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2 私の家族②

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「寄付金のいらない修道院? あぁ、ど田舎のサクリスタン伯爵の領地か。僻地へきちだから金がかからないんだな。いいだろう。馬車で送ってやるよ」

 お兄様はあっさり賛成してくれた。

「ありがとう、お兄様! 修道女がお菓子を作って売るから、寄付金に頼らないんですって」
「ふーん? よかったじゃないか、お前はおしゃれより食べることが好きだもんな。あっちでぶくぶく太るなよ」

 私を上から下までながめてから笑った。
 お兄様はいつもこんな感じだから、いつもならお姉様とこっそり文句を言うのだけど、すぐに話せなくてさみしい。
 
「お母様にはギリギリまで内緒にしてほしいの」
「うるさそうだもんな、わかったよ。お前の社交界デビューがさ、気が重かったけどよかった。ドレスをあつらえずにすんだもんな。兄想いなやつだ」

「お姉様がデビュタントの時のドレスを直せばなんとかなったと思うけど……」
「古いドレスなんて直したところで流行遅れで恥ずかしい思いをしたぞ。そして馬鹿にされる」
 
 お兄様に鼻で笑われたけど、もうデビューする日は来ないし、ドレスはできればお兄様に内緒で売って寄付金や修道院までの旅費にしたい。お金はないよりあったほうがいいもの。

「お兄様、よろしくお願いします。侍女も辞めてしまうから同じタイミングで行けると嬉しいです」
 
「ああ、それはいいな。……いや、少し早めて侍女に送らせようか。……よし、今から手紙を書くから出て行け」

「ありがとう、お兄様」
「母様には決まってから報告する。うっかり漏らすなよ」
「うん、絶対に言わないわ」

 


 

 次に私はお姉様に会うことにした。
 今は王都のタウンハウスに住んでいて、前男爵夫人から色々学んでいるみたい。
 
 十二歳上の男爵は海沿いの領地を持っていて、忙しく王都と領地を行ったり来たりしているみたい。
 婚約式で初めて会った時、一度も笑わなくて時間を無駄にするのが嫌いだと言っていた。

 すぐに仕事だからと領地に戻ってしまったし、お姉様が前男爵夫人と招待客に挨拶していた記憶がある。

「レアル、今日は予定が空いていたから良かったけど、次は手紙を先に寄越すのよ。マナー違反なんだからね!」

 そう言いながらもお姉様の私室に通してくれた。
 お姉様以外いなくて、久しぶりに淹れてもらったお茶はとてもいい香りがする。

「ごめんなさい、お姉様。あのね、私、修道院に入ることにしたの」
「もう? まだ十歳よ。何かあったの?」

 真向かいに座って真剣な顔でじっと見つめてくるから少し話しづらくなってしまった。

「あの、大丈夫。お菓子を作って売る修道院があるって聞いて、寄付金もほとんどかからないの」
「本当にそれだけ?」

「……うん」
「私に嘘ついたらわかるって、忘れたの?」
「……嘘はついてないよ」
「ほら、話して。怒らないから」

 そう言われて話すと、だいたい怒られるのだけど……。
 お姉様は私が話し出すまで何も言わないつもりみたい。この沈黙が苦手で私は話し出した。

「……あのね、お母様の友だちのパルマ子爵様がベタベタしてきて嫌なの。いつも助けてくれるアダももうすぐ辞めてしまうから、屋敷にいたくない」

「はぁ⁉︎ お母様が愛人を連れ込んでるってこと? まだ喪だって明けてないのに!」
「……お友だちだって言ってた」
 
「愛人よ。お父様が生きている頃からつき合ってた……って、ごめん。こんな話聞きたくないよね。……わかったわ、これ持って行きなさいよ」

 そう言ってお姉様が大きな宝石のついたブローチを持たせてくれた。

「でも」
「一つくらいなくなっても気づかないわよ。寄付金の代わりになると思う。困った時は私に連絡して。お兄様は着飾ることとパーティーのことしか考えてないもの」
 
「ありがとう、お姉様。あのね、お兄様がお母様に内緒で進めてくれるって」
 
「それはレアルのドレスや靴代が浮くものね。一日も早く手続きを終えたいはずよ。まったく……兄と結婚する相手なんているのかしらね。貴族と繋がりたい商人の娘とならあるかもしれないけど、プライドが高いから無理かしら」

 ブツブツとお兄様の文句を言いながら、私に甘いおやつや軽食を包んでバスケットに放り込んでいく。
 痩せたみたいだから食べなさいって。
 
 ちょうどその時、ノックと同時に男爵お義兄様が入ってきた。

「ちょっといいかい? おや、お邪魔したかな?」

 私に気づいてそう言った。
 
「こんにちは、お義兄様。もう帰るところです」
 
「そう言わずゆっくりして行ったらいい。……急に領地に帰らなくては行けなくなってね。二週間ほど向こうにいるから困ったら母に聞いてほしい」
 
「わかりました。お気をつけて」

 最初は私に向けて、途中からお姉様に向けてお義兄様が言い、すぐに部屋を出て行ってしまった。

「お義兄様、忙しいのね」
「……そうよ、領地にいることが多いから義父母と一緒にいる時間が長いの。悪い人たちではないんだけど……疲れるわ。男爵様は領地に女秘書がいるから、そっちじゃないと進まない仕事があるんですって。はぁ……ここは男爵家でしょう? 伯爵家のやり方に嫌味を言われるのよね、って、ごめんごめん! 理想通り贅沢できているわよ! どんなドレスや宝石を買っても文句言われないわ……私が身につけると宣伝になるのですって」

 少しだけ寂しそうにみえたけど、お姉様はすぐに明るい笑顔になった。
 
「この間のパーティーでね、王女様にドレスを褒められちゃった! 淡い黄色の変わった布地で、珍しかったみたい。私は今の生活に満足してる。レアルは本物の修道女になるまではよく考えるのよ」

 お姉様は男爵家の侍女になるように誘わなくなったのは、屋敷の中がいつもピリピリした雰囲気だからかもしれない。
 前男爵夫人が怒鳴っているのを見たことがあるし、伯爵家うちの使用人たちよりなんとなく大変そうに見える。 
 
 貴族同士の結婚は複雑みたい。
 お姉様はおしゃべりが得意で、誰とでも仲良くできるけど、私はお菓子を作る修道女のほうが向いている気がした。
 
「うん、ありがとう、お姉様。私、修道院へ行くのが楽しみなの。着いたら手紙を書くわ」
「私も書くから、すぐに出しなさいよ」

 誰も見ていないからぎゅっと抱き合った。

「寂しくなるわ」
「うん、私もさみしい。絶対手紙書くから! お姉様」

「絶対よ。すぐに会えない距離なのがね……でもサクリスタン伯爵の領地にあるのよね」
「うん、ここからすごく遠くて山に囲まれているってアダが教えてくれたわ」
 
「そうらしいわね。男爵様の領地からはそう遠くないみたい。商売の取引をしているみたいよ。……そっちで会える日が来るといいわね」
 
「うん。美味しいお菓子を作れるようになるから!」
「楽しみにしてる」


 
 明るい気持ちで帰った私を待っていたのは、ご機嫌なお母様と子爵様だった。

「レアル、子爵様と暮らさない? その前にお試しで旅行に行きましょうよ!」
 

 
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