皆、支えて欲しい」

 ディルグの言葉に応じるように、メルティーナは深く頷く。
 そして、慈愛に満ちた笑みを浮かべた。

「私も、ディルグ様のよき伴侶となるよう、国のため、そしてディルグ様のために尽くしていきます」

 メルティーナはディルグに手を引き寄せられる。顔にかかっていた髪を、指先で払われた。
 そっと唇が触れ合い離れると、ディルグは──自信に満ちた顔で、優しく笑んだ。
 あぁ、きっともう──大丈夫。
 一つの嵐が去ったのだ。
 メルティーナの瞳から一滴の涙が伝い落ちた。
 二人を祝福する割れんばかりの拍手と歓声が、いつまでも、いつまでも続いていた。

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