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遺跡探索と雪解けの春
バルツス皇帝陛下とリアン皇女 2
フィオルド様は口元に手を当てて、喉の奥で堪えきれないような笑い声をあげた。
「可愛いな、リリィ。……私は、一人でいることが好きだった。だが、お前と二人でいる今の方が、ずっと楽しい。悩みは話すと半分になると、お前は言ったな。喜びは、二人でいると二倍になるのかもしれない」
「は、はい……きっと、そうです……!」
「お前が私の隣にいてくれて、良かった。……愛している、リリィ」
フィオルド様は握っていた私の手を引き寄せるようにした。
椅子から立ち上がると、私に覆い被さるようにして口付ける。
口付けは、紅茶の味がした。
触れるだけの口付けから、次第に深いものへと変わっていく。バルコニーとはいえ、外なのに、はしたない水音を立てながら舌を絡められるのが恥ずかしい。
けれど、求められるのは嬉しくて、私はおずおずと自分の舌を差し出した。
フィオルド様はそれに気づいたように、さらに深く激しく、ぬるぬると熱くて湿った舌を私のそれに絡めた。
「ん……ん……んん……っ」
鼻にかかった甘い吐息が、夕闇の中に響く。
風の音や小鳥の囀りと共に、私の声やくちゅくちゅという水音が、誰かに聞こえてしまうのではないかというぐらいに大きく響いている気がした。
「ふ、ぁ……」
ちゅ、と軽い音を立てて、フィオルド様は私から離れた。
それから啄むような口付けを何度かして、私の濡れた唇を指先でぬぐい、その指をぺろりと舐めた。
「……甘いな、リリィ。私の淫らな花。もっと、お前を咲かせてみたい。……だが、同時にそう思ってしまう自分は醜悪な獣だと、嫌になる。私はあの男の息子だ。あの、獣の」
「……フィオルド様……それは、皇帝陛下の?」
フィオルド様は立ち上がると、私に手を差し伸べた。
私はそのたおやかで、けれどしっかりした手のひらに自分のそれを重ねて、立ち上がった。
フィオルド様は私を連れて、バルコニーの端へと寄った。
あかりから遠ざかったために星空が、よく見える。
背後から抱きしめられて、私はフィオルド様に身を委ねた。
「バルツス・セントマリアは、獣だと、城のほとんどの者が知っている。……昔も、今も」
「快活で誰にでも分け隔てなく接する気さくな方だと、思っていました」
「それはリリィが愛らしい女性だからだろう。……あれは、女と見れば見境がない。私が生まれる前、バルツスがもっと若かった、それこそ、まだ少年と思しき程度の年頃の頃から、あれは城のメイドたちに手を出していたらしい。問題が起これば、宰相や皇帝……今はなき、お爺様が、後処理をしていたそうだ」
「そんな……」
後処理という言葉に含まれた意味に気付いて、私は青ざめた。
皇帝の血筋は守らなければいけない。
そのためには、メイドたちなどにその血を分け与えるわけにはいかない。
だから、大人たちが皆でバルツス様の後始末をしていた、ということだろう。
残酷なことだと思う。
「やがてバルツスはメイドに飽きた。そして、その毒牙を己の妹である、リアン皇女様に向けた」
「お母様に……?」
「あぁ。城にいるときには未遂に終わったそうだ。だが、バルツスが魔導学園のこの屋敷で暮らすようになり、リアン皇女も魔導学園に入学すると……あれは、リアン皇女の部屋に夜這いを。……その時はすでにロイス・セフィール公爵とリアン皇女は愛し合っていたようだから、セフィール家とバルツスの間には深い溝ができた」
「そうなのですね……」
私は俯いた。
お母様にとって、皇帝陛下は思い出したくもない相手だったのだろう。
だから今まで、極力関わろうとしなかったし、会話に登ることも極端に少なかったのね。
それは、話したくないわよね。
自分を襲おうとした、兄のことなんて。
「あぁ。そんな問題が起こってから、対策も兼ねて学園の校則がゆるくなり、寮に侍女を連れてきても構わないと、暗黙の了解になったようだな。己の妹まで汚そうとしたバルツスは今も反省した様子もなく、浮気を繰り返している。……おそらくは、母上と結ばれた頃も、ずっと同じだったのだろう。……私には母上は、あのような獣と結ばれて、不幸になったとしか思えない」
「……フィオルド様は、お城での皇帝陛下をずっと、見てきたのですね」
「政務室に女を連れ込んで享楽に耽る姿や、廊下や、庭でも……。避妊魔法が確立されたのは、バルツスの獣欲がおさまらないからだ。女に手を出すのはやめさせることができない。それなら、問題が起こらないようにするべきだと、城の魔術師たちが研究を重ねて魔法を作り上げたようだな」
「……おつらかったですね」
「……あれの子供だということが、流れる血が、……私には、汚らわしく思えてならなかった」
フィオルド様は噛み締めるように言った。
私を抱きしめる腕に、痛いぐらいの力がこもった。
感想 30
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