逆行したようなので、今度は愛が重すぎる騎士様とは別々の人生を歩みたいのですが。

能登原あめ

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16 夢と過去の現実(終) ※

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「あまりに長い夢で……あまりにも、現実の出来事のように感じて……お互いの年齢が今より上だったから夢のはずなんだ。……それでも、体温もあった。……なにより二人で幸せに暮らしていると思っていたんだ。あの日までは……。いや、やっぱり結婚したばかりで話す内容ではないな……」

 だいぶ混乱されているようです。

「……ロルフ様、そこまで聞いたら続きが気になります。それに、話してしまえば分かち合うこともできますよ」

 私の髪を撫でながらゆっくり言葉を選んで話し出しました。

「……夢の中のレイチェルは……俺の言うこと全てを受け入れる人形みたいな女の子でね。だから、俺以外の誰かの言葉に惑わされないように、愛していたし……大事に大事に人目になるべく触れないように囲ったんだ。俺以外の誰も映して欲しくなくて……外出も制限していた」

 今のレイチェルとは違うだろう?と私を見てから、遠くを見つめます。

「……だが、ある日一人で詰所にやって来たんだ。憤慨した様子の奥方が来てると言われて不思議に思いながら鍛錬場に向かった。すると、目の前で階段を踏み外して落ちていくのが見えて、走ったが……俺は助けることができなかった……」

 ふう、と長いため息をつきました。
 力強い、けれど少し早い心音が、聞こえてきます。
 その音を黙って聞いていますと、

「抱きしめた身体は温かかったのに、目を開けることもなく、どんどんと……でも、レイチェルは微笑んでいて、俺は恐怖に震えていたのに……頭がおかしくなるかと思ったよ……だから目が覚めて本当によかった……」
「……それは怖い夢でしたね」

 彼が訥々とつとつと話す夢は私にとって現実に起こったことだと思います。
 やはり、あの時私は命を落としたのでしょう。
 その後の彼は正気でいられたのでしょうか。
 
「私はこうしてここにいますし、生きています。夢はそこで終わったのですか?」

 ロルフ様は、結婚したばかりで見る夢じゃないな、と自嘲めいた笑みを浮かべました。

「……夢の中の俺は、レイチェルの愛情を独り占めしたくて……自分に性質の似た子が産まれるのが嫌で、こっそり子供ができにくくなる薬を飲んでいたんだ。夢の話だ」

 私の眉間に皺が寄ったのを見て、ロルフ様が慌てます。
 子供に私の愛情を奪われるのが嫌だったと言うことなのですね。
 確かにロルフ様に似たら、通常の子育てより手がかかったかもしれません。
 あんなに悩んだのに、勝手な男だと目の前の彼に過去の想いを重ねて、睨んでしまったのは仕方ないと思います。
 
「今、そんな薬は飲んでいないし、レイチェルが望むならいくらでも、今からでも協力するよ」
「…………今は、ロルフ様の話が聞きたいです」

 そうかと言った後、夢だと強調した上で続けました。

「レイチェルはその薬を持って俺に説明を求めに来て、事故にあったのだと、思う。それに気づいた後、俺は自分の命を差し出して……頼んだんだ」

 彼が心臓を押さえます。
 私を追いかけたということなのでしょうか?

「もう一度、一からやり直したいって。レイチェルの冷たい身体に縋りながら何度も何度も……あぁ、やっぱりおかしな夢だな。レイチェルと結婚できて幸せすぎて……不安なのかもしれない」

 いささか信じられませんが神様が不憫に思って下さって、やり直すことになったのかもしれません。
 そう考えないとこの状況に納得いきませんから。

「ロルフ様、話してくださりありがとうございます。ものすごく怖い夢でしたね。……夢で、本当によかったです。私はこうしてロルフ様のおそばにいます」
 
 それは全て本当の話だと今は打ち明けるつもりはありません。
 再度ロルフ様が私をきつく抱きしめました。
 体温を分かち合い、今生きているのだと実感します。

「レイチェル、愛している。しばらくこのままでいさせてほしい」
「ロルフ様……」

 わずかに彼の手が震えているのを感じて、愛しい、と思いました。
 それで私の方から唇を合わせました。
 結婚した翌朝に重たい雰囲気のままでいるのは悲しいです。
 私たちの間に横たわる歪みを無くしてしまいたいと、これから二人の縁を結び直したいと思い、私からロルフ様の唇を啄みました。
 まだ時間はあるでしょう。

「レイ、チェル……?」

 わずかに戸惑った様子のロルフ様の唇を舌でなぞりました。

「ロルフ様、昨日より痛くないかも、しれません」

 自ら誘うのは恥ずかしいです。
 それでも、私の太腿にロルフ様の昂まりが当たるのであと一押しでしょうか。
 ロルフ様の胸に手を当てて、もう一度唇を押しつけました。

「いいのか?」
「……優しく触れてくださるでしょう?」 

 熱の籠った瞳でロルフ様が私に乗り上げ、舌を差し入れました。

「んんっ、はぁ……」

 ロルフ様の身体が熱いです。
 昨夜の余韻の残る私の身体も、すぐに蕩けてしまいました。
 彼の指が脚の間をなめらかに滑ります。
 私の顔を見ながら密孔に指が差し挿れました。
 一本、二本と増やして甘い疼きを引き出します。
 それから、指の代わりに昂まりがゆっくりと押し入りました。

「痛むか?」
「……少し」

 正直、かなり痛みはあります。
 でもこうして触れ合うのは格別の幸せで、二人の心の距離も縮まるように感じました。
 ゆったりと大きく動かれてじわじわと押し寄せる甘い快楽に私は飲み込まれていきます。

「……ぁあっ、ロルフさまっ……!」

 頭の中に靄がかかり、絶頂に打ち震えました。
 そんな私の身体を抱き起こして、きつく抱きしめながら唇を求めます。
 なんだか、彼のたがを外してしまったかもしれません。

「レイチェル、もう少しつき合ってくれ」

 やはり夜が物足りなかったのですね。
 彼の膝の上で首筋や肩を甘噛みされたり、強く吸いつかれたりしながら身体を弄られます。
 力の抜けた私はうつ伏せにされて、後ろから彼に貫かれました。

「んっ……!」
 
 痛みより甘い疼きに支配されて、私の声は全て枕に吸い込まれていきます。
 肌を打つ音と濡れた音、それからロルフ様の荒々しい息遣いも耳に届いて私は何度目かの絶頂を迎えました。

「レイチェル……ッ!」

 ようやく、ようやくロルフ様が私の中で果てました。
 明るい日差しが部屋に差し込んでいます。

「ロルフ様……。もう少し控えめに……お願いします」
「すまない……」

 あら、叱られた犬みたいです。
 そう思ったものの。私は眠気に勝てず、意識を失うように眠りにつきました。







 ほんの少し微睡んだ私達でしたが、廊下に人の気配を感じてお互いに照れくさい思いをしました。

「レイチェル、あの夢は、俺に選択を間違うなと教えてくれたのかもしれない。……俺と結婚してよかったと思ってもらえるように鋭意努力する」
「はい。……これから何か困ったら一緒に乗り越えていきましょう」
 
 公爵令嬢がデビューした時に、彼女に隙を与えないように。

「時々、レイチェルの方が大人に感じる時がある。女性とは強いものなのだろうな」

 二十八歳までの記憶があるからかもしれません。
 思わず苦笑いを浮かべてしまいました。
 
「いや、俺が子どもなのだな。……愛しているよ」
「私も愛しています」

 どちらからともなく唇を合わせました。

 私達の結婚生活は始まったばかりです。
 これからまた、過去と同じ問題が上がるかもしれませんし、新たな問題に打ち当たるかもしれません。
 どちらにしろ、今度は向き合って過ちを繰り返さないようにしたいと思います。







               終







******


 重苦しい物語に最後までおつきあいくださりありがとうございました。


 
 
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